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日本異世界始末記  作者: 能登守
2027年
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悪霊退散

 大陸総督府官邸


 大陸総督府は日本風の城の形で建築されている。

 日本本国から遠く離れ、大陸に移民した日本人達の情緒や精神安定を図るのが目的と計画書には書かれている。

 本当は計画担当者の趣味だったのは最高機密に指定された。

 総督府は通称新京城と呼ばれ、天守閣を中心に北、東、西の小天守閣を連結させた5層5階地下1階の本丸天守閣は、外観に反して鉄筋コンクリート製の総督府のオフィスビルという残念な仕様である。

 天守閣から見て南側に本丸御殿が造られ、総督官邸として使用されている。

 匠の力で木造平屋建ての書院造りの表書院は、総督一家の居住区となっており、内装は総督夫人の趣味により洋風になっている。

 この日の総督夫人は福崎市に市役所ビル落成のパーティーに出席の為に留守であり、秋月総督は一人で大きめなダブルベッドで大の字になってイビキをかいて寝ている。

 秋月総督の体毛を仕込んだ人形に導かれ、ネッセル司祭は本丸御殿に『御遣い』として顕現して秋月総督の寝室に現れた。


「御覚悟を、総督閣下」


 秋月総督の精気を奪うべく手を伸ばすが、御殿内に警報が鳴り響いた。

 機械による警報では無く、魔力を検知する魔導器がベッド脇の机に置かれていた。

 さすがに青木陸将が最初に襲われて20日は経っている。

 総督府要人や自衛隊幹部も各々で身を守る対策を講じる時間は十分にあった。

 日本の宗教勢力との協力に加え、王国貴族から献上或いは没収された魔導器が研究所や倉庫から引っ張り出されて分配された。

 その中の1つが魔力を検知して警報を鳴らす魔導器で、魔力を検知すると鳥の鳴き声で知らせてくれる。

 警報で起き上がった秋月総督はベッドの下に転がり落ちて、ネッセル司祭の手を逃れる。


「よ、夜這いか!!」


 今までにも総督と懇意になろうと王国貴族から差し向けられた令嬢や高級娼婦、或いは貴族夫人本人という前例が脳裏を掠める。

 だが目の前にいるのは大柄な男なので、まだ少し寝ぼけているようだ。

 夜這いと勘違いされたネッセル司祭は、不本意そうな顔をしている。

 ネッセル司祭の何かを言いたそうな顔に、秋月総督はここ何週間か新京を騒がせていた事件を思い至る。


「曲者か、であえ~であえ~!!」


 襖が開いて黒服のSP達が何人も出てくる。

 全員が拳銃や警棒を構えるが、相手の正体を悟り近寄るのを止める。

 優先は秋月総督の保護で、ネッセル司祭との間に数人が立ちはだかる。

 完全武装の自衛官すら退けたネッセル司祭は、SPなどものの数では無いと最初の1人に掴みかかり、精気を奪って倒すが2人目に斬りつけられた。

 ネッセル司祭は精神体の自分が斬り付けられた事に驚愕する。

 SPが持っていた得物はやはり献上品の魔力が付与された剣だった。


「小癪な」


 所詮は魔力の付与されただけの武器で、所持しているのは一人だけだ。

 斬られた感触ではたいしたダメージは食らって無く、百太刀斬られても問題は無さそうだった。

 だが新たに入ってきた白い頭巾で顔を隠し、黒い着物を纏った男達が入室して来てネッセル司祭を囲む。


「何者だ貴様ら?」


 それには答えず、ネッセル司祭に各々が持っ武器を振るってくる。


「六根清浄!!」

「悪霊退散!!」


 日本仏教会から派遣された寺を実家に育ち、寺を継げない次男以降で武道の心得を持つもので組織された僧兵達だ。

 彼等を率いるのは円楽で薙刀を構えて、他の僧兵達も鉄の熊手、大槌、大鋸、刺又、突棒、袖搦にも魔力が籠められていた。

 円楽と僧兵達の武器には円楽の長男剛が『加持』を施している。

『加持』とは、仏の作用や功徳などの力を付与する法力である。


「やれやれ間に合ったか、さあて退いてはくれないのだろうな」


 薙刀を構える円楽はネッセル司祭と対時する。

 さすがにこれだけの数を相手にしては苦戦は免れない。

 しかし、ネッセル司祭に戦闘どころでは無い事態が襲いかかる。


「ぐっ!?」


 ネッセル司祭は突然に苦悶の声をあげて、床に膝をつく。

 その『御遣い』の精神体に次々と穴が開き、欠損していくのだ。


「おのれ本体を狙ったな?」




 同時刻

 王都ソフィア上空


 セスナ 208 キャラバン、単発ターボプロップ汎用輸送機を、陸自が改修したAC-208J コンバットキャラバンが王都ソフィアに到達していた。


