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日本異世界始末記  作者: 能登守
2034年
276/282

滝夜叉

 日本国

 松戸市(旧市川市)

  大野公民館図書室


 セーラー服を着た一人の少女が休館しているはずの公民館で、乱雑に積んだ本を読み漁っていた。

 ジャンルはバラバラの乱読だが、おかげでこの自分の伝承、この国が歩んだ歴史、言葉使いは概ね理解できた。

 このセーラー服は公民館近くを歩いていた女子高生を拐い、奪ったものだ。

 下着姿で隣の部屋に女子高生を転がし、少女は目立つ巫女服を脱ぎ捨てセーラー服に着替えた。

 頭の飾りは外してないので、一見すると、和風ギャル女子高生に見えなくもない。


「それにしても鬱陶しいわね」


 先程から新ジャンルを確率しそうな少女の位置を探るように陰陽師の式神や坊主の法力、神官達の神力が辺りを飛び交っているが、使い手が未熟すぎて公民館に張られた結界に気がつくことも出来ない。

 だがひとつだけ、彼女の居場所を見抜く力に当てられた。


「見られた?

 見覚えの無い力、この世界特有のものかしら?」


 少しして公民館の周りを車が取り囲み始めたが、男は既に建物の中にいた。


「魔力というらしいですよ。

 この世界特有の力で随一の使い手が、武蔵国の府中にいましてね。

 ある程度はこちらで絞り込んだのでピンポイントで『観て』もらいました」


 男の背後では隣室に転がしていた下着姿の女子高生を別の男が毛布で包んで運び出していた。


「探られたのは今よ?

 貴方、入ってくるの早くないかしら」


 市川インター出口に設置された監視カメラ。

 そこから街中にある監視カメラを辿って、この公民館までは絞り込んだ科学の力である。

 最後に『府中の相談役』に探ってもらったのは、こちらにも相応の力があることを示す威嚇である。


「まあ、そんな訳でこちらには貴女の呪力に対抗する術があるわけだ。

 外の骸骨ども大分減ったでしょう?

 国が本気を出したら討伐も時間の問題なんですが、幾つか疑問を解明しないといけないのがこちらの仕事でして」

「疑問?」

「お名前をお伺いしていても?」

「平将門の娘、五月。

 さっき読んだ本の通りなら貴方方には滝夜叉姫といった方が良いのかしら」


 滝夜叉姫たきやしゃひめは、平安時代の武将・平将門の娘とされる伝説上の人物だ。

 父の非業の死をきっかけに妖術を操り、朝廷への復讐を企てるという悲劇的な「復讐の姫君」として知られている。

 呪咀神である貴船明神、高龗神タカオカミノカミの荒御霊の力を授かり、朝廷転覆の反乱を起こそうとするが、先手を打たれて討伐されたとも尼寺に入り生涯過ごしたとも伝わる。


「こっちは名乗ったけど?」

「失礼、少々呆気に取られました。

 私は日本国公安調査庁首席調査官影山と申します。

 それで何の御用で現世にお戻りに?」

「別に用もなかったけど、勝手に門を開けた愚か者が贄を押し付けて来たから喚び出されたぢけよ。

 まあ、折角だから父上もこちらに来て頂こうと骸骨どもに贄を集めさせたんだけど……

 父上、八百万の神々に取り込まれてたのね。

 ああなると、もう喚ぶのは無理だから諦めたわ」


 贄と喚ばれるのは市内の小学校、中学校から誘拐された幼児や少女達だ。


「まだ、骸骨どもは暴れておりますが?

