第160話 巨人VS斧と槍
アジトの地下深くにある研究室
広い部屋の中央には、巨大な魔法陣が描かれている。
その周囲には大小さまざまな魔道具が並び、ヘリオ博士はその中のひとつ、大型の魔道具を操作していた。
「ふう……ようやく復旧が終わりそうだよ」
額の汗を拭いながら、博士が呟く。
「だいぶ時間がかかりましたね、博士」
応えたのは黒髪に眼鏡をかけ、紺色のスーツを身にまとった女性――カルミアと共にユークを攫った一人だ。
「まあ仕方がないよ。ヴォルフ君の使ったものをそのまま流用しているからね。
彼が……いや、彼女かな? 協力してくれれば短縮できたんだろうけど、なぜか怒りだしてしまったからね」
博士は心底不思議そうに首をかしげる。
「どうしてでしょうか。分かりませんね」
女性も無表情のまま小さく首を傾げた。
「ね? でもイスカ君が成功してくれて助かったよ。おかげで、ようやく僕自身で実験できる」
博士は傍らの黒髪の女性――イスカに笑みを向ける。
「ふふ。お役に立てて何よりです」
イスカも表情を変えぬまま、口角だけをわずかに上げた。
「しかし……ルーダ君は遅いね。どこまで追いかけて行ったんだろう?」
悪魔に変身する男、ルーダを思い浮かべて博士が呟く。
「私が探してきましょうか?」
直立したまま、イスカが問いかける。
「いや、先にカルミア君を呼んできてくれ。彼のドラゴンがメインになるからね。本当ならユーク君にタイタンになってもらって、巨大化も欲しかったんだが……」
博士はため息を漏らす。
「彼は妙なところで真面目だから、今もどこかでユーク君たちを待ち伏せしているんだろう」
「分かりました。それではカルミア様を呼び戻してまいります」
イスカは深く頭を下げ、足早に部屋を後にした。
「頼むよ……いよいよ長年の努力が報われる時だからね」
去っていく彼女を見送りながら、博士は魔道具の最終調整に取りかかった。
◆ ◆ ◆
「今ので気づかれたかもしれない、急ごう!」
ユークの声に仲間たちが頷く。
「でも、どうやって出るの?」
セリスが周囲を見回す。
「テルル、上でやったみたいに壁は壊せる?」
ユークが尋ねた。
「任せろ、ワシにかかればいちころじゃ!」
テルルは腕を曲げ、力こぶを作るように見せつける。
「ふむ……」
壁へ歩み寄ると、手で感触を確かめた。
「ここじゃな」
テルルが振り返る。
「準備は?」
「今、ヴィヴィアンが鎧を着てるところだから、ちょっと待って」
ユークが答える。
「わかった」
しばらくして――。
「ごめんなさ〜い! 着終わったわ〜!」
全身鎧のヴィヴィアンが駆け寄ってきた。
「いいぞ、やってくれ!」
ユークがゆっくりと頷く。
「任せろ!」
テルルの拳が壁を粉砕した。
◆ ◆ ◆
人気のないアジトの廊下を、二人の博士の部下が走っていた。
「おい! さっきの音はなんだ?」
「わかんねえよ! とりあえず調べて来いってカルミアさんが……」
訳も分からぬまま音の発生源を探すが、何も見つからない。
その瞬間――。
轟音と共に壁が吹き飛び、土煙の中から人影が飛び出した。
「っ! 侵入者か!?」
「何だ!? どうなって……」
「ぬん!」
テルルが大鎌を一閃する。
「あ?」
「……え?」
二人の体は真っ二つになり、そのまま崩れ落ちた。
「よしっ、早……」
「避けろ、テルル!」
倒したと油断したテルルに、ユークが叫ぶ。
『ぐがあああああ!!!』
巨大な腕がテルルのいた場所を粉砕した。
『ああ、やってくれたな……俺の体が真っ二つになっちまったじゃねえか……』
『いてぇ……いてぇよ……!』
そこに現れたのは、緑色の肌をした一つ目の巨人が二体。
「……あの状態で変身できるのか」
ユークが息を呑む。
「立ち止まっている場合ではないだろう!」
ダイアスが斧を片手に飛び出した。
「ユークっ! 私も行くね!」
セリスも駆ける。
『テメエらのせえで!!』
激高した巨人がダイアスへ拳を振り下ろす。
『ああああっ! ぶっ殺してやる!!』
もう一体が両手を伸ばし、セリスを捕まえようと迫る。
「遅いっ!」
ダイアスは拳を潜り抜け、腕を駆け上がって斧を振り下ろし、頭から真っ二つにした。
「てやっ!」
セリスは魔槍を振るい、巨体を瞬く間に細切れにする。
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!』
『そんな……この俺が……!』
切断された二体の巨人は光となって消え、後には男の死体だけが残った。
「ほう……なかなかやるではないか」
テルルが腕を組み、感心したように頷く。
「じゃあ博士の所まで案内してくれる?」
ユークが尋ねる。
「うむ、ワシについて来い!」
テルルが走り出す。
「よしっ! みんな行こう!」
ユークは一度振り返り、仲間たちと共にテルルを追った。
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ユーク(LV.35)
性別:男
ジョブ:強化術士
スキル:リインフォース(パーティーメンバー全員の全能力を10%アップ)
EXスキル:≪リミット・ブレイカー≫
備考:早く急ごう、逃げられてしまうかもしれない。
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セリス(LV.33)
性別:女
ジョブ:槍術士
スキル:槍の才(槍の基本技術を習得し、槍の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪タクティカルサイト≫
備考:ちょっと強かったかな?
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アウリン(LV.34)
性別:女
ジョブ:炎術士
スキル:炎威力上昇(炎熱系魔法の威力をわずかに向上させる)
EXスキル:≪イグニス・レギス・ソリス≫
備考:こういう時、魔法使いは即応できないのよね……
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ヴィヴィアン(LV.33)
性別:女
ジョブ:騎士
スキル:騎士の才(剣と盾の才能を向上させる)
EXスキル:≪ドミネイトアーマー≫
備考:この鎧は着るのが楽で助かるわ~
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テルル(LV.40)
性別:男(女)
ジョブ:氷術士
スキル:≪アイスアロー≫(使用不能)
EXスキル:氷威力上昇
備考:いや、真っ二つにしても反撃してくるとは思わんじゃろ?
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ダイアス(LV.33)
性別:男
ジョブ:斧士
スキル:斧の才(斧の基本技術を習得し、斧の才能をわずかに向上させる)
EXスキル:≪ブレイクスラッシュ≫
備考:セリス君はすごいな……
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