「吉田一尉、細川二尉、あれを見てください!!」


 パイロットの奥村一曹が指差す方角に二人は目をやる。

 王都とはいえ、ソフィアの町は繁華街や貴族街を除けばろくに灯りも無い街並みだ。

 油が高価な為に太陽が落ちれば庶民は寝てしまう為だ。

 しかし、2人が観た光景は下町の民家が攻撃ヘリの攻撃を受けて爆発炎上しているというものだった。

 暗い街並みに爆発炎上する民家は大変目立っていた。


「あれは地下祭壇のある場所だ」


 同乗していたジダン団長の言葉に2人は絶句する。


「あれはハインドの陸自仕様です」


 奥村一曹が機体の所属を特定するが、こちらはソフィア駐屯地に向かうしかない。


「おい、あの飛行機械が進路を変えたぞ!!

 王都の大神殿の方角だ!!」


 ジダン団長の悲鳴に似た訴えにより、吉田一尉は命令する。


「奥村一曹、あの機体を追って!!」

「り、了解!!

 しかし、追ってどうするんです?」

「まずは交信で呼び掛けるわ。

 それでも駄目なら奥村一曹、あの機体が射程距離に入ったらロックオンしなさい」







 ソフィア上空

 攻撃ヘリMi-24機内


 機長の桜井一尉はご機嫌だった。

 自衛隊に恥をかかせた邪教徒のアジトを12.7mm 4銃身ガトリング機銃で蜂の巣にしてやった上に、粉々になったバリケードや床板に向けてロケット弾を連射出来たのだ。

 あれで生き残っている者など、いるはずがない。

 地下祭壇の掃討は地上の即応部隊に任せることになっていたが、老若男女関係無く肉塊に変わっており後始末以外にすることはないだろう。

 続いて受けた命令が御機嫌だった。

 邪教徒の本拠地である王都大神殿に残った火力を全て叩き付けろというものだった。


「うちの連隊長はわかってるよな。

 王都の連中や残党軍の連中に見せつけるように派手にやれと」


 東部の第16師団は地元と融和政策を行っているが、この中央部や南部では残党軍によるテロや王国貴族との小競り合いなど日常茶飯事である。

 再び日本の力を王国に見せ付ける必要があるとの主張が、最前線にいる第17即応機動連隊では高まっていた。

 新参の第34普通科連隊はまだまだ脇が甘い。

 第17即応機動連隊は王都に花火を打ち上げる機会を伺っていたのだ。


「機長、通信が。

 後方を飛んでるAC-208Jからです」


 副操縦士の植野三尉が悦に入っいた桜井に伝えてくる。


「何て言ってる?」

「攻撃を中止せよと、第16師団の師団長付き副官吉田香織一尉からです」


 桜井はマイクを握って、AC-208Jに返信する。


「管轄違いだ、引っ込んでろ」


 返信と同時にロックオンの警報が機内に鳴り響く。

 AC-208JにはAGM-114 ヘルファイアIIが搭載されている。

 ミリ波レーダーによるアクティブレーダー誘導がハインドのレーダー警戒装置が反応したのだ。

 もちろん実際には発射されていないし、空対空ミサイル《AAM》でも無いからそうそう当たるものでもない。

 それでもベテランの桜井は的確に回避行動を取ってしまう。


「あのアマ、やる気か!!」


 ほとんど無意識な回避行動だが、減速した瞬間にAC-208Jがハインドを追い抜いていく。

 もともとスピードはAC-208Jの方が速い。

 そして、着陸には300mほどの着陸距離があればいい。

 大神殿の正面は大勢の民衆に説教をする為に石畳の広大な広場になっている。

 多少の悪路もセスナなら問題はない。

 前方を取られたと桜井一尉は悪態を付くが、さすがに友軍機は攻撃出来ない。


「司令部に指示を仰ぐ。

 まったく面倒なことを!!」






 大神殿正面広場


 昼間は大勢の参拝客が賑わうこの場所も、深夜になると閉鎖されて無人になる。

 その広場にAC-208Jが着陸して走行する。

 さすがに警備にあたっていた神官戦士達が接近するが、AC-208Jの勢いに散開して逃げ出して距離を取る。

 動きが止まると再び包囲するように集まり、中からジモン団長が出てくると、膝をついて礼をつくす。


「あとは任せたまえ。

 大主教猊下の聖意は信徒ならば絶対だ。

 これで手打ちだよ」

「私も行きます。

 総督府による本領安堵の朱印状を公式に伝えないと」


 吉田一尉はジモン団長にエスコートされて、大神殿に入っていく。


「終わったな」


 細川は二人を見送り、事態を関係者に伝えるべくAC-208Jの機内に戻る。

 隣にハインドも着陸して来て、桜井達が降りてきた。


「総督府から正式な命令が届いたから攻撃は中止する。

 だがよくもロックオンなんかしやがったな?

