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日本異世界始末記  作者: 能登守
2034年
270/274

不穏な新年、いつものこと

 大陸東部

 日本国 那古野市

 海上自衛隊那古野基地


 海に面した那古野基地の桟橋に海上輸送群や第1海上補給隊、第1輸送隊の艦艇が集結していた。

 他にも防衛フェリーの船舶が寄港の順番を待っており、桟橋では荷卸しが行われ、基地内に通された線路に停車する装甲列車に詰め込まれていた。

 積み荷は第18後方支援連隊の隊員、家族の家財や車両などだ。


「主要装備の73式大型トラックやK-131 小型軍用車両、装輪装甲車(人員輸送型)AMV等は既に駐屯地に運び込んである。

 多少装備のごった煮状態は続くが、隊員間で上手く調整してくれ。

 同居人の35普連はおろか、第18師団全体がそうだからな」


 まだ部隊が大陸に出揃ったので、高野肇師団長はめでたく三等陸将への昇進を果たしていた。

 普段は師団司令部のある沢海市の駐屯地にいるが、さすがにこの日は新しい部下達の出迎えに那古野市まで来たのだった。

 対して第18後方支援連隊連隊長の河毛一等陸佐は、本国では最新の国産兵器で訓練できていたのに大陸では、高麗製やら華西やらを押し付けられるのが不満だった。


「本国は第15師団までの更新が終わり、三自衛隊、警察、海保、国保、刑務隊にお下がりを渡してますよ。

 大陸の我々に持たせてくれれば良いものの」

「毎年、大陸に来る自衛官の洗礼みたいなものだからみんなそう思ってるんだ。

 まあ、さすがに来年はいよいよ第16師団から国産最新装備に更新だから我々の番もすぐさ」


 大陸の自衛隊が他国の兵器を使うのは様々な事情がある。

 米軍系第16師団、ソ連系第17師団は単に倉庫に在庫が余ってたからだ。

 第18師団の場合は、華西や高麗、独立都市の経済を慮ってだ。

 兵器はどうしたって少数量産では、高価なものになってしまう。

 そこで大陸自衛隊も顧客に名を連ねれば、彼等も量産に踏み切れるという打算からだ。


「まあ、それだけじゃなく各勢力が隠匿してる軍事技術を吐き出させる為でもある。

 パトリアAMVみたいにな」


 本国自衛隊が採用した装輪装甲車(人員輸送型)AMVは、エウローパ市に参加したフィンランド人から吐き出させた技術で完成させたパトリアAMVが元になっている。


「シキツウは何が頂けますんで?」


 シキツウは指揮通信車両のことで、自衛隊では82式指揮通信車が主に使われていた。


「装輪装甲車(指揮通信型)だ。

 幸い生産してる工場が大陸にもあるしな」

「なんで全部パトリアにしないんです?」

「装輪装甲車だ。

 そりゃあ、生産した端から本国に持ってかれたからな」

「糞ったれい」


 二人は桟橋の荷捌きを確認しながら艦艇にも目をやる。


「にほんばれ型輸送艦か。

 実物を観るのは初めてだな。

 まさか陸自も艦艇の運用に参加してるとは帝国陸軍かな?」

「防衛フェリーには人員は派遣してましたから今さらですよ」


 まだ高野三将が本国にいた頃には就役していたのだが、見る機会が無いまま西方大陸アガリアレプトに海上輸送群派遣されてしまったから仕方がない。

 今回は松山市(伊予市)移民船団に『あおぞら』、『あまつかぜ』、『にほんばれ』の三隻が同行してきた。

 また、輸送艦『ようこう』の姿を伺える。


「哨戒艦とやらも来てるんだろ?

 あれも観たこと無いんだが」

「さくら型ですか?

