第167話 足止め
「お待ちしておりました、ユーク様」
ゆるやかに裾を翻し、イスカは優雅な笑みを浮かべて一礼した。その声音には、どこか楽しげな響きすら宿っている。
「申し訳ありませんが、ここで引き返していただきます。博士の元へ行かせるわけにはまいりませんので」
顔を上げた彼女は、口元を裂くようにして笑う。
「全員、戦闘準備!」
ユークが短く叫ぶ。鋭い声が号令となり、仲間たちは一斉に武器を構えた。金属の擦れる音が静寂を破り、空気が緊張に包まれる。
「アイツを倒して博士のところへ急ぐぞ!」
仲間たちを鼓舞するようにユークが叫んだ。
「なるほど、ですが──」
イスカの微笑が、ひときわ艶めいて歪む。
「私も、そう簡単に倒されるつもりはありませんよ?」
言葉と同時に、イスカの身体が異様な音を立てながら膨れ上がっていく。
緑色の筋肉が盛り上がり、細身だった四肢は瞬く間に異形の塊へと変貌していった。
「な、なんだ……!?」
「くっ……!」
目の前に立つのは、悪夢をそのまま切り抜いたような怪物。
ベースとなっているのは、緑の肌と一つ目を持つ巨体のモンスター──サイクロプス。
だが、その姿は常軌を逸していた。脇腹からはマーダーエイプを思わせる長い腕が二本、肉を割いて生え、胸には苦悶に歪んだ猿の顔が埋め込まれている。
さらに腰のあたりには別の胴体が融合し、四本の足が不気味に地を踏みしめていた。
その一つ一つが、まるで独立した意思を持つかのように蠢いている。
「……グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
怪物の咆哮が、空気を裂いた。
「うわ……気持ち悪っ」
アウリンが顔をしかめる。
「なに……アレ……」
セリスが槍を握る手に力をこめた。
「まるで……二体のモンスターを……無理やり混ぜたみたい……」
ヴィヴィアンが声を振るわせながら言う。
「……ヤツには恐らくワシの技術が使われておる」
ヴィヴィアンの言葉に、テルルがうなずく。
「同じ……?」
ユークが問う。
「自身に他のモンスターを取り込み、融合しとるんじゃ……。普通より、ずっと厄介な相手じゃぞ」
テルルの声に、ユークは唇を噛む。
「来るぞ!」
ダイアスの警告と同時に、マーダーエイプの群れが雪崩れ込んできた。
「くっ!」
「数が多い!」
ラピスやダイアスが前線に躍り出て迎撃するが、群れは衰える気配を見せない。
「やあぁぁぁ!!」
セリスがまとめて切り裂く。だが、横に薙いだ魔槍は鈍く弾かれた。
「なにコレ!? 硬いのが混じってるっ!」
彼女の視線の先、そこにいたのはミスリルゴーレムだった。
(まずはアイツを仕留めないと……!)
ユークが詠唱に入ろうとした、その瞬間──。
「ふふふ……よそ見をしていて、よいのですか?」
低く甘やかな声が戦場を裂く。マーダーエイプの群れを割って飛び出したのは、再び人の姿へ戻っていたイスカ。次の瞬間、怪物の姿に変じてユークへと襲いかかる。
「っ!」
突然の不意打ちにユークは対応が出来ない──しかし、ユークを庇うように大柄な全身鎧が割って入る。
「させないわよッ!」
ヴィヴィアンの盾が、イスカの攻撃を弾いた。
「……そう簡単にはいきませんか」
舌打ちしながら、イスカは群れの中へ戻ろうとする。
「ユークを──よくもっ!」
セリスがまるで飛翔するように跳び、横薙ぎの一撃を放つ。
「はああああッ!」
鋭い閃光が怪物の胴を裂いた。
「ぐっ……さすが、ですね……」
だが、イスカの断面に光が集まり、傷が瞬時に再生していく。
「治った……!?」
セリスの驚愕を置き去りに、イスカは再び人の姿へと戻り、群れの中に姿を消した。
「ああっ、もうっ!」
セリスが悔しそうに足踏みする。
「ヤツはワシと同じだと言ったじゃろう! 頭を砕け! 脳を潰せば、再生もできんはずじゃ!」
テルルが怒鳴る。その声に応えるように、アウリンが詠唱を終えた。
「《ライトニングランス》!」
雷鳴の槍が一直線にイスカを狙う。だが、壁となったマーダーエイプに阻まれ、外れてしまう。
「ごめん! 外れた!」
アウリンが悔しそうに叫ぶ。
(いや、今ならっ!)
アウリンの魔法によって、マーダーエイプの壁が部分的に無くなり、隠れていたミスリルゴーレムの巨体がさらされていた。
「《ストーンブレイカー》!」
圧縮された石槍が雷鳴のような速度で群れを突き抜け、ミスリルゴーレムを破砕した。
「よしっ……! 邪魔だった奴を一体倒せた!」
ユークの声に力がこもる。
「アウリンはフレイムピラーで雑魚を焼き払ってくれ!」
ユークは矢継ぎ早に指示を飛ぶ。
「分かったわ!」
アウリンは返事をし、すぐさま呪文の詠唱をはじめた。
(……もう、虎の子のゴーレムが一体やられましたか)
群れに紛れたまま、イスカは冷静に状況を見極める。
(このままでは、時間稼ぎにも限界がある……ならば──!)
狙いを変えると決めた彼女の瞳に、冷たい光が宿る。
「くそっ! 一体一体は弱くても、数が多すぎる……!」
ダイアスが斧を振るい続ける。しかし押し寄せる敵は減る気配を見せなかった。
「では……あなたから、死んでいただきましょうか!」
マーダーエイプの影から、怪物の腕が振り上げられる。
「しま──!」
ダイアスが振り向いた刹那、その巨腕が横殴りに叩きつけられた。
鈍い衝撃音と共に、彼の巨体が宙を舞う。
「ダイアスさん!?」
ユークの叫びが、戦場に響いた──。
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ユーク(LV.38)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:乱戦になると、フレンドリーファイアの危険があるため苦手。
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セリス(LV.36)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:走り回りながら、マーダーエイプの群れを斬りまくっている。
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アウリン(LV.37)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:明らかにマーダーエイプの数が減ってない気がする。
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ヴィヴィアン(LV.36)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:ユークとアウリンを必死に守っている。
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テルル(LV.40)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:ぶん回せば敵に当たる乱戦は割と好き。
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イスカ(LV.??)
性別:女
性別:男
ジョブ:剣士
ジョブ:拳士
スキル:剣の才(剣の基本??術を習得し、剣の才??をわずかに向上させる?
スキル:拳の才(???闘??基本??術を習得し、???闘??才??をわずかに向上させる?
備考:テルルと同じく、魔力が尽きない限り再生することが出来るし、変身も自由。
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