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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
268/274

ドン・ペドロ航空ショー

 大陸南部

 ドン・ペドロ市郊外

 在ドン・ペドロ市国際共同駐屯地



 あと数日で2033年も終わろうとするこの日、在ドン・ペドロ市国際共同駐屯地の滑走路では無数の多国籍の軍用機がいまかいまかと発進の時を待っていた。


 少し離れた観覧席には招待されたVIPが着席してショーの始まりを待っている。

 駐屯地の外の空き地や海上の船舶にも上空で繰り広げられる祭典を一目みようと人々が乗船していた。


 貴賓席にいた佐々木総督は、飲み物を受け取り、リクライニングソファの背もたれを倒して上空を見上げていた。


「カルロス市長から派手な演目は避けてくれとは言われてたが、最初だけはそうもいかないだろ?」

「はい、F-1 CCVによるアクロバットチーム、ブルースカイは本国のブルーインパルスの姉妹部隊として訓練を積んでおりました。

 元々はブルーインパルスもF-1の原型機となったT-2練習機を使用していました。

 その運動向上型となる本機も同等のことが可能です」


 第10航空団の発足により、大陸東部航空方面隊司令となった澤村空将は、その際に三等空将から二等空将に昇進して、この世の春を謳歌していた。

 燃料不足から開店休業と言われた航空自衛隊だが、この日の為の燃料調達、訓練、整備は徹底して行われた。

 先を越された猪狩三等海将からは恨みがましい視線を受けるが、陸自の穴山二等陸将は同格の同僚が出来たと喜んで貰っている。

 彼のルンルン気分の解説に佐々木総督は、ちょっと煩わしげだが、邪魔せずに聞いている。

 F-1 CCVの編隊、ブルースカイは、簡単なアクロバット飛行だが、大陸唯一のアクロバットチームとしての面目を施して飛び去っていく。

 次からが正式な航空パレードの主役たちだ。



「最初の第一波は航空自衛隊第9航空団第9飛行隊のF-2です」


 航空自衛隊は転移後の皇国との戦争後に再編を行い、各作戦機の延命処置と生産ラインの再稼働を行った。

 と言っても各機体ともに年1機生産で、本国の八個航空団にF-15やF-2といった戦闘機は均等に分けられた。


「教育専門だった第1航空団に配されたのは驚きでしたね。

 太平洋側くるモンスターを警戒してなんですが、スクランブルも無い今は暇してると聞きます。

 逆に千島、南樺太返還で管轄空域が拡がった第2航空団は大変だったみたいです。

 また、各航空隊の練習機は教育航空団にまとめられて浜松送りでしたよ」


 上空を飛ぶF-2戦闘機も大陸には少数配備だったが、転移後に生産されて飛行中隊となったのは今年の話だ。


「本当は対中国を見通し、南西航空方面隊に第9航空団を発足させるはずが、転移で中国がいなくなってしまいましからね。

 代わりにこちらで結成となりました」



 3機のF-2はデルタ隊形を組みながら観覧席から見えるように低空を真っ直ぐ飛行する。


『ビランジュよりDL-Ops、演目は飛ぶだけか?

