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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
249/274

豊葦原中国

 大陸東部

 日本国 新京特別行政区

 大陸総督府


 総督府が鎮座する新京城では、陸上自衛隊第6、7教育連隊の隊員達で総督府移転の準備が行われていた。

 第7教育連隊は新都市に駐屯する方面隊直轄部隊として新設された部隊だ。

 第6教育連隊はこのまま新京城三の丸を駐屯地として、新京方面隊直轄部隊として残留が決まった。


「慣れ親しんだ新京を離れるのは寂しいが、うちも手狭になったからな」


 第6教導中隊隊長の教導中隊隊長柿生一等陸尉は、第7教育連隊第1陸曹教育大隊の隊長としして三等陸佐に昇進異動が決まっていた。

 新都市に異動が決まったのは、何れも大陸内で昇進が決まった隊員達だ。

 同時に各部隊内でも穴埋め昇進が行われる。

 また、柿生一尉の私邸でも同居親族に子供が産まれたので家屋を親族に売却して、新都市で新居を贈呈されることになる。

 新京城地下で治療を受けている獣人化した加東二等陸尉の件は気になるが、自分に出きることはないと割り切り、新天地に赴くことになった。


「隊長、新市長が視察に来てますよ」


 総督府移転後に新京特別行政区は新京市になる。

 先日の市長選を制した前副総督補佐官青塚栄司市長が姿を現した。


「ご苦労様です。

 引越し準備は順調ですか?」


 青塚新市長もこの新京城に勤めといたので、柿生一尉と顔見知りだったりする。


「天気もいいので駅までの輸送は順調です。

 自衛隊持ち出しは3日、総督府分は明日には運び出だせるかと思います」

「新総督府も仮開庁してますが急いでは無いみたいです。

 普通任務に支障が無い範囲でお願いします」


 青塚栄司は連立与党である日本国民戦線というタカ派の党員であり、大陸西部では流血沙汰に及ぶ幾つもの紛争を画策した危険人物という認識が自衛隊にある。

 しかし、事務処理能力に優れ、党内の過激派を抑えれるバランサーでもある。

 大陸に積極的に進出したい財界の意向を受けてはいるが、日本国領内に権益を振り分けることで、満足させる手腕を持っていた。

 そして青塚の怖いところは西部の貴族を含む富裕層にフェミニズムを植え付け、晩婚化をある程度促進させた。

 これにより西部有力者の血縁による結束にヒビを入れている。


「しかし、市長になるとうっかり出張も出来ませんな。

 西部への冒険とか楽しかったんですが」

「二百万都市の市長さんですからね。

 忙しくなるんでしょうね」


 妙なことしないように縛り付けれたんじゃないかと柿生一尉は勘ぐってしまう。


「新都市の方はそれなりに住民が入植したのでしょう?

 早く市名が決まらなければ不便ですね」

「もう30万人ばかり住んでるですけどね。

 いつまでも引っ張るやら」


 現在の新都市には鹿児島市から入植した元々の鹿児島市民と市市町村合併した旧薩摩河内市、

 旧指宿市の市民達が生活を始めている。

 また、移民の玄関口に指定された稲毛市の港には、市町村合併された八王子市の市民達が移民の為に連日、移民船で入港している。

 年内には松山市の市町村合併も決まる予定た。


「正式発表は大晦日ですよ。

 次の姫路市からの入植も終わっちゃうなあ」

「次はどこでしたっけ?」

「宇都宮ですね。

 もう合併は終わって準備は始まってるはずです」


 柿生一尉は現在の宇都宮駐屯地と北宇都宮駐屯地の合併はさすがに無理だなと考えていた。





 日本国

 栃木県宇都宮市

 宇都宮駐屯地


「さすがに北宇都宮駐屯地の拡張は、現実的ではありません。

 南側には広大な墓地で、官公庁航空機工場が点在、隣接しており、住宅街はその関係者だらけです」


 北宇都宮駐屯地の状況を説明する幕僚の言葉を第12師団師団長八広三等陸将はうんざりした顔で聞いていた。

 東京で行われた統合司令哀川一等陸将の送別会の帰りに立ち寄り、栃木県内の駐屯地拡張工事の調査に来たのだが、最初の北宇都宮駐屯地から躓いてしまった。

 宇都宮市も移民の対象となり、宇都宮市、下野市、矢板市、さくら市、大田原市、那須烏山市、那須塩原市、河内郡、芳賀郡、塩谷郡、那須郡が正式に合併したニュースが連日、報道を賑わせていた。

