第164話 決着
「――《ストーンウォール》!」
石壁が勢いよく伸びて、カルミアの大きく開いた顎を無慈悲に閉ざす。
『――――!?』
吐き出されるはずだったブレスは口内で大爆発を起こし、カルミアの顔面を焼き尽くした。
『――――――――っ!!』
戦場に、カルミアの音のない絶叫が響き渡る。
そんな中、ユークは力強くガッツポーズをしていた。
(よし! 圧縮した石魔法はちゃんとカルミアにも通用する!)
そう確信したユークは、セリスに声をかける。
「セリス! 確認は出来た、もういいよ!」
「分かった!」
返事と同時に、セリスは猛然と駆け出した。
「はあああああああ!!」
カルミアが両手でガードしようとするが、セリスはそのガードの上から強引に疑似EXスキルで斬りつける。
「『スラッシュエッジ』!」
鋭く振り抜かれた魔槍が斜めに走り、カルミアの巨体を深く切り裂く。
『ぐぎゃぁああああ!!』
さらなる深手を負ったカルミアは、たまらず後退した。
「まだっ! このまま押し切る!!」
セリスは追撃の手を緩めず、カルミアは逃れるように下がり続ける。
やがて大きく翼を広げ、空へと舞い上がった。
「逃げた!?」
セリスが叫ぶ。
「なら……『フォースジャベリン』!」
セリスは逃げたカルミアに向けて、遠距離攻撃系の疑似EXスキルを放った。
「やったかしら!?」
ヴィヴィアンが、セリスの攻撃が直撃したのを見て言葉をもらす。
「だめ! 効いてない!」
セリスが首を振った。
(だったらこれはどうだ……!)
セリスの叫び声に、ユークが魔法を放つ。
「《ストーンブレイカー》!」
ユークの正面に展開された魔法陣から、超圧縮された石槍が高速で射出される。
だがカルミアは、寸前で身をひねって回避し、致命傷を免れた。
(くそっ……避けられたか!)
天井近くまで飛び上がったカルミアは、ユークの魔法を警戒しながら部屋をジグザグに駆け回る。
さすがのユークも、高度と速度を兼ね備えた相手に魔法を当てるのは難しい。
「二人とも、頼む!」
短く放たれたユークの指示に、セリスとヴィヴィアンはすぐさま頷いた。
「ヴィヴィアン、ユークを守って。ユークから絶対に離れないでね」
セリスが呼びかける。
「任せて。ユークくんは必ず私が守るわ」
ヴィヴィアンは微笑み、力強く応じた。
「じゃあ――行くわよ!」
「うんっ!」
ヴィヴィアンはそのままセリスを大きく抱え上げる。
「いっけえええええ!!」
そして、渾身の力でセリスを真上へと投げ飛ばした。
ヴィヴィアンに投げ飛ばされたセリスは、砲弾のようにカルミアへ一直線に突き進む。
「EXスキル発動――《リミット・ブレイカー》!」
セリスが投げ飛ばされる直前。ユークはEXスキルを発動。
ユークを中心に漂っていた青白いオーラがすっと消え、代わりに深く濃い青のオーラが彼の全身を包み込んだ。
『はははは! バカか!? 空中じゃあ身動きがとれねぇだろうが!』
カルミアは嘲笑いながら、セリスの方向へ向かう。だが、その嘲笑はすぐに驚きへと変わった。
『なっ!?』
空中に小さな足場が現れ、セリスはカルミアの攻撃を難なく避けたのだ。
それはユークが『ストーンウォール』の呪文を改造し、無詠唱で発動した、新しい魔法だった。
『ちぃっ! ちょこまかと!!』
「よっ! とっ!」
足場を巧みに利用し、セリスは次々と空中を飛び回る。
やがてカルミアの上を取ると、大きく息を吸ってセリスは叫んだ。
「『わっ!!!』」
彼女はラピスから得た疑似EXスキル『テラーバースト』を発動。
ドラゴンはその巨体ゆえに、翼の力だけでなく《《魔法の補助を受けて》》空を飛んでいる。
――つまり。
『なっ! おっ落ちる!?』
魔法効果を解除されてしまうと、翼だけでは飛ぶことが出来なくなってしまうということだった。
飛行魔法を打ち消されたカルミアは急速に地上へと落下していく。
そのカルミアを取り囲むように、ユークは無数の魔法陣を空中に描いた。
無詠唱魔法は魔力を直接操り魔法陣を描く技術だ。
本来、彼は一つ作るのがせいぜいだったが、EXスキルによって全能力が300%アップしているユークは、複数の魔法陣を同時に描くことすら可能になっていた。
「ストーンヘンジ!」
ユークが魔法名を叫ぶと、無数の石柱が魔法陣から下へと伸びていく。