 八幡の藪知らずの土人形も」

「最初にそう動くよう指示しちゃったからよ。

 後は各々の怨念の元に動く、かつての父上の兵。

 頑張って討伐して頂戴。

 一度、討伐されないと私でも止められないわよ。

 罪も無い子供達の首がはねられのは心が痛むし」


 最悪の答えを聞かされて、影山は気が遠くなり掛けた。

 骸骨達の行動は全くの無意味なのに誘拐された者達は贄とされようとしている。


「ところで貴女の存在と引き換えに器物が異界との狭間にあるようですが」


 これは『エルドリッジ』が次元の狭間に本体を置き、こちらの世界にポップしていた現象。

 海棲亜人レムリア連合皇国と日本が地球とこの世界で入れ替わって転移したと推測される事象。

 米軍から盗まれた次元跳躍試作機の存在から『府中の相談役』が出した推測だ。


「もう一つ、神霊かした父上からの眷属としての力の流入。

 フフッ、神や仏が力を顕現できる世界ですもの。

 その眷属が良しきものであれ、悪しきものであれ、具現化して不思議はないでしょう」







 市川大野駅

 大野駅前交番


 住民を避難させた警官達は避難させた中学校に陣取り、骸骨達の襲撃に備えていた。


「この城山には確かに平将門の祠と呼ばれる物はありますが、小さな祠ですよ。

 本当にここに来るんでしょうか」


 不安そうな警官に自警団にも加わる僧兵が


「周辺の寺社が結界を張って、骸骨どもの進路を塞いでいます。

 北と東西からこの城山には来れず、誘導された進路は南側しかありません。

 子供達を救うためにもここで迎え撃つしかありません」


 錫杖を構えた僧兵達は、子供達に当たらないよう銃器の使用を禁じられた警官達より頼もしく自警団団員達には思えた。

 将門の祠がある大野城跡城山は東西を寺院、北に天満神社に囲まれた立地であり、松戸市の僧兵達が続々と乗り込んでいた。


「妖怪大戦争かな?」

「和風ファンタジーじゃないですかね?

 剣と魔法の異世界にいるはずなんですけどね、俺達」


 警官6人、僧兵11人、自警団15名。

 生け贄にされると報告された子供達の命を守る最終防衛線であった。

 祠自体は校舎裏の森の中に有り、学校という立地から高い金網フェンスや壁に囲まれている。

 隣接した天満神社は無人の神社だが、結界の祝詞が付与されたお札が貼ってある。


「各地で骸骨を駆除しながら警察や自衛隊の追跡もこの学校を目指しており、数10分持ちこたえればいいはずだ。

 骸骨達からすれば校舎正門からが最短ルートだ。

 抜かれるなよ」


 そう班長が鼓舞しているが、正門裏に陣取るパトカーの警官からの無線に苦い顔をする。


「来たぞ、子供を抱えた骸骨数10体。

 叩けば砕ける骸骨どもだ、抜かれるなよ」


 警棒や金属バット、錫杖、金剛棒を構うた防衛側は正門側の壁をよじ登ろうと、他の骸骨を踏み台にしてしている骸骨を叩き付けて骨を折、砕き、子供を助け出しては校舎内に放り込むがすぐに手が回り込む。

 骸骨一体が子供を一人は抱えており、保護する暇がないのだ。

 数体の骸骨がパトカーをひっくり返して押され始めてきた。

 警官や僧兵も負傷して倒れ、骸骨達に滅多打ちにされていく。

 骨を砕かれ子供を奪還されたがまだ動ける骸骨は宙を飛び分解し、市川インターで機動隊と戦った巨大骸骨へと変貌していく。


 「自衛隊があと10分で着くと」

 「間に合わん。

 本署も余剰戦力無しだ」


 巨大骸骨が校舎敷地内のバリケードを張り飛ばし、18メートルの巨体になり流石に警官達が用意はしていた拳銃や猟銃で発砲するが、強度も上がっているのか


 警官達が諦め掛けたとき、巨大骸骨の髑髏が爆発と共に粉砕された。


 「なんだ、自衛隊か?」

 「いや、あれは松戸市自警団本隊の榴弾砲です!!」


 松戸市自警団が誇る105mmりゅう弾砲M2A1は、昭和の杜博物館に展示してあった。

 米軍から自衛隊への供与品を個人コレクターの私設博物館に展示してあった実物を参考に復元したものだ。

 旧市川市と松戸市の合併対立で戸城歴史公園まで前進していたから間に合った。

 発射地点は市川大野駅の貨物列車からだが同時に客車から百名近くの自警団が、中学校に向けて走り去っていった。

 残された鉄道公安官は砲手に


 「よく直撃させれましたなあ」

 「1キロ以内でドローンからの観測報告にあの図体なら外さんよ。

 むしろ貫通や爆散しすぎないかが心配だったが」


 元自衛官の砲手の爺さんの言葉に鉄道公安官はあり得た惨状を想像し、冷や汗を流していた。

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― 新着の感想 ―
巨大骸骨の強度が偶々上がっていたためうまくいったって事か、着弾前に標的の強度報告とかしてないからな
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