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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
250/274

船団襲撃

 日本から南方大陸アウストラリス航路


 海上保安庁

 移民船団護衛隊

 しゅんこう型巡視船『あさなぎ』


 東京の竹芝桟橋から出港した移民船団は、八王子市民からの移民を乗せて、横須賀沖で海上保安庁のヘリコプター搭載巡視船か、海上自衛隊の艦艇と合流し、東京湾を抜けていく。


「船長、海自の『ちよだ』、予定どおり合流。

 船団先頭に着きました」


 部下からの報告に『あさなぎ』船長横倉一等海上保安監は頷く。


「全船に通達。

 船足を20ノットを維持し、船団の足並みを揃えよ。

 また、有視界からは外れないように注意せよ」


 この日の船団は移民船となる10000トン級以上のフェリーが5隻。

 移民達の車両や家財を運ぶ60000トン級自動車運搬船1隻、大小様々な貨物船10隻。

 洋上給油能力を持つ油槽船1隻。

 護衛の潜水艦救難母艦『ちよだ』と巡視船『あさぎり』で構成されている。

 過去には移民船が護衛も無しに出港させられていたが、『オペレーション ポセイドンアドベンチャー』後は、船団を組んで航行することとなった。

 大陸到着後は、空荷に大陸からの地下資源や食糧を満載して帰ってくる。

 往復二十日間の航海だが、問題は護衛艦艇の不足だった。

 船団はほぼ毎日、編成され出港する。


「今回は内陸の市だからか、自前の船で来る奴はがいなかったな」

「あれは迷惑なんですよね。

 遠洋航海に向いてなかったり、ヨットで来て船足が乱されたり」


 それでも自前の船を持っている民間人は、だいたいが漁船や釣り船に改造しているので、漁師に準ずるとして移民の対象からは外れている。


「しかし、海自さんは『ちよだ』か。

 武装はこの船の方が上だな」

「幌筵島沖でまたモンスターが確認されたから護衛艦はそちらのカバーにシフトしたようです」


 重武装の巡視船船長の横倉は、この時点で護衛隊の指揮も執ることになる。

 昨年まで日本本国と南方大陸アウストラリスの護衛艦は合わせても64隻しかいなかった。

 都市移民船団は、概ね80回以上を想定している。

 モンスター退治や災害派遣など、通常任務で

 練習艦、試験艦や訓練支援艦、掃海母艦、輸送艦、砕氷艦、潜水艦救難艦、補給艦まで武装を強化してまで動員してどうにか整備や休息の日数を確保している。

 おおすみ型輸送艦などは、艦板に陸自から借りた74式戦車を固定して艦載兵器などと、言い張っており、砕氷艦『しらせ』には、攻撃ヘリコプター AH-1S コブラを3機も搭載している凶悪ぶりだ。

 さすがに海自が支援艦を派遣してきた時には、海保がPLH型巡視船を派遣してカバーすることになった。


「前は無かった魚雷発射管がついてますね。

 さすがにファランクスだけじゃ足りないんでしょう」

「潜水艦救難艦は潜水艦への魚雷補給も行えるから活用しないのは勿体ないということだろう」


 船団は小笠原諸島を抜けて、大陸との中間地点に設置された海上プラットホーム『孝昭』を目指して航行する。

 時折、海洋モンスターが襲ってくるが数千トンの鋼鉄の船体は、それ自体が武器であり、軽々とその巨体で轢き殺していく。

 この海域は螺貝伯邦国の領海に近く、日本に対して航路の確保、海産物の輸入を担っており、海洋モンスターの家畜化により襲ってくる魔物は比較的少ない。

 地球側の船舶を襲ってくるなど、海棲亜人の影響化にない野生の個体だ。


「ぶつけられた船はどいつだ!!」

「移民フェリー『奥多摩丸』、航行に支障なし、乗客が衝撃で負傷者が出たとのことです」


『奥多摩丸』は移民用に量産された旅客数1200名、10000トン級フェリーだ。

 転移後に始まった移民航海だが、当初は国内に有ったフェリーや爆買い中国人が乗り付けていたクルーズ船を利用していたが、さすがに酷使が祟ったのか、不調を訴える船が多発した。