 あっちは船団護衛で神居市に行ってます」


 さくら型哨戒艦は失業者対策に即席自衛官を増やしてる時代に反するように省力化を突き詰めた艦だが、短期間に建造できる強みがある。

 武装としては30ミリ機関砲 1基と07式垂直発射魚雷投射ロケットを搭載したコンテナ式ASWが装備されている。

 対モンスターを意識した装備だ。


「来年王都の18即機が19即機と交代すれば第18師団の編成は完全に終わる」

「今年の新都市防衛戦力はどっから出すんですかね?」

「さあな、総督府の連中が何か考えてるんだろ」


 いざとなれば先遣隊を召集するなり、武装警備員を派遣するなりどうにかなるだろうと高野三将も考えていた。




 大陸東部

 日本国 芦原特別行政区

 総督府 会議室


「芦原特別行政区の植民は松戸市の4月4日を持って完了致します。

 続く新都市ですが、相変わらずの防衛戦力の不足で来年の第19師団司令部が駐屯するまでは、例年通りに武装警備員を要請することになります」


 大陸東部中央方面隊という、その名称はどうにかならなかったのか?

 と、毎度疑問に思われる部署の長、陸上自衛隊二等陸将宮迫延有総監の言葉に誰もが頭を抱える。

 ある意味、毎年の恒例行事なのだが、昨年まで本国で第3師団師団長だった宮迫三将には皆の姿に驚いてしまう。


「しかし、市ヶ谷がそれでは抜本的解決にならないだろうと考えてまして、第3戦車旅団は受け入れ可能かと打診がありました」

「第3戦車旅団?

 ああ、確か第7師団の戦車連隊を独立させて旅団かさせた幾つかの旅団ですか」


 佐々木総督の任期は残り僅かだが、本人は留任する気はなく、後進を指名する気満々だった。


「はい、北海道から第2師団、第5師団が抜けた穴を埋めさる為、当初は第7戦車旅団としてまとめての運用でしたが、遊軍化してるとの問題があり、各々を旅団化することになりました。

 第71戦車連隊は第1戦車旅団として釧路に、第72戦車連隊は第2師団の第2戦車連隊も旅団化したのと第7の名称保持の為に第7戦車旅団として帯広に駐屯です。

 問題は第73戦車連隊を中核とした第3戦車旅団で、千歳に残留させてたんですが、北海道の第7、第11師団は独自に戦車大隊を組織いたしまして遊軍化したままなのが現状です。

 ちなみに全戦車が90式戦車です」

 「私は戦車に造詣があるわけじゃないが、重くて都市部では使いずらいのでしたね。

 いいでしょう、防衛戦力は喉から手が出るほど欲しい。

 次の植民都市は第3戦車旅団にお任せしましょう」


 佐々木総督の決定に局長達が消極的な反対や疑問を口にしだすが、代表して秋山首席補佐官が投げ掛ける。


 「よろしいのですか?

 今から駐屯地の仕様を変更させることになりますが」

 「次の議題にするつもりでしたが、今年の我が国に人口統計です」


 モニターに映し出された日本国民の人数が表示される。


『人口103,421,665人

 本国人口約89,400000人

 大陸人口約14000000人』


 「人口低下は踏みとどまりました。

 これは医療現場へのポーション増産による結果や魔術科生徒の魔術による実地教育が行われた成果でもあります。

 それでも本国人口は九千万人を割った訳ですが、日本人街などの外地での出産報告が統計上遅れていたなどの上方修正もあります」



 「いずれ移民とは別に植民都市を作る必要があると」

 「そうなれば防衛戦力の増加は火急的に問題になるか、ただでさえ間に合ってないのに」


 局長達の賛同が得られたことで、佐々木総督が次の議題に移ろうとしたした時、公安調査庁の波多野支局長が挙手している。


 「波多野支局長、何か重大事がありましたかな」

 「本局からの連絡ですが、西方大陸にある米国の研究機関が襲撃を受けました。

 地球人による犯行です」

 「地球人?

 現地勢力じゃないのですか」

 「はい。

 襲われたのは、ハモンド機関。

 オペレーション・ポセイドンアドベンチャーで奪取した叡智の甲羅や残留した『エルドリッチ』の破片、大陸北部で暗躍してた魔神を研究してた研究所です」


 聞いてるだけで頭痛がする話だが、続きでさらに驚愕した。


 「犯行グループが、日本本国にいることが確認できました」

 「ああ、アメリカが素直に教えてくれるなんて変だと思ってました」

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