 バーティカルキューピッドとか、タッククロスとかやる必要はないのか?』

『DL-Opsよりビランジュへ、それはさっきブルースカイがやった。

 大人しく飛行計画に従うべし』


 英語で管制する必要が無くなり、練度も転移前より落ちてるので無線が平文でやりとりされている。

 まあ、いつもはただの警戒群と管制塔なのだが、さすがに航空ショーの為に他所から大勢やってきて、建物の看板が作戦センターと油性マジックで書き加えられていた。

 駐屯地の作戦センタDL-Ops(ドン・ペドロオペレーションセンター)の管制官は編隊長の早川三等空佐を嗜めている。

 早川三佐は以前に参加したマタンゴ空爆などという陰鬱な任務と違い、ハレの舞台に何かしたかっが大人しく指示に従う。


 上空でそんな遣り取りが行われてると知らず、地上では佐々木総督と澤村二将の会話が進んでいた。


「本国のF-2には及ばないんでしたっけ? 」

「転移後に造られた機体は量産性を意識しされた簡易型です。

 それはF-2も同様であり、コックピット機内照明やJDAM搭載機能、GPS受信機がオミットされており、J/APGレーダー初期型となっております。

 転移前の機体の能力向上型から取り外した部品をだいぶ流用してますので安価に抑えられたのです」


 第9飛行隊発足前は本国の機体が交代で派遣されていたから任務に支障は無かったが、今後は任務に機体特性のハンデが付けられたことになる。

 陸自の10式戦車の転移後の生産分が『カンタンク』と呼ばれてるのと同様、空自でもこの様な機体を『エコノミー』と呼称していた。

 現在、名古屋飛行場を基地とする飛行教導群を拡充した教導航空団により第10飛行隊の編成が行われており、大陸に能力向上型が送られてくるのは生産が開始されたF-3戦闘機 烈風の配備によるお下がり機となる。


 続いて上空に飛来したのはF-15とF-35の3機ずつの編隊だ。

 何れも本国の機体でゲスト参加だ。

 F-15も転移後も『エコノミー』の生産が行われたが、大陸に配備するには機体が足りないと教導航空団扱いである。

 F-35に至っては『エコノミー』どころか、『レッサー』劣化版と呼ばれてる。

 転移当時にある程度の部品が運び込まれていたが、完成機の来日はかなわなかった。

 F-35の国際整備拠点と機体組立てを日本で行うために供与された技術、施設と米軍が認識していた知識、プラモ屋の助言を吐き出させて、どうにか再現した機体だから劣化版となるのは仕方が無かった。

 VTOL機であるF-35B型も開発は困難を極めたが、石狩貿易提供のミスリルを使い、機体の軽量化に成功して完成した。

 すでに護衛空母『いずも』の飛行隊が発足し、来年なら『かが』飛行隊の編成が始まる。

 F-35A自体もどうにか飛行中隊を編成する程度には数が揃ったので、在日米軍から返還された岩国基地でステルス戦闘機専門部隊として扱われている。


「じゃあ、あの機体は?」

「飛行中隊発足後に完成した新品です。

 恐らく我々に見せびらかす為に来たと思われます。

 全く本国の連中は……」


 次に飛来したのはF-4EJ改の飛行中隊がV字 型フォーメーションでその物量をアピールしている。


「これが最後の飛行大隊ですか?」

「はい、延命処置に部品取り、比較的良好な機体の選別。

 F-4戦闘機、最後の飛行大隊です」


 半世紀以上、日本の防空を担ってきた老朽機達だ。

 F-15の生産数の数が揃い次第、第9航空団から第10航空団に移管となる。

 意外に総督府の最後を見届ける機体になるのではと佐々木総督は埒もない事を考えていた。


 続いて飛行して来たのはC-1輸送機4機編隊、その少し後ろにC-130輸送機が1機続いている。

 先程の戦闘機の大きさに慣らされていた大陸の人々は、その巨大さに驚かされる。

 C-130輸送機は各航空団に1機ずつ配備されており、飛行している機体も第9航空団所属である。

 なお、大陸には空中給油機が派遣されてない。

 C-1輸送機は後継のC-2輸送機の配備にともない、退役が決まっていたが、異世界転移により1機でも多くの輸送機が必要な事態に陥り、現役しての運用が続行されることになった。

 C-2輸送機自体の生産、配備も進み、第4航空団までの隷下となった輸送航空隊には配備済みで、残る航空団はいまだにC-1輸送機である。


「第9航空団第9輸送航空隊第409飛行隊です」

「残りの機体はどうなったの?」

「教育航空団と教導航空団などでいまだに現役です。

 あっ、我が国からの参加はここまでです。

 あんまり機体を参加させすては、他が霞んでしまいますからな」


 手遅れじゃないかなあ、とは佐々木総督は言葉には出さなかった。


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