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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
251/274

殻の向こう

 日本ー南方大陸アウストラリス航路


 日本国海上自衛隊

 第1水上戦群

 もがみ型護衛艦『たつた』


 もがみ型護衛艦は、日本が異世界転移後にも建造された新型艦だった。

 コンパクトで多機能、省人化にステルス性の強化が図られ、老朽化する護衛艦の代艦として整備が進められていた。

 皇国との戦争が始まるが、もがみ型の進水、就役は戦後であり、活躍の場は与えられなかった。

 豊原や那覇、那古野の地方隊結成や各護衛隊に護衛艦の充足が求められると、主力護衛艦隊の穴を埋めるように配備されていった。

 しかし、西方大陸アガリアレプトに進出していた米軍が大陸勢力と開戦すると、援軍を派遣することになり、もがみ型護衛艦や後継の新型FFM、イージス・システム搭載艦等の新鋭艦を新設の水上艦隊水上戦群に放り込んで派遣させられた。

 近年は新設の第5護衛艦隊に抽出された艦の穴埋めの為に順次、本国に呼び戻されていたが、護衛艦『ながら』、『たつた』の所属は水上戦群のままである。


「帰国前に船団救援を任されるとはな。

 対モンスター戦用意!!

 残った弾薬は使いきって構わん!!」


 艦長の滋野十三二 等海佐は、財務省の役人が聞いたらクレームを付けそうな命令を下す。

 実際のところ西方大陸から帰国命令を受けてからは、弾薬の補給は受けていない。


「財務警察が同乗してるんだから迂闊なこと言わないでください艦長」

「緊急任務だ、知らせる必要はない。

 戦闘に入るから部屋から出るなとでも言ってやれ」


 西方大陸で自衛隊が税金で購入した兵器や装備を無駄に運用してないか、財務省財務警察官が戦場を闊歩し、指揮官達にうるさく口出ししていた。

 財務警察はようするに武装した税関職員並びに国税局局員のことだ。

 異世界転移により、経済が破綻し、現金収入が国民から無くなり税の徴収もままならなくなった。

 また、海外からの渡航者もいなくなり税関職員も暇になってしまった。

 特に税関職員を国境保安庁が吸収を狙っていただけに財務省が抵抗する為に皇国との戦争後の後継国家の王国から賠償の食糧を徴収する武装部隊に造り上げた。

 それが財務警察で

 近年では、自主武装する農業貴族や漁業豪族への武力行使も辞さない徴収。

 税収による予算が正しく使われてるか監視する会計監査院紛いの諫言も現場で行ってきており


「ソビエトの政治将校か!!」


 と、キレ散らかす現場の人間もいた。

 実際、『たつた』でもミサイルや艦砲を射つ際に背後から


「艦砲一発で何人分の食糧が賄えたんでしょうね、キャッキャ!」

「あー、税金がバーンしてバイバーンしてるわ〜、爆発しちゃったっ♪」


 などとチクチク背中から刺してくる。


「広域帯ソナーに感有り、報告に有った貝獣のものと思われます」

「巨大なホタテだったな。

 ブリッジのカメラは捉えられたか?」


 ブリッジから戦闘指揮所に移った滋野艦長はしっかりと指揮所の鍵を掛けさせる。

 さすがに戦闘指揮所までは入ってこないが、ブリッジにいたら財務警察の阿呆がうるさいからだ。


「映像に出します」


 映像に映し出されたのは貝殻の一片を帆のように開き、風を受けて海上を移動する巨大なホタテ貝だった。


「想像してた移動方法と違うんだが?」

「貝柱を使って二枚貝殻を開閉してからの水の噴射によるジェット推進でしたっけ?

