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「お前は用済み」と追放されたけど、俺のことが大好きな幼馴染も一緒に抜けたせいで元パーティの戦力が崩壊した件  作者: 荒火鬼 勝利


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第168話 イスカの絶望


「ダイアスさん!?」

 ユークの声が、戦場の喧騒(けんそう)を突き抜ける。


「……すまん……利き腕をやられた、いったん下がらせてもらう……」

 ダイアスは顔を(ゆが)めながら答えた。


(くそっ……俺たち以外を狙い始めたのか……! どうすれば……!)

 焦燥(しょうそう)に駆られたユークは、唇を()みしめ拳を固く握った。


「数が多すぎるわ! これじゃキリがない!」

 後衛を守るヴィヴィアンの叫びが、悲鳴のように空気を震わせる。


「次々と召喚しとるんじゃろう! 敵の数が明らかにおかしい!」

 小柄なテルルの声が、意外なほど鋭く響いた。


(召喚……そうか! まずは大本を叩かないと!)


「テルル! 召喚の魔法陣の場所は分かる!?」

 振り返りざま、ユークが叫んだ。


「むっ?、分かった。今探すから、少し待っておれ!」

 テルルは片目をつぶると、配下の虫たちと視界を共有した。


 彼女の命令に従い、無数の銀色の光虫が空を漂い、床を這い、壁を駆け巡っていく。


(……どこじゃ? どこじゃ? っ! あれかっ!)


「分かったぞ、ユーク!」

 数十秒後、テルルの声が鋭く響いた。


「よし! 場所を教えてくれ!」

 ユークは笑みを浮かべた、ようやく光明(こうみょう)が見えてきたのだ。



「はああっ!」

 ラピスの槍がマーダーエイプの腕を弾く。その隙を突き、仲間たちが攻撃してマーダーエイプを倒した。


「はっ……はぁ……」

 ラピスが息を荒げる。


「ほんとに……数が多すぎる……!」

 次のマーダーエイプを斬りつけながら、彼女は愚痴を漏らした。


(見つけた……)

 その瞬間、マーダーエイプの群れの中から異形が姿を現した。それは一つ目を持ち、四本足で床を踏み鳴らす巨人となったイスカだった。


「っ!」

 ラピスは咄嗟(とっさ)に、槍を構えるが、疲労で足が震える。


(まずい……このままじゃ……!)

 最悪の予感が脳裏をよぎる。巨人の腕が無慈悲に振り下ろされた。


「っ……!」

 反応が遅れる。避けられない――そう思った瞬間。


「おっと! そうはさせないッス!」

 刹那、双剣が(ひらめ)いた。ミモルの一撃が巨人の腕を断ち切り、その攻撃を止める。


「ぐうううっ! ……だが、腕を二本やられたくらいでっ!」

 切り落とされた二本の腕から赤い血が飛び散る。しかし、イスカの体にはなお二本の腕が残っていた。諦めることなく再び攻撃を繰り出そうとする――。


「セリスさーん! ここッス! ここにあの女がいるッスよ!」

 ミモルの大声が響いた瞬間、イスカの脳裏に、セリスの槍に切り裂かれた記憶がよみがえる。


「くっ! ここまでですか……!」

 捕捉されることを嫌い――。イスカは慌てて群れの奥へと姿を消した。


「ふぅ……」

 ラピスは槍で体を支えながら、敵が逃げたことに安堵の息を漏らす。


「ありがとう、助かったわ」


「礼には(およ)ばないッス!」

 ミモルは気楽そうに笑い返す。


「もう少しの辛抱ッスよ、ラピスさん」

励ますように言われ、ラピスは小さく首をかしげた。


「……なにかあるの?」


「ほら、ユークさんが何かやってるッス」

 ラピスがそちらを振り向くと、ユークが次々に魔法を放っている姿が目に入った。


「きっと彼なら、事態をひっくり返してくれるはずッス!」


「……そうね、ユークさんなら……」

 その言葉に、ラピスの胸にじんわりと温かいものが広がり、ほんの少しだけ疲れが和らいだ気がした。



「次はっ!」

 ユークの叫びに、テルルが応じる。


「そこの柱の影じゃ!」

 虫が舞って合図を送る。ユークは即座に詠唱へと入った。


「《ストーンボルト改》!」

 放たれた石弾が真上から一直線に飛び、床の召喚魔法陣を撃ち抜く。


 魔法陣が砕け散っていく様子に、イスカの顔が引きつった。


(くっ……なぜ、なぜこんなにも正確に……! どんどん召喚用の魔法陣が潰されていく……!)

 マーダーエイプの群れに紛れながら、イスカは奥歯を噛みしめる。


 彼女が身を潜めている間も、セリスが縦横無尽に斬り込み、マーダーエイプの数を削っていく。


 だが、今までは、それを補うように魔法陣から次々とマーダーエイプを呼び出すことで、均衡(きんこう)を保っていた。


 しかし、肝心の魔法陣そのものが減り続けている現状は、イスカにとって致命的だった。



「……見つけた」

 冷ややかな声が背後から降る。


 ぞわりと悪寒が背筋を駆け上がった瞬間、イスカが振り返るより早く閃光が走った。


「ぐっ!」

 魔槍が肉体を切り裂き、血が弾け飛ぶ。


「私を守れっ! ゴーレム!!!」

 なりふり構わず必死になって、イスカは叫んだ。


「グオオオオオ!!!」

 命じられ、最後のミスリルゴーレムが群れをかき分けて姿を現す。その巨体がイスカを守るように立ちはだかった。


(今のうちに……距離をとらなければ!)

