flag of the dead
大陸東部
日本国 那古野市
今川造船所
福池型補給艦『巣湖』に取り憑いた亡霊達は、艦のハッチを霊的に固く封鎖することでろうじの姿勢を示していた。
しかし、そんな抵抗も巫女服を着た女子高生数人のお祓いの前に浄化されていく。
祓とは、神を迎え交流するために、罪穢れのない清浄な空間を造り上げるのが本来の目的だ。
罪穢れもこの世界のあらゆる罪穢れを徹底的に祓い浄めていく。
ハッチを抑えていた霊的な力が霧散し、消防官達が開いていくと男子学生の神官達が破魔矢を艦内に撃ち込み、弓の弦をいて音を鳴らす鳴弦で悪霊を退散させ、邪気を祓っていく。
「音の聞こえる範囲が安全圏です」
引率教師の田代は自身は術の類いは使えないが、生徒達の使える術は把握しており、指揮者としては優秀だった。
自衛隊側の引率役の吉田香織三等陸佐は貸与された魔法剣を抜いて、法力僧姿で錫杖や金剛杵を持った学生達を率いて艦尾甲板のヘリコプター甲板に繋がる後部上部構造物に設けられたハンガーから突入する。
亡霊達も具現化して襲いかかってくるが、吉田三佐が一刀のもとに切り裂き、御札や法力を集中投下されて散らされて、断片部は消滅していくか、他の霊体に吸収されていく。
最初の虚を突けて、数体は倒したがやはりすぐに防戦一方となる。
「す、すいません不甲斐なくて」
法力僧の少年が謝ってくるが、第1世代の術者の力は知れているので吉田は責めたりしない。
「十分よ、連中も数はしれているのだから削り倒していければ上等よ」
目の前で亡霊に足を掴まれ転がされた法力僧をフォローして切り突けながら慰める。
「おら援護だ。
これでも食らえ!!」
消火器に御神水、法力水を注いだ消防士が噴射して前にでる。
気合いの入った消防士は外の清め塩の堡塁からスコップで清め塩を振り掛けて牽制する。
『キサマラ、イイカゲンニシロ!!
コノ、リーベングイズ、ガー』
亡霊達が遂に言葉で抗議してくるが
「やかましいわ!!
这只苍蝇很烦(このハエは本当にうっとおしい)
你真恶心的人,不要靠近我(本当にきもい人ね、近づかないでよ)
真的,气死我了!(マジでむかつく!)」
逆に吉田三佐に罵られて、顔に怒りを現すが、数体はどこか嬉しそうにしている。
いや、実際に何かに満足したのか、昇天した個体もいた。
「斉射!!」
狭い艦内通路だが、神官達に複数の破魔矢で亡霊を射抜いていく。
故人に対する敬意など、ここにはどこにもなかった。
派手にやりあってる艦尾とは対称的に柿生武志三等陸佐率いる部隊はタラップを使い、艦首から乗艦した。
亡霊達も数に限りがあるのか、吉田隊に掛かりきりになっている。
少数の霊体は出現するが、魔術科の大陸魔術の生徒達が放つ光の矢が仕留めていく。
意外だったのは精霊の力を介した精霊魔術が物理的に発動しても亡霊にダメージを与えられたことだ。
人口物である艦内では使える術は限られるが、光の精霊に灼かれ、風の精霊に斬られる亡霊に柿生三佐は出番がなく、手持ち無沙汰であった。
「水の精霊はどうなんだ?
散々水蒔かれてるだろ」
確かに『単湖』には御神水、法力水が放水されてびしょ濡れ状態だが、精霊術師の生徒達は一様に首を横に振る。
「あの水には精霊が居着いていないので使えません。
でも水筒から持ち込んだ水なら」
そういうと、水筒から人型の水の精霊が飛び出して亡霊に襲いかかっていくが、水量が少ないのか、ちっちゃくてダメージは少ないみたいだった。
『まあ、いざとなれば我等がいるから問題あるまい』
杖から放たれた聖光が複数いた亡霊を一瞬で浄化していく。
「ああ、勿体無い!!