 でもあれはあれで名前の由来になった帆立のまんまですね」

「普通、貝は90度にまで開閉しねえよ。

 ミロのヴィーナスじゃあるまいし」


 確認できるだけで四個のホタテ貝が海上を疾走している。

 女神はいないが、その開口部から複数の飛翔体が飛び立ち、船団に群がっていた。


「あれが空飛ぶピラニア半魚人の母船と言うわけか。

 対艦戦闘用意!!」


 対艦ではなく、対モンスターなのだが、相手の大きさからつっこむ者はおらず命令を復唱していく。

 もがみ型護衛艦は当初、ミサイルの在庫数の少なさと使う相手がいないことから、垂直ミサイル発射システム(VLS)は後日装備となっていた。

 後日、防衛事務次官と財務省事務次官による廊下での決闘の結果、全艦にVLSが初期装備として擬装されることが決まった。


 それとは関係なく17式艦対艦誘導弾が、 4連装発射筒から発射され飛び立っていく。

 ものの数分で、奇怪な巨大ホタテの閉殻筋と呼ばれる貝柱や外套膜と呼ばれるヒモに命中し、爆発して沈んでいく。


「距離を詰めろ、艦砲で仕留める」

「敵飛翔体多数接近!!」

「RWS(遠隔操作型水上艦艇用機関銃架)起動、迎撃せよ」


 二基のRWSが銃弾を空中の空飛ぶピラニア型半魚人に射ちまくるが数が多い。

 だがこの頃には船団護衛をしていた海上保安庁の巡視船『あさなぎ』や海上自衛隊潜水艦救難母艦『ちよだ』も自らの火の粉をふりはらい、火線の集中が行えるようになっていた。


「主砲射程内入りました!!」

「沈めるのは1個だけだ。

 連中に逃げ場を残しとかないと、キリがない」


『たつた』の62口径5インチ単装砲は連続で発射され、巨大なホタテ貝を穴だらけにして海中に沈めた。

 こうなると空飛ぶピラニア型半魚人達も残る1個の巨大ホタテ貝に撤収を始める。


「可能なか限り、連中の逃走方向を追え。

 我が国の船団を襲ったツケを払ってもらわないといけないからな」


 巨大ホタテ貝は貝殻を閉じて沈降し、海水を吐き出すジェット推進で海域の離脱を始めた。


「2、20ノットを確認!!」

「早いな。

 OZZ-5じゃ、追い付かないな。

 当艦で追うから船団護衛隊には任務を続行されたさしとつたえ!」


 OZZ-5 自律型水中航走式機雷探知機は自律的に航走し機雷を探知する水中無人機だが、水中の偵察にももちろん使える。

 問題は7ノット以下の速度しか出せないので、今回の任務には向かない。

『ちよだ』の深海救難艇(DSRV)も17ノット出せるがどちらにせよ非武装で行かせるわけにも行かなかった。


「十三ちゃん、今から追尾するってマジ?

 はよ本国に戻って報告書書かないといけないし、うちの実家に挨拶に来るとか言ってたよね?」


 堅苦しい財務警察の制服をカスタマイズしたギャルメイクの女、30代が戦闘指揮所に飛び込んできた。


「お前、どうやってここに入ってきた!?」

「はあ?

 うちら財務警察に入れない場所なんて無いんだけど」

「防衛機密は別だ、バカタレ!!

 いや、鍵掛けたよな?」


 まあ、長い間男女が同じ艦にいるとそういう仲になることもある。





 日本国

 葦原特別行政区

 大陸総督府


「それで外務省から海棲亜人の各大使に問い合わせを行ったのですが」


 新居に引っ越した総督府だが、住民の顔ぶれはさほど変わっていない。

 今日も秋山首席補佐官が本国からの情報を佐々木総督に説明していた。

 日本国は現在、五つの海棲亜人と国交を結んでいる。

 王国やエルフ大公国等も含み、大使館は全て東京都旧港区に有り、海棲亜人達の大使館は三田、芝、元麻布に集中している。

 葦原は内陸にある為、海棲亜人の領事館は無く、わざわざ東京の外務省を通じて問い合わせるしかなかった。


「空飛ぶピラニア型半魚人の存在はいずれの大使も知らないとのことでした。

 長征07号事件の時に接触したのは、ハゼの半魚人で、別物であると」

「巨大なホタテ貝については?」

「いわゆる貝獣はそれぞれの種族が卵のときから育成してるので、今回のように複数運用してるならそれなりに規模の大きい種族ですが、大使達も心当たりはないようです。

 ただ死体の解剖の結果、ある可能性が浮上しました」

「可能性?」

「今回の半魚人は淡水魚ではないかと」



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