 必死に後退するイスカ。しかし、その願いはあっさりと断ち切られる。


「邪魔っ!」

 セリスの刃が一閃。ミスリルゴーレムは盾となる間もなく、両断され崩れ落ちた。


 背後から近づく足音。死の影が迫ってくる。


(こ、怖い……!)

 イスカは思わず両腕で自分の体を抱きしめた。


 どんな傷も再生できる無敵の肉体。


 この体になってから、これまで他人事のように眺めていた“死”が、いま初めて自分に牙を剥いてきたのだ。


 不死のはずの肉体で感じる“死”の恐怖――それは、彼女の想像を遥かに超える絶望だった。



「みんな、敵から離れて!」

 ユークの声が響き渡る。その瞬間、背後から迫っていたセリスの気配がふっと消えた。


(え……? 助かっ……)

 逃げきれたと、そう錯覚した刹那。


「《フレイムピラー》!」

 アウリンの詠唱が響き渡り、炎の柱があちこちから噴き上がった。


 彼女を隠していたマーダーエイプの群れが、次々と焼き尽くされていく。


「なっ……!? マーダーエイプたちが!」

 焼け焦げた臭いと熱気が広がり、イスカの瞳に絶望が宿る。


「逃がさないっ!」

 赤熱の光を浴び、セリスが再び跳躍してきた。


「くっ……ま、まだ……!」

 イスカは必死に魔物の姿へ変じ、槍を受け止めようとする。しかし、その腕はあっさりと切り裂かれる。


「に、逃げ……なければ……!」

 勝てない――そう悟った時、すでに足は斬り落とされていた。


(か、回復が……間に合わない……!)

 切られたそばから肉体が刻まれ、再生が追いつかない。


「えっ……?」

 視界が二つに割れた。首を絶たれ、その上でさらに両断されたのだ。


 イスカの体は無数の肉片となり、床へと散らばった。



「みんな無事!?」

 ユークの叫びに、仲間たちが次々と声をあげる。


「私達は……何とか……」

 ラピスとそのパーティーメンバーが、疲労を(にじ)ませながら答える。


「すまん、俺は無理そうだ……」

 ダイアスが座り込み、片手を上げる。


「私は大丈夫よ」

 アウリンが淡々と答える。


「ちょ…っと……休みたいわ……」

 ヴィヴィアンが息を切らせて言う。


「私は大丈夫だけど、槍が少し痛たんじゃった……」

 セリスは不満そうに唇を尖らせた。


「ワシも問題ない」

 最後に、テルルが静かに返事をした。


「分かった、少し休憩しよう。アウリン、ダイアスさんに回復の霊薬を渡してあげて」

 ユークが仲間たちをまとめる。


 仲間たちはそれぞれに装備を整え、傷を癒し、息を整える。短いながらも大切な休憩の時間が、次の戦いに備えるためのわずかな余裕を与えてくれた。


「だいぶ時間を稼がれてしまった! 急ごう!」

 休憩を終え、ユークは鋭く叫ぶ。


 ――イスカの死は、決して無駄ではなかった。

 その犠牲は、博士にとって何よりも価値ある“時間”を稼がせてしまったのだから。


◆◆◆


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ユーク(LV.39)

性別:男

ジョブ:強化術士

スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)

EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫

備考:博士がやろうとしていることを目の当たりにして、改めて危険を実感した。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

セリス(LV.37)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪タクティカルサイト≫

備考:基本はマーダーエイプ相手に無双してた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アウリン(LV.38)

性別:女

ジョブ:炎術士

スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)

EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫

備考:あれを作ったのが師匠の技術だというのを知り、(おぞ)ましく思っている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ヴィヴィアン(LV.37)

性別:女

ジョブ:騎士

スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)

EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫

備考:転移封じの魔道具を、即座に使えるよう準備を整えた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

テルル(LV.40)

性別:男(女)

ジョブ:氷術士

スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)

EXスキル:氷威力上昇

備考:そろそろ、身を削る必要があると覚悟を決めた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ラピス(LV.30)

性別:女

ジョブ:槍術士

スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪テラーバースト≫

備考:怪我はなく、疲労のみ。仲間たちも同じ状態。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ミモル(LV.30)

性別:女

ジョブ:双剣士

スキル:双剣の才(双剣の基本技術を習得し、双剣の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪クロスエッジ≫

備考:ダイアスが襲われて以来、常に不意打ちに備えていた。

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ダイアス(LV.33)

性別:男

ジョブ:斧士

スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)

EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫

備考:疲労はあったが、不意打ちでなければ対処できた。

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イスカ(LV.??)

性別:女

性別:男

ジョブ:剣士

ジョブ:拳士

スキル:剣の才(剣の基本??術を習得し、剣の才??をわずかに向上させる?

スキル:拳の才(???闘??基本??術を習得し、???闘??才??をわずかに向上させる?

備考:本来の肉体を捨ててサイクロプスの体を得た。その後、博士の実験でマーダーエイプに変身できる女性の魂ごとマーダーエイプを吸収。現在の姿は、その女性の肉体をベースにしている。

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