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日本異世界始末記  作者: 能登守
2034年
277/282

旧き世界

 日本国

 千葉県松戸市(旧市川市)

 八幡の藪知らず


 方々の騒動が鎮圧されていくなか、八幡の藪知らずに陣取る土人形の武者の最後の1体も各所に矢を刺されながら崩れ落ちそうになっていた。


「若様、最後に止めを!!」


 八幡宮衛士に矢を渡された八幡宮司代行の中学生大峰司少年は、自分の事を『若様』と呼ぶ衛士に辟易しながらもそろそろ蹴りを着けないとは感じていた。

 付近には殉職した警官の死体袋がならんでおり、近隣の神社から派遣された巫女の少女が負傷者に回復の祝詞を唱えている。


「全く、いつの時代なんだよ」

「代行殿、なんなら我々がやるが」


 申し出てくれた陸上自衛隊第127地区警務隊松戸分隊の山野二等陸尉の方を振り向くと、警務隊員達が73式小型トラックの銃架にブローニングM2重機関銃を接地している光景だった。


「いや、お社を破壊されても困るんで」


 司少年は矢を弓に番え、祝詞を唱える。


「南無八幡大菩薩、願わくばこの矢 外させ給うな」


 神力を付与された破魔矢は見事に土人形の鎧武者の胴体を射抜き、内部から術が発動し崩壊させた。

 衛士や警官達から歓声があがり、ようやく事態が治まった実感が湧いてくる。


「最初から君が射れば良かったのでは?」

「無理です。

 今の一撃で神力は空穴、最後の一人だから出来たんです。

 だいたい中学生に何をやらせるんですか」

「まあ、倒せたからいいじゃないか」

「倒したんじゃありません。

 送り還したんです。

 今回がどんな状況で具現化したのか知りませんが、状況が揃えば、また来ますよ」


 原因を知らされていない山野二尉はその言葉にゾッとする思いだった。




 市川大野

 某中学校


 松戸駐屯地から出撃した第2高射特科連隊は骸骨を追っかけまわしていたので、必然的に巨大骸骨との戦いとなったこの中学校周辺に集まっていた。

 連隊長の綿貫一等陸佐は巨大骸骨を倒した105mmりゅう弾砲M2A1の姿を見て呆れていた。


「いったいどんな経緯であんなものを民間人が所有してたんだ?」

「もう少し時間があればF-15やF-104も自警団が復元させたんだがな」


 旧市川市の自警団が展示していた残骸から復元しようとして上手くいかなった機体だ。


「噂には聞いてましたが、何で市川や松戸の一般人がそんな物を持ってるんですか、近藤一佐」


 そこにいたのは、105mmりゅう弾砲M2A1105mmりゅう弾砲M2A1の砲手を務めた自警団員、近藤和彦退役一等陸佐だった。


「先輩、自警団にいたんですね。

 連絡くらいくださいよ。

 しかし、相変わらず見事な腕で」

「昔取った杵柄だ。

 特科一筋で、久し振りに撃ったが腕は衰えてなかったぞ」


 かつての第1特科旅団の副団長として皇国との戦争で活躍した古強者だ。

 まあ、大砲の名手が民間から生えてきたら怖いことだろう。


「しかし、市街地の学校に砲撃なんて良く許可が下りましたね?」

「腰抜け市長にそんな判断が下せるか。

 ワシの独断だ。

 緊急事態だったんだから仕方ないな。

 お前さんの権限で連隊からの要請があったことにしておけ」

「無いわ~、この爺さん無いわ~」

「うるさい。

 葛西八幡宮で自衛官がやらかしたのも聞いてるぞ。

 揉み消しを手伝ってやるから、ワシの大砲を運ぶのを手伝え」


 105mmりゅう弾砲M2A1を運び込んだ元海上自衛隊の救難ヘリコプターS-62が中学校のグラウンドに着陸していた。

 もちろん松戸市自警団の所有機だ。


「一度、松戸市自警団が他に何を持ってるのか、査察させて貰えませんかね?