 資材だけは不足してなかったので、公共事業の一環としてフェリーの量産が始まった。

 政策を遂行した国土交通大臣十津川敏村の名前を取って、『敏村計画』と呼ばれ月刊フェリーと称された同型船は40隻に及んでいる。

 今回の航海のフェリーはすべての同型船だ。



「モンスターを特定できる?」「各船舶のカメラが撮影済みです。

 ライブラリー参照、該当無し、『でかい二枚貝』です」

「でかいホタテに見えたな。

 もう粉々だが」


 後日、ライブラリーは更新され、識者により貝獣『帆立船』と命名され、横倉船長は


『識者って誰だよ』


 と、呟くことになる。


 今回のモンスターの衝突は特に損傷も無かったが、なかには規格外の巨体もいる。

 まあ、ソナーや魚群探知機がそんな巨体を見逃すはずがないのだが


「『ちよだ』、魚雷3発発射!!

 命中!!」

「またなんか出てきたか?」


 鮫の頭と身体に後ろ半分がタコの触手のようになっていた生物は、『ちよだ』が放った短魚雷の直撃を受けて爆発した。

 血と肉が海面に飛び散り、他のモンスターが殺到してくる前に船団は増足してこの海域を後にする。


「後続の船団に警戒を促せ」

「上空にモンスターの群れ確認後!!」

「ええい、次から次と!!

 大使館に抗議を通信しろ」


 螺貝伯邦国の日本大使館はこの海域の情報収集も行っており、これだけのモンスターが発生してれば兆候が掴めていた筈なのだ。

 毎日、航行する船団。

 ほど近い『孝昭』の海域調査。

 螺貝伯邦国のパトロール。


 空から襲ってきたのは翼を羽ばたかせる魚人の集団だった。


「各個に迎撃!!

 敵を船内にいれるな」


 巡視船『あさなぎ』の70口径40mm単装機関砲や20mm多砲身機関砲、『ちよだ』の20mm多砲身機関砲のCIWS バルカンファランクスが火を噴くがその威力に気がついた敵が海中に潜り出す。

 至近距離まで船の傍まで潜航し、ジャンプで甲板まで跳び登ろうとする。

 海上保安官や自衛官達は全員が拳銃を携帯し、立入検査隊や銃架に小銃を構えた隊員が迎撃するが、フェリーや貨物船はこうはいかない。

 それでも長期の移民船団による対処マニュアルは確立されている。


「護衛隊に殿を任せ、最大船足でかつジグザグ航行で敵を振り切れ!!

 僚船との距離に気を付けろ」


 17隻の大型船が一斉にスクリューを最大に回せば、海中の水流が乱れて漁人達が押し流されていく。

 ならばと空中に飛び上がれば、フェリーからは一緒に移民する高尾警察署の元署員達が拳銃を発砲して応戦してくる。

 何よりも漁人達が困惑したのが、フェリー内に鎧甲冑を着た自警団が弓矢で火縄銃、刀や槍で抵抗してくるのだ。

 故郷、八王子の北条氏照まつりに参加していた甲冑隊が、農作物を害獣から守る為に自警団に組み込まれて発展したものだ。

 地元の学校部活動の武道系学生も加わり、かなりの規模となっていた自警団の支隊である。

 フェリーの守りが厚く、貨物船は船員達が内部に立て籠り、武装警備員達が通路にバリケードを築いて抵抗している。

 だが漁人達の身体能力は凄まじく、刀を口で受け止め噛み砕き、鋭利なヒレで斬りつけ、自警団や警官に負傷者が続出した。


「ヘリコプターで増援を送り込めないか」

「駄目です。

 飛んでる連中が危なすぎて、ヘリを飛ばせません」


 漁人達の数は少なく、殲滅は各々の船でも可能だろうが、死者が出ることは避けたかった。


「いや、援軍はいたか」


 無線からは海上自衛隊の護衛艦がこちらに向かっていることが知らされる。


「こんなところに護衛艦なんていましたっけ?

 前の船団から駆け付けてくれたんでしょうか」

「違うな。

 こいつは『たつた』だ。

 護衛艦隊とは別の西方大陸に派遣されていた水上艦隊の護衛艦だ」

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