 何気に北関東では初の移民となる。


「新潟市の時も新発田駐屯地の拡張には大幅な制限を喰らった。

 高田駐屯地や佐渡分屯地が無ければ第12即応機動連隊は行き場を失ってた。

 北宇都宮駐屯地も第12航空隊の為に県警航空隊に移転してもらったが、それでも手狭だ」


 旧新発田市の新発田駐屯地は、南側に新発田城と水堀があり、西側の公園を接収するしか、拡張出来なかった。

 北宇都宮駐屯地はヘリコプターを中心とする航空学校も有する駐屯地で、栃木県唯一の滑走路がある。

 また、ヘリコプターメーカーの工場が隣接している為に拡張工事にはやはり制限がかかる。

 転移後の第12旅団が第12師団への再編と沿岸防衛の観点から富山県、石川県も警備地区に含まれ、機体数も人員も増大した。

 同居していた県警航空隊は、駐屯地西側の運動公園を仮設の基地としている。


「我々も西側のスポーツ施設や運動公園に拡張が出来れば問題は解消できるのですが」


 北宇都宮駐屯地の北側には、大規模なスポーツ施設や野球場四つ、サッカー場、陸上競技場2つ、遊園地を有する巨大な運動公園がある。

 住民の大半がいなくなるのだから拡張工事の許可が降りる可能性は高かった。


「宇都宮駐屯地はどうだ?」


 宇都宮市内にあるもう一つの駐屯地には第12特科連隊が駐屯している。

 この部隊も転移後に連隊に再編成されたことで、隊員が増大した。


「千人以上の隊員がいるのに中隊規模の北宇都宮駐屯地の半分程度の広さだ。

 火砲や弾薬も嵩張るんだから、この機会になんとかしなければならない」


 宇都宮駐屯地も西側に農地、南側には太陽光発電施設が有って、拡張の方向的に北側の小学校を接収するしかない。

 小隊単位で柏崎市の鯨波砲台や佐渡島の小川台砲台、富山県の黒部市の生地台場、石川県白山市の大野台場に分屯させて凌いでる状態だ。


「駐屯地南東のショッピングセンターを接収出来れば用地は確保できます。

 やはり住宅街は権利問題が複雑で、大都会よりも土地を手放したがりません」

「先祖代々とか、農地を持ってるから移民の対象外だとか言い張ってくるのが混在してるからな。

 他の県でも似たような話があったが、関東の住宅街に置ける混在ぶりは規模が違うな」


 不動産屋じゃあるまいし、駐屯地の用地買収などさいたま市にある北関東防衛局の仕事なのだが、移民の忙しい最中に用地買収の地権者との交渉は難航している。

 逆に協力を仰いだ隊員達の地縁、血縁を利用した交渉の方が先に進んでいる有り様だった。

 隊員達も協同農場の運営などで、不動産にも詳しくなっている。

 八広三将は、自分の住む高崎市に順番が来れば参考にさせてもらおうと考えていた。







 大陸東部

 新総督府仮庁舎


 記者団や官僚、見物人が見守るなか、佐々木洋介総督が自ら筆でしたためた看板を持って新総督府仮庁舎玄関に現れた。


「失礼ながら総督閣下はなかなかの達筆なのですな」


 副総督の北村大地は皮肉抜きで称賛してくる。


「道場の看板とか、揮毫とか散々に書かされましたからね。

 下手なものも書けないので、専門の先生に弟子入りする羽目になりました」


 佐々木総督は神居市在住の際に剣道教室から佐々木流総合武道の創始者として名を馳せていた。

 本人からすればとんだ誤解なのだが、新設される道場等に飾る看板や揮毫を求められるようになった。

 今では一角の書道家としても名声を得ている。

 そんな佐々木総督が書いた看板を北村副総督と二人で隣の建物、正面玄関口に立て掛けた。


『葦原特別行政区』


 それが日本の新たな拠点の都市名だった。



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