『こんなもので!』
カルミアは石柱の檻を力ずくで破壊しようとするが、渾身の力で攻撃してもびくともしない。
『なっ! 壊れないだと!?』
「超圧縮された石柱だ。ドラゴンの力でもそう簡単には破壊なんてされはしない!」
ユークの言葉に、カルミアは愕然とする。そして、ユークはさらなる魔法を放った。
「グラウンド・ファング!」
地面に描かれた無数の魔法陣から、尖塔のような石柱が次々と伸びていく。
『っ! まさかっ!』
カルミアが焦りながら上を見る。
そこにはカルミアを閉じ込める石柱の檻に蓋をするかのように、巨大な石の牙が並んでいた。
『や、やめろおおお!!』
落下しながら何かに気づいたカルミアが、絶叫する。
「噛み砕け!!」
尖塔のような石の槍が上下に伸び、カルミアの四肢・翼・胴を容赦なく貫く。
筋肉が裂け、鱗の隙間から黒い血が噴き出す。もがけばもがくほど、槍は肉を裂き、深く刺さる。
『ぎ……あああああああっ!! や、やめろ……やめてくれぇぇぇぇ!!!』
悲鳴は広間に反響し、ユークの声が重なった。
「これで終わりだ……。カルミアっ!」
『やめろ……やめろぉぉぉぉ!!』
牙がゆっくりと閉じる、鱗を砕き、骨を軋ませる不快な音が響く。
カルミアは必死に暴れるが、無数の傷が動きを奪い、牙の進行は止まらない。
『死にたくない! た、助けてくれぇぇぇ!』
カルミアの悲痛な叫び声が広間に木霊する。
しかし、石の牙は――轟音と衝撃を伴い――容赦なくカルミアの巨体を粉砕した。
砕け散る肉片と鱗は、光の粒子へと変わり、虚空へ消える。
ドラゴンの巨体は石の牙に噛み砕かれ、絶叫は途切れた。光の粒子となって消滅したカルミアは、人間の姿に戻る。
「……なんとか。間に合ったか……」
ユークのEXスキルの効果時間が終わり、彼を包み込んでいた濃い青のオーラも消えた。
「アイツとは、色々と話したいことがあるんだ……」
ユークは時間が足りたことに安堵し、石柱を消してカルミアの元まで歩み寄っていく。
「……なあ、カル…」
倒れているカルミアに、声をかけようとした、その瞬間。
「待ってたぜぇ……」
広間の隅、闇に紛れていた男が口元だけで不敵な笑みを浮かべる。
「この瞬間をよぉ!!」
鋭い刃がユークに迫った。
「なっ!!」
「ユーク君っ!?」
油断していたユークとヴィヴィアンは反応が遅れる。
だが――
「そんなこと……私がやらせるとでも?」
セリスが割り込み、刃を弾き返した。金色の髪を翻し、凛とした瞳で敵を見据える。
その姿は、戦いの中で決して揺るがぬ強さを放っていた。
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ユーク(LV.38)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:別に無詠唱だから必要は無いが、テンションが上がってつい声に出してしまった。
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セリス(LV.36)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:ずっと、不意打ちを警戒していた。
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アウリン(LV.37)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:「噛み砕け!!」と叫ぶユークを後ろから見て、かっこいいな、自分もやってみたいなと思っていた。
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ヴィヴィアン(LV.36)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:セリスに言われてからずっと警戒していたが、最後の最後で油断してしまった。
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
備考:現在、気絶中。
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