第166話 交錯する思惑
セリスとディアンが激しい剣戟を交わしている頃。
「……ふうっ」
テルルは、マーダーエイプを大鎌で薙ぎ払いながら、遠くのユークたちの戦況を気にしていた。
「加勢した方がよいか? じゃが、こちらもまだ残っているし……!」
目を向けると、まだ生きているマーダーエイプが、テルルに飛び掛かろうと隙をうかがっている。
その時だった。広間の隅に倒れたカルミアの元へ、一人の女性が走っていくのが見えたのは。
テルルは、その女性に見覚えがあった。
(あ奴は、ヘリオ博士の護衛だったはず。なぜここにいるんじゃ……?)
彼女は、カルミアのそばにしゃがむと、その右腕がみるみるうちに緑色に膨れ上がり、カルミアを軽々と担ぎ上げた。
「待て! 何をするつもりじゃ!」
テルルは叫び、大鎌を構える。しかし、彼女の動きは素早く、すでに広間の奥へと走り出していた。
「くそっ……! 逃がすか!」
テルルは急いで後を追うが、マーダーエイプの一体が道を塞ぐ。その隙に、女性は闇の中へと姿を消した。
「チィッ!」
テルルは、怒りに満ちた表情で舌打ちをした。
◆ ◆ ◆
「……う……」
カルミアは、意識が朦朧としながらも、顔に当たる風の感覚で、自分がどこかに運ばれていることを悟った。
体を動かそうにも、全身が何かに締めつけられていて、動かすことができない。
(…たしか、俺はユークの魔法で串刺しにされて……)
「うぷっ!」
ドラゴンの状態でユークに殺された時のことを思い出して、その時の恐怖がフラッシュバックする。
「どうやら、お目覚めになったようですね、カルミア様」
「その声……お前、イスカか……?」
声の主は、同じ博士の配下であるイスカだった。黒髪に眼鏡をかけ、いつも紺のスーツを着ている女性である。
(……いや待て、なんだ? 記憶がおかしい……)
「……なあ、イスカ。お前、前は男じゃなかったか……?」
「……気のせいでは?」
イスカの声が一段低くなる。
「え? そうだったか? そうだったかも……」
確かに言われてみれば、気のせいだったかもと思うカルミア。
「それより、カルミア様が無事で良かったですよ」
カルミアに微笑みかけるイスカ。
「……お前、俺のこと……嫌ってたんじゃないのかよ……」
カルミアは、かろうじて目を開け、自分を担いでいる女性――イスカの顔を見つめる。
「……私はあなたを嫌ってなどいません。ただ、あなたの能力は素晴らしいのに、それを感情のままに振り回す様が、少し残念に思えていただけです。しかし、あなたの才能は間違いなく本物です。こんなところで潰えていいものではありません」
複雑な感情を滲ませてカルミアの問いに答えるイスカ。
「イスカ……お前……」
彼女の言葉は、カルミアの心に、静かだが大きな衝撃を与えた。その言葉が、彼女の本音のように聞こえたからだ。
前方に、博士の部下の姿が見えた。
「イスカ様! それにカルミア様も! どうしたのですか!?」
驚く部下の女性。
「申し訳ありませんが、彼を博士の元へ。私はここで侵入者たちの足止めをします」
イスカはそう言いながら、女性にカルミアを投げ渡した。
「わわっ!」
女性は驚きながらも、反射的にカルミアを受け止める。
「なっ! イスカ!?」
驚くカルミア。
「さあ、早く博士の元へ!」
カルミアに背を向け、宣言するイスカ。
「分かりました! カルミア様を博士の元に連れてまいります!』
女性がマーダーエイプに変身し、カルミアを担ぐ。
「あっ! おいっ!」
文句を言うカルミア。
『ではっ!』
カルミアを担いで博士の元へ向かう女性。
背後で巨体が去っていくのを感じながら、イスカは小さく呟いた。
「頼みましたよ…。カルミア様の力は、博士に必要なものですから」
イスカは、冷静にそう答えると、かすかに口角を上げた。
その表情は、これから屠殺される家畜を見るような、冷たい嘲笑のようだった。
◆ ◆ ◆
「……あれ? カルミアがいない……?」
ディアンとの戦闘が終わり、ユークはあたりを見回して呟く。
「ユーク! すまんっ! カルミアとやらが、敵に奪われた!」
テルルが、息を切らしながら駆け寄ってくる。
「奪われた!?」
ユークが驚きの声を上げる。
「ああ。取り返そうとしたんじゃが、マーダーエイプに道を塞がれて、追いつけなかったんじゃ……」
テルルが悔しそうに顔を歪める。
「……そうか……。とにかく、急いで博士の元へ向かおう! たぶん、カルミアもそこにいるはずだ!」
ユークたちは倒したカルミアの配下を縄で縛り、部屋の隅へ転がすと、先へと進むのだった。
道は、ひたすらに下へと続いていた。
「なんだか、やけに階段が長いな……」
ユークが息を切らしながら呟く。
「ずいぶん下まで降りるのね……。博士の部屋は一体どこにあるのかしら~?」
ヴィヴィアンが首をかしげる。
「もう少しで終点じゃ。何かおるぞ」
テルルが静かに言う。
しばらく進むと、開けた空間に出た。そこには、一人の女性が、二体のミスリルゴーレムと、複数のマーダーエイプを率いて待ち構えていた。その数、十体以上。
「お待ちしておりました、ユーク様。申し訳ありませんが、今博士の元へ行かせるわけにはまいりません。なので、足止めさせていただきます」
そう言って優雅に礼をするイスカ。
「全員、戦闘準備! あいつを倒して博士の元へ急ぐぞ!」
ユークが叫び、全員が武器を構えるのだった。
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ユーク(LV.38)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:足止めしてくるとい言うことは、まだ間に合う可能性がある!
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テルル(LV.40)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:ひたすら時間稼ぎに徹せられて、殲滅に少し時間がかかってしまったのじゃ
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:上級剣士
スキル:剣の扁i剣の基本??術を習得し、剣の才??を向上させる?j
備考:まだ終わってない! 俺はまだ……!
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イスカ(LV.??)
性別:女
性別:男
ジョブ:剣士
ジョブ:拳士
スキル:剣の才(剣の基本??術を習得し、剣の才??をわずかに向上させる?
スキル:拳の才(???闘??基本??術を習得し、???闘??才??をわずかに向上させる?
備考:ここまで攻め入られるとは……。スキルだけでなく能力も優秀なのですね、ユーク様は。だからこそ、逃げられたのが惜しい。
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