素材として使えそうだから回収しようと思ってたのに」
なにやら邪悪なことを叫んでいるのは、日本国公安調査庁のエージェントとなっていた死霊魔術師スローンだった。
その手には『断罪と雷の教団』の聖騎士にして、『御使い』から機械生命体、金属生命体に格下げされたミスリル製パゲットの聖騎士コルネリアスの魂が宿った杖が握られている。
『素材って、何じゃい!!』
「え~、だってあれだけ亡霊いればデュラハンでも創ろうかなと」
『なんと邪悪な』
コルネリアスの杖は独自の判断で聖光の奇跡を放ちながら、スローンに行使されて杖の内部に亡霊の魂を貯えていく。
『なんか気持ち悪いのう』
「ちょっと聖光連発しないでよう。
魂、捕まえにくいの!!」
未熟な日本人術者達と違い、熟練の聖騎士でもあったコルネリアスが三体の亡霊を浄化していく間にスローンは一体を捕獲、日本人術者達も複数人で一体を浄化していくペースだった。
ブリッジ、機関部、食堂、トイレ、応接室、寝室、医務室が次々と浄化、制圧されていく。
「残すところは」
「艦長室ですかい」
吉田三佐や柿生三佐に田代先生、スローン等が艦長室の扉前に集結する。
室内の様子を伺えば、辛うじて散らされた霊的なエネルギーを繋ぎ合わせて、死んでいるが虫の息となっている亡霊が一体いるだけだった。
「はい、ゲームセット」
無慈悲に吉田三佐の魔法剣が貫き、消滅していく。
「これでこの艦からは霊の気配が消えましたね。
本当は古戦場とかでは神官達が浄化するんですけど、この艦は何もしなかったんですか?」
「華西が道士達を招いてやったらしいけど」
『その机の引き出しから禍々しい力を感じる。
開けてみろ』
コルネリアスの忠告にしたがい、艦長の机の引き出しを開けると、怨み節が血で綴られたノートが出てきた。
『それがある限り、時が立てば浄化された筈の亡霊達が再び現れる。
まれに戦場でもあるから祠を建てたりするんだがな。
軍船で行われることはあまりないが』
「どうして?」
『この様な事態になる軍船は普通は先に沈んでいて、燃やされてるか海の底だからな。
そいつも燃やして、この艦は一件落着だ』
納得する一同のもとにおっかなびっくりの取り巻きを連れた白戸市長が現れた。
「みんな御苦労様。
ホテルと食事は用意したから今日は休んで頂戴。
あ、香織久しぶり、旦那元気?」
「最近、三等陸尉に昇進してやる気になってるわ。
叩き上げで凄くない?」
今の自衛隊は急速な拡大で昇進しやすくなっているが、異動を嫌って昇進を断る隊員も多い。
吉田三佐は総督警護室室長なので、新京から葦原への異動となり、その夫君も異動昇進を受け入れた。
既に准尉にはなっていたから、新設の第7教育連隊で自身も尉官教育を継続しながら小隊長を勤めている。
人手不足で忙しいから転移前の様に教育に専念させるわけにはいかないのが実情だ。
皆が見守る中、呪物と化したノート、艦長日誌を燃やし、華西側には徹底した捜索、清掃を行うよう通達を白戸市長の名で出した。
「明日には健康とかをチェックして貰って『武漢』の浄化に取りかかって頂戴。
今日中に堡塁の異動もさせておくから、宴は必要かしら?」
朝から姫路市旧豊岡市船団の移民支援で忙しかったのだ。
連日、連夜の亡霊騒ぎでいい加減に休みたかった。
そんな白戸市長の元に関口所長が飛び込んでくる。
「大変です、『武漢』が!!」
その言葉に関係者達が各々、旅洋I級ミサイル駆逐艦『武漢』が見える位置まで移動する。
「監視は何をしてた!!」
「そもそも何が有った!!」
右往左往する日本人達の目の前で、『武漢』のマスト最上部に旗が掲げられた。
白旗である。
続いて外部スピーカーが声を発し、内部にいる者達の意思を告げ始める。
『当艦は降伏する。
ジュネーブ条約に従い、乗員は将校の待遇を望む』
死者にも条約が適応されるのかは、甚だ疑問だった。