 てめえかパイロットは?

 さっきのアマはどこに行きやがった?」


 外で喫煙していた奥村一曹が首根っ子を掴まれて揺らされている。

 植野三尉が必死で止めているが、細川二尉は暫く機内に隠れてることにした。






 同時刻

 新京特別区

 総督府官邸


 ネッセル司祭の精神体はすでに『御遣い』の力を無くしていた。

 本体の欠損に合わせて、精神体も欠損しているが、まだ死んではいない。

 肉体は死んだが、精神体としてネッセル司祭はまだ意識を保っていた。

 その哀れな姿に円楽は手を合わせて念仏を唱えてから薙刀で斬りつける。


「もはやただの悪霊の類いですな」


 隙あらば魔力や法力を付与された武器を持つSPや僧兵達が斬り付け、叩き付けて精神体を削ぎ落としていく。

 聖なる守護は無くなり、駆けつけてきた自衛官達のショットガンによる塩弾の攻撃も効果が出ている。

 肉体が無いので、細切れにされてもまだ生きている。

 足を切り落とされても這ってでも秋月総督に向かってくる。

 腕が落とされて、胴が砕かれ、首だけが転がりながら向かってくる。

 携帯で通話していた秋月総督は首だけの精神体に語りかける。


「嵐と復讐の教団、総大主教からの言葉を伝える。

『今はまだその時ではない』だ、そうだ」


 その言葉が本当に総大主教から発せられたかはネッセル司祭に確かめるすべはない。

 それでも何か納得したような顔を浮かべ四散して消えていった。



 翌朝の総督府はようやく警戒令の解除が発布された。


「テーベの町には公安と自衛隊による監視を兼ねた連絡所を開設します。

 信徒達の代替わりまでは、警戒にあたりますが、表向きは周辺の資源調査の事務所ということになります」


 朝になってから出勤してきた秋山補佐官が寝不足の秋月総督に事後処理の草案を説明する。


「ソフィアの町の信徒達はどうするのかな?

 宰相府からも抗議が来るんだろうな」


 考えただけで憂鬱になる。


「抗議に付いては山のように来ていますので、後でお目を通して下さい。

 今回の事件に関与した信徒達は王国軍が拘束する模様です。

 おそらく大半が大陸を追放になるだろうと。

 その家族についてはお咎め無しの王命が下されました」


 王国の対応が早かったのは教団を支援していた最大の貴族ラキスター伯爵家公子が、伯爵の急病により事態の推移を宰相府に説明していたおかげらしい。

 さすがに王都で暴れまわったのは陳謝が必要であろうことは、秋月総督も考えていた。


「問題は身内だな。

 第17即応機動連隊の動きには行き過ぎの傾向が見られたとか」

「裁量権の範囲でもあります。

 そういう性格の部隊として育てたのも事実ですが、今後は少し首に鈴をつける必要があると思います」


 年明けには樺太で編成中の第51普通科連隊が大陸に到着する。

 彼等を中央部に配備して、第17即応機動連隊の管轄区域を狭めるのが当面の対策だった。


「第16師団の再配置も進めないといけないが、僧兵達の件はどうする?

 協力に報いないと祟られそうだな」

「フィノーラに寺院を建てたいと要望が出ています。

 このあたりが妥協線かと」


 フィノーラはリチウムやカリウムの鉱山がある東部の街で、現在は第16即応連隊から派遣された第二分遣隊が管理している。

 日本人による技術指導で鉱山は運営されており、将来的に日本が割譲を計画している地でもある。


「しかし、寺院の武装化か。

 大陸限定であるが、他の団体も真似しないといいが」


 大陸では民間人の武装も許可されている。

 僧兵達の装備も冒険者レベルだから認めないわけにはいかない。

 秋月総督は書類を見ながら欠伸をする。

 昨日の今日では具体的なことは決めることは出来ない。

 今後の課題は幾つも残された感じだ。

 おまけに荒らされた寝室の後片付けで、寝不足気味だ。

 荒らしていった自衛官、僧兵、SP達は誰も片付けを手伝ってくれなかった。




 事件の後遺症も意外な形で残っていた。

 夜に寝室から出てきた秋月総督は廊下で警戒するSPに懇願する。


「なあ、1人で寝るの怖いから寝付けるまで部屋の中で見守っててくれないかな?」

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