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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
257/274

GCH(ゴーストカウンターハラスメント)

 大陸東部

 日本国 那古野市

 今川造船造船所


 今川造船は那古野市が設立した際に本国の既存の企業以外の造船所も必要と大陸で起業された企業から出資された会社だ。

 この考えには総督府も乗り気で、幾分かの公金も出され、海上自衛隊や海上保安庁等の小型の巡視艇を中心に消防艇、警備艇などの官公庁船を建造、シェアを拡大してきた。

 今のところ、護衛艦や大型巡視船等といった大型艦船建造の受注は無いが、修理の為のドックは建造済みであり、近年は華西民国の『彷徨える中国艦隊』の修復に活路を見出だしていた。

 大型ドックには福池型補給艦『巣湖』が収用され、旅洋I級ミサイル駆逐艦『武漢』が桟橋で順番待ちをしている。


「それなのに怪異に阻まれて、『単湖』の修復が大幅に遅れています。

 また、新たに一隻見つかったというし、いつまでもドックを占領したままに出来ないのですよ」


 今川造船の関口所長からこの様に訴えられては、霊感がなく、魔力も無い市長の白戸昭美も無碍には出来ない。

 公式的に幽霊の存在は法的にもモンスターの一種として認められているので、討伐の対象

 なのだが、市内にいる日本人冒険者は何れも成人であり、地球生まれしかいないので対処が出来ない。


「そもそも華西側で一度祓ったんでしょ?

 何でまた湧き出てくるのよ」

「こちらに到着した時も壁、天井、床にお札が貼りまくられら格納庫には祭壇が設けられて、お香が焚かれてましたよ。

 修理のため止む終えず撤去したらこの有り様です。

 核となるものが艦内に遺されてるのではというのが、そのスジの専門家の指摘で、例の『エルドリッジ』事件同様に時間が立てばポップしてくるのではないかと」

「問題はその核が華西の道士達では見付けれなかったわけね」


 華西民国達の道士達や魔術師達も近年にようやく術が使えるようになったこの世界生まれの第一世代の魔力も少ない未成年だ。

 ようするに大陸人の神官や司祭に比べればレベルが低い。


「師事する者おらず、術式の開発や運用は手探りな状態では、仕方がないのかもしれないわね。

 我が国の方が記録が残ってて、『門が開けた』のが早かった分マシなのかしら?」


 とはいえ、いきなり未成年術師達を動員するには、夏休みが終わり学校が始まったばかりで時期が悪かった。


「一応、市内にも寺社仏閣はあるし、そこの次期当主達は成人後に就任する術者ばかりだけど、今は修行期間だから新京の学校か、吹能羅町の御山なのよね。

 精霊使い達も浦和のエルジェーべト村からうごかせない」


 吹能羅町には日本仏教連合本部の御山があり、僧兵や法力僧達の修行の場になっている。

 また、浦和市近郊のエルジェーベト村には白戸が肝煎りで作った日本人とエルフの間で産まれたハーフエルフの生活保護区となっている。

 ハーフエルフ達には親であるエルフが精霊術を教えているが、差別行為から保護している関係で、村から動かしたくない。

 頭を悩ます白戸の目にビルの屋上などの高所からカメラを向けて、ドックを監視している集団が幾つも目に入る。


「公的機関でもマスコミでも無いわね?

 艦船のマニアかしら」

「それもいますが、大半は夜になると現れる鬼火でライトアップされたこの艦を撮りたいと集まった野次馬や心霊研究家達です」


 夜になると無数の鬼火が艦を照らし出し、ちょっとしたスポットになっていた。


「観光スポットに出来そうね」

「勘弁してください。

 鬼火も近づけば動いて攻撃してきますし、納期も迫ってます。

 姫路市旧赤穂移民船団の整備予約も入ってるんですから」


 本国では秋から年末にかけての宇都宮市移民の準備も始まっているし、千葉県松戸市、市川市の合併も決まった。

 スケジュールがギリギリなのだ。


「じゃあ、まずは市が出来る範囲からやりましょう」


『単湖』が収用されているドックは、作業用の重機も入れる仕様だ。

 そこの那古野市消防局の消防車が数台入ってくる。


「あの市長あれは?」

「ポーション造りのノウハウを参考に神社の清め塩を溶かした水や弘法大師の故事から法力で脇き出させた清め水を消防車のタンクに積めさせたわ。

 面倒だから御神水、法力水と命名したけど、これを放水するわ」


 ポーションの場合は特殊な薬草が必要だったが、道具に魔術を付与することは知られて研究は大陸の魔術師の間でもされていた。

 神社や寺院もそれを参考に仏具や神具にそれぞれの術を付与する研究の成果の一つが、御神水や法力水だった。

 水そのものであるから鬼火の消火に期待できた。


「放水開始!!」


 消防士達が消防車から放水を開始すると、昼間なのに『単湖』から無数の唸り声があたりに鳴り響く。


「お、おい、効いてるのか?」

「大丈夫、呪われない?」


 灼熱の火災を相手にも怯まない勇敢な消防士達も勝手が違う相手に腰が引けている。


「なにか変化はあった?」

「あ、市長はこの声、聞こえてないんですね?」

「声?