 警務隊を行かせますんで」






 市川市内

 老人ホーム『エイルス市川』


 事件の元凶が潜伏していた老人ホーム『エイルス市川』は、公安調査庁の実働部隊が包囲していた。

 どの程度の規模がいるのか、実態がはっきりしない実働部隊だが、今回の包囲には完全武装の二個小隊動員されていた。

 同時にショットガンや拳銃で武装した公安調査官達が、エイルス市川に乗り込んでいく。


「公安調査庁だ。

 破壊活動防止法の容疑で、この老人ホームを『帰還派』のアジトとして捜査する。

 内部にいる者は、各々の部屋で待機し、調査官の指示に従え!!」


 かくも強権的な口上であるが、警官26名、自衛官3名が殉職し、市民7名死亡、31名が行方不明、負傷者多数。

 誘拐された女子中学生35名、小学生53名という被害の深刻さを錦の御旗の前に調査官達はわざわざ玄関の引戸を蹴り倒して館内に入ってくる。

 割り当てに従い、各々の部屋に入室した公安調査官達は、老人性痴呆症や寝たきりの老人達への対応に追われ、聞き取り中にオムツの交換やリハビリ、入浴や着替えまで手伝わされるという抵抗を受けるが、首謀者の5名まで絞り込んたが、全員が一室に集まり、毒をあおって死亡していた、

 ニールズ中尉を含む帰還派の他のメンバーは、次元跳躍機のエネルギーの奔流に飲み込まれたのが葛飾八幡の監視カメラで確認できている。


「巻き込まれた旧市川市役所の人達はたまらんな。

 せめて地球への帰還を達成できてればいいんだが」

「しかし、古賀主任。

 次元跳躍機の残り4機が一緒に飲み込まれたのか、他の帰還派の手に渡ったのか判別出来ません」

「影山さんが残り4機この世界に残ってるのを確認したとよ。

 死んでる爺さん達の交遊関係から帰還派を炙り出すぞ」

「影山首席調査官がですか?

 どうやって断定に至ったんです?」

「魔術的な話だから理解できなくていいそうだ」

「せめて科学的に立証してくれませんかねぇ」


 若手の白川調査官を下がらせ、古賀主任調査官は自決した遺体の無念そうな顔に寒気を覚えていた。


「そんなに地球に帰りたかったかねぇ。

 ここまでしたんだから、そうなんだろうが」


 日本人なら身内も財産も殆どがこの世界に一緒に転移してきた筈だ。

 それでも地球に求めるモノがあったのか、単なるノスタルジーか。

 人生の半分をこの世界で生きてきた古賀主任調査官にはわからなかった。




 大野公民館図書室


「概ね事件は終わったみたいね。

 まだ、全部の本を読みきれてないけど寝床を探さないとね。

 影山の方で用意してくださる?」


 セーラー服を着た平五月こと、滝夜叉姫に影山首席調査官は念を押す。


「宿を用意してもいいですが、もう一度聞きます。

 次元跳躍機、次元の狭間にあるのは確かに1機だけなんですね?」

「私の依代として動いてるのは1機よ。

 他にもあったら連動して動いてるのを感じるし、間違いわ。

 この一言にエコノミーからスタンダードに宿のグレードがあがるじゃない?」


 どこからそんな言葉を覚えたのか、訝しむが彼女が読んでるのが、転移前の旅行雑誌のバックナンバーだと理解して肩の力が抜ける。


 「ねえ影山。

 今回はたまたま人から眷属になった私だったけど。他の人ならざる眷属ならあなた方はどうするのかしら?」

 「次回はその可能性もあると」

 「神獣の類いならいいけど、天狗、河童、鬼。

 種族単位で出てきたら日本由来の亜人の誕生ね。

 手ぐすねを引いて、扉が開くのを待ってるわよ」


 驚かされてばかりなのは癪なので


 「それより貴女はこれからどうするんです?

 この世界で生きていくなら生計をたてないといけなきでしょう」

 「父上を祀る神社が私の生活を保証すべきじゃない?」

 「なんとも答えにくい話です」

 「父上の神社で姫巫女として遇されるか、魔術科の学校で呪術を教えるのもいいし、大陸に渡って冒険者も憧れるけど、その前にこの服を返してあげないとね。

 影山~、ちょっと服と下着買ってきて、セーラー服の下は何も着てないから」


 影山首席調査官は武断的な事態になるかと、女性調査官を連れて来なかったことを後悔していた。

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― 新着の感想 ―
自警団に好き勝手動かれるのも癪ですし、郷土防衛隊的な制度を整えた方がいいような。自衛隊創設初期に一時期取り沙汰されてて結局ポシャった構想ですが。 その場合神官とか僧兵は扱いに困るな……
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