第161話 因縁の相手
ユークたちは、薄暗いアジトの通路をひた走っていた。
足音が石床を打ち、湿った空気が肺にまとわりつく。
「……むっ」
先頭のテルルが、ぴたりと足を止めた。
「テルル?」
続くユークたちも慌てて減速し、彼女に視線を向ける。
「この先に敵じゃ。全身ミスリル製のゴーレム……厄介な相手じゃぞ」
低く告げるテルルの声に、緊張が走る。
「うーん……刃が傷むから、あんまりやりたくないなぁ」
セリスがわざと軽く言うが、その手は魔槍の柄を握りしめていた。
「刃が傷むだけで済むのか……」
ダイアスが半ば呆れたように呟く。
「じゃあ、俺の魔法で――」
ユークが一歩踏み出したその瞬間。
「待って」
鋭くも静かな声が、通路の空気を止めた。アウリンだった。
全員が彼女を見る。アウリンはゆっくりと息を吸い、真っ直ぐにユークを見つめる。
「あなたを助けるために、ずっと練習してきた呪文があるの。私にやらせてくれないかしら?」
その瞳に宿る強い意志に、ユークは迷わず頷いた。
「分かった。頼む」
「ありがとう、ユーク!」
アウリンは微笑み、詠唱に入る。
「ま、待て! プロミネンスジャベリンを詠唱する時間は無いし、フレイムランス程度じゃミスリルゴーレムは倒せんぞ!?」
テルルが慌てて声を上げる。
「アウリンがやりたいって言うんだ。きっと大丈夫だよ」
ユークは笑みを向けるが、その声には信頼と同時にわずかな緊張も混じっていた。
「いや、じゃがな……ミスリルには魔法が効きにくいんじゃぞ!」
抗議するようにぴょんぴょん飛び跳ねるテルル。
「アウリンが出来るって言うんだ、俺はその言葉を信じる」
ユークは落ち着いた声で告げる。
その直後――
「来るよっ!」
セリスの短い叫びと同時に、通路の奥から銀色の巨体が現れた。
一歩ごとに石床がわずかに沈み、重い響きが空気を震わせる。
「グオゴゴゴゴコ!」
速度は遅いが、その質量と圧迫感が迫る距離を一気に縮める。
「お、おい! 本当に大丈夫なのか!?」
「何かしたほうがいいんじゃないッスか!?」
ダイアスやミモルが騒ぐが、ユークたちは微動だにせずアウリンを見守る。
アウリンは瞳を閉じ、息を整え、淡々と詠唱を紡いでいく。
そして、ゴーレムが間近に迫ったその瞬間。
「《ライトニングランス》!」
凛とした声が響き渡った。
彼女の手から放たれたのは、火の赤と風の緑が混ざり合い、激しい光を放つ魔法の槍。
不安定ながらも、内に秘めた力は圧倒的だった。
槍は真っ直ぐにミスリルゴーレムの胸を貫く。
稲妻が鎧を伝って全身を駆け巡り、内部の魔法陣を容赦なく焼き切った。
「グ…ゴ……オ」
重い音を残し、巨体はゆっくりと沈黙する。
「すごいよ、アウリン!」
ユークが息を吐きながら言う。
「二つの属性を同時に操るなど……ワシにもできんことじゃぞ!? まさか、こんな魔法が……」
テルルは震える声で呟いた。
「ふふっ……成功してよかったわ」
アウリンは安堵の笑みを浮かべる。
「それより、急がなくていいのか? ユーク君」
ダイアスが促す。
「そうだね。ほら、テルル!」
ユークが軽く背中を押すと、テルルはハッと我に返り、再び駆け出した。
だが、前方の空気が急に重くなる。
「……この先、必ず通らねばならぬ場所がある。そこに……誰かがおる」
テルルの声が低くなる。
「避けることはできないのですか? ……壁を破壊した時のように」
ダイアスが問う。
「無理じゃ。ここから下は分厚い鋼鉄で補強しておる。壁抜けはできん」
テルルはきっぱりと首を振る。
「じゃあ、正面突破しかないね!」
ユークが前方を見据え、息を整える。
「うむ。角を曲がれば――」
角を抜けた瞬間、空気が一変した。
そこは広々とした部屋で、壁際まで石床が続き、天井は高く、淡い光が薄暗く漂っている。
奥へと続く通路が見えるが、その手前――部屋の中央に、黒いローブをまとった人影が立っていた。
フードを深くかぶり、顔は無機質な仮面で覆われている。その周囲には、無言のまま控える数人の女性たち。
ユークは息を呑み、低く名前を絞り出した。
「……カルミア」
「久しぶりだな……ユーク」
低く響く声とともに、仮面が外される。
現れたのは、かつて共に戦った仲間の顔。
そこには鋭い眼差しと、口元にはあざ笑う色が浮かんでいた。
「逃げたって聞いてたけど、わざわざ戻ってきたのか」
「カルミア……お前、博士に騙されてるぞ! あいつはお前の力を奪うつもりだ!」
ユークの声が通路に響く。
「騙されてる? あいつは俺に力をくれた。これが俺の才能、本当の力だ! 口先でどうにかなると思うなよ!」
カルミアの瞳には、迷いなど一片も見えなかった。
「カルミア!」
セリスが一歩前に出る。
「セリスか……」
一瞬だけ、カルミアの表情に翳りが差す。
「どうして! なぜユークを攫ったの!」
怒りを押し殺した声が響く。
「ちっ! 命令だったからだよ……」
苛立ちを隠さず、カルミアは吐き捨てるように言った。
「私たちはそこを通りたいの。どいてくれない?」
アウリンが冷ややかに告げる。
「はっ! どいてほしいなら……どかせてみろよ!」
カルミアの身体が、異形へと変わり始めた。
骨が軋み、皮膚が黒い鱗へと変わり、背から巨大な翼が生える。
そこに立つのは、もう人間ではなかった。
漆黒のドラゴンが、道を塞いでいた。
『お前ら程度、束になってかかってきても俺に傷ひとつ付けられやしないだろうけどな!!!』
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ユーク(LV.35)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:信じてはいたが、念のためストーンウォールを準備していた。
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:大丈夫だと思っていたが、失敗したときに備えて準備をしていた。
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:これまで複合魔法は仲間以外に見せないようにしていたが、もう街を出るのだから構わないと吹っ切れた。
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:一応。攻撃を防げるよう、いつでも飛び出せる体勢を取っていた。
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テルル(LV.40)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:後で必ず詳しく聞こうと決めた。
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ラピス(LV.30)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪テラーバースト≫
備考:ユークが言うのだからきっと大丈夫だと思った。
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ミモル(LV.30)
性別:女
ジョブ:双剣士
スキル:双剣の才(双剣の基本技術を習得し、双剣の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪クロスエッジ≫
備考:魔法のことはよく知らないので、アウリンがやったこともよく分かってはいない。
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ダイアス(LV.33)
性別:男
ジョブ:斧士
スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫
備考:勝てなくはないが、時間はかかると判断していた。
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カルミア(LV.13)
性別:男
ジョブ:荳顔エ壼殴螢ォ
スキル:蜑」縺ョ謇(蜑」縺ョ蝓コ譛ャ謚?陦薙r鄙貞セ励@縲∝殴縺ョ謇崎?繧貞髄荳翫&縺帙k)
備考:以前に軽くあしらった相手に、負けるはずがないと思っている。
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