 さっぱりだわ」


 艦内にもホースをのばせない場所でも消火作業ができる、18リットルの水が入った袋から手動のポンプで放水するジェットシューターを背負った消防隊員達が突入、浄化していく。


「これ結構費用掛かってますよね?」

「後で請求するから覚悟しといてね」


『単湖』からの叫び声は大きくなるが、白戸市長の耳には聞こえないので事態の推移が読めないでいた。


「こんなことならウチの人連れてくるんだったわ」

「乃村社長をですか?」

「あの人転移前から人魂を見たとか、ベッドの両脇から知らない顔の無い男女に見つめられてたとか、母方の実家が半世紀の間に見ず知らずの人が六人も自殺して事故物件扱いされて困ってたと学生時代に言ってたし」

「転移前の話ですよね?」


 二人の和やかな会話が続くなか、作業用のクレーンが操縦席を無人のままに動き出し、フックを消防車に投下してタンクを破壊した。

 そのまま消火ホースに引っ掛けて、左右にクレーンが動き出し、消防隊員が危険に陥っていた。


「これ以上は限界ね。

 消防隊に撤退を命じなさい。

 あれがポルターガイストというやつかしら?

 まあ、多少は効果があったでしょう。

 後は多少の嫌がらせをしつつ、第2陣の到着を待つわ」

「嫌がらせって何をするんですか?」

「見えてる鬼火がいるなら遠距離から警察による狙撃よ。

 ハラスメントは幽霊側だけの特権じゃないのよ」


 ゴーストハラスメントとうい言葉がある。

 明確に定義は無いが、相手に嫌がらせをしたいが、直接的・感情的なアプローチを避け、ゴースト(幽霊)のように存在感を消して無視をすることで精神的に追い詰める嫌がらせが解釈がある。

 その解釈からすると白戸市長の作品は、幽霊に積極的に嫌がらせをするのだから間違っているかもしれない。


 まず『単湖』を囲むように浄めた塩で盛り塩をする。


「いや、盛り塩というか土塁、いや、塩塁ですか?

 しかし、一般的な霊への対応としては間違ってませんか?」


 霊体は閉じ込められると内部に籠り力を増す。

 塩塁による結界でも同じ筈で、悪手といわれている。


「それさ相手に出てくる意思を無くさせるからでしょう」


 そういう白戸と関口の前を沢山の料理や酒が乗せれたテーブルが運ばれていく。


「お供え物ですか?」

「閉じ込めて手を出せない相手に?」


 続いてマイクロバスが到着し、付近いた野次馬や研究者、町で騒いでいたパリピが降ろされていく。


「さあ、世にも珍しいパーティー会場が用意できました。

 今夜は多いに飲み、食べ、躍り狂って下さいね。

 中の幽霊が悔しがって顔を見せるくらいに」


 幽霊が顔を出してくれば警官隊が塩弾を装填した狙撃銃やショットガンで狙い撃つ。

 倒すのは無理でも散らすことは出来る。

 霊体といえどエネルギーの塊と考える白戸はいつかはその限界が訪れるだろうし、第2陣の到着前に消耗させられば上出来と考えてた。


「それでは皆さん。

 幽霊の観賞パーティーに御参加頂き、ありがとうございます。

 見えない相手ならともかく、見えて閉じ込めた相手なら対処の方法はさほど変わりません。

 まあ、私は見えてないんですけどね。

 では、関口所長、乾杯の音頭をお願いします」


 バトンを渡された関口所長は他のパーティー出席者同様に顔を青ざめさせていた。


「なんだか投票する人を間違えた気がしますが、覚悟を決めましょう。

 飲み物は行き渡りましたか?

 でわ、カンパーイ!!」


 なかば自棄糞な乾杯の号令に参加者達の引きつった乾杯の唱和がドック内に響き渡った。



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― 新着の感想 ―
イヌガミの作り方で 首だけ出して埋めてぎりぎり届かないところに餌を置いて飢えさせて限界きたら首を刎ねると聞いたことあるのだけど 怨霊相手にそれやってない?
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