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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
248/274

混戦始末と炎上

 大陸南部

 シュタイアー男爵領

 ダークエルフ集落 大洞窟


 ブリタニア陸軍情報部バーナード・メッサヴィー少佐が、日本国陸上自衛隊、吉野一等陸尉率いる南部混成団普通科分隊にけしかけた人と犬の人工獣人こと人犬達は、ものの見事に迷彩服の自衛官達を無視して背後のダークエルフ達に襲いかかっていた。


「あれ?

 お前等……

 ああ待て、大戦期のソ連軍の対戦車犬が自軍に戻り被害を出した例が……」


 混乱したメッサヴィー少佐が呟く言葉に聞き逃せない単語が幾つかあった。


「ああ、そうか。

 兵士に軍服とか、迷彩服で訓練させたな?

 さてはお前、地球人だな」


 白人種は米国や北サハリン、ブリタニア市、エウローペ市に多数在住し、アルベルト市等、旧南米系にもいるので、所属がわかりにくい。

 何より大陸人はほとんどが白人系だ。

 身元を隠すのには大変便利な姿、容姿だった。

 メッサヴィー少佐は身元を隠す為に大陸語を話していたが、大陸には無い単語、この期に及んで現れる人間等、敵でしかないのははっきりしている。

 躊躇わずに吉野一尉は呆然としている高麗製 K5自動拳銃の銃弾を四発撃ち込む。

 後ろを振り返れば暴れまわる人犬達三匹が、白刃を振るい、牙を突き立て、爪を突き刺し、ダークエルフ達に被害を与える、死人まで出ていた。

 ダークエルフの主武装の弓も近距離に詰められては射ちにくく、矢が数本当たった程度では人犬達は怯みもしない。

 頼みの精霊魔術で土を被せてセントバーナードの人犬を拘束するが、プードルの人犬に術者が咬み殺されて、術も解けてしまう。

 ジャックラッセルの人犬は、無尽蔵の体力でダークエルフ達の間を駆け抜け、出血を強いている。

 それぞれの人犬にも多少の斬撃や銃弾を浴びせるが、ライカンスロープ特有の再生能力で回復してくる。

 最初に倒したと思えた人犬達も立ち上がり乱戦に躍り込んでくる。


「銃弾による援護は中止、総員着剣!!」


 南部混成団で使用されている03式自動歩槍の先に華西製銃剣である95式刺刀を装着し、五人の隊員達がセントバーナードの人犬に突き立てていく。

 ダメージの再生に追い付いてかなかった人犬は絶命していった。

 残りは二匹だが、ジャックラッセルの人犬は動きが早く、自衛官、ダークエルフともに刃をあてることが出来ないが、やがて多勢に無勢か押し込まれていく。

 異様なのはプードルの人犬で、その独特な毛並みで刃や矢の切れ味や貫通力を鈍らせる。

 そのカットスタイルは、「コンチネンタル・クリップ」というスタイルで、顔と腰回りに短く剃りこみをいれつつ、胸と手足の被毛は丸く残している。

 プードルは17世紀頃から主に水鳥の狩猟や回収の仕事を行っていた。

 水の中に飛び込んで泳ぐことも多々あり、猟師達が「被毛が水を吸って重くならないように」と、毛を短くしようと考えたのです。

 時には冷たい水に入ることもあり、心臓と関節周りの被毛は残すようにした狩猟の効率を高めるために生まれたのカットなのだ。

 その分、カットされた部分は体毛がなく、皮膚が剥き出しだ。

 吉野一尉が滑り込むように股下に移動して銃剣を腹に刺すと、動きが鈍り、あとは複数方向から銃剣や剣、矢まで飛んできてようやく仕留めた。


「負傷者を倉に運べ!!」

「ポーションを惜しむな!!」

「何!?」


 ダークエルフ達は同胞も自衛官も分け隔てなく血止めや搬送してくれた。

 ポーションが保存された倉に負傷者が運び込まれると、惜しみ無く傷口に樽から柄杓で掬ったポーションを掛けていく。


「あ、そんなに……

 いる、いるんだよね、大丈夫わかってる」

「まあ、月寿草の洞穴は無事だからいずれまた作れるさ」


 悲痛な声を隠せない吉野一尉の言葉とは聞き流され、ポーションは樽の半分は使われた。

 即ち、日本に献上される樽三本分からである。

 ともに外敵から戦った隊員とダークエルフ達が戦友のような空気を出しているので、言いたいことも言えなくなった。

 案内人のダークエルフのボリフが慰めの言葉を掛けてくれるがあまり聞こえていない。


「くそっ、せめてアイツの身元は徹底して暴いてやる」


 死体でもいいからあの地球人の顔を引っぱたきたい気分だった。

 人犬達の遺体は、臨時の洞穴に放り込んである。

 今回の争いではダークエルフ達も30名近く死亡している。

 彼等の遺体搬送が優先になるのは仕方がなかった。

 吉野一尉とボリフが人犬達の遺体を放り込んだ洞穴にくると見張りのダークエルフ達と重傷を負った厚真三等陸曹が何かに噛まれて殺されていた。

 そして人犬達の遺体には火がくべられて炎上している。

 通路の先の人影に気がつき、拳銃を構えると一匹の人犬がいた。


「そうかお前もライカンスロープか。

 銃弾が足りなかったかな」


 メッサヴィー少佐は危険犬種に指定される土佐闘犬の人犬だった。

 危険犬種は、特定の犬種が他の犬種よりも攻撃的であるとみなされ、法律や条例で飼育や輸入、飼育、繁殖、販売に制限を設けられている。

 日本では土佐犬、秋田犬、紀州犬、ジャーマン・シェパード、グレート・デーン、ドーベルマン、セント・バーナード、アラスカン・マラミュート、マスチフが該当し、海外ではピットブルテリア、、ドゴアルヘンティーノ、フィラブラジレイロ、ロットワイラーも指定されている。

 所有する場合には公の場では口輪を着用し、引き紐を付けることも義務づけられることがある。

 なかでも土佐闘犬は、闘争本能が強く成犬雄同士は近づけない方が良いくらいだ。

 筋肉質だが皮膚は咬まれても大丈夫なように弛んでいる。

 それが人間サイズの二足歩行で防弾チョッキを着てれば、どれほどの強敵かは察することは容易だ。


「それでも一人じゃ無理だろ?」


 ボリフも弓を構えるがすぐに武装したダークエルフと自衛官達が駆け付けてくる。


「攻撃を待て、奴の手に有るのは……」


 ボリフの指摘に全員が注目するとメッサヴィー少佐の手には水耕プラントから引き抜かれた月寿草だった。


「部下の治療が優先じゃないかな、吉野一尉」


 嘲るように呟くと、その俊足で誰も追い付けなくなっていた。

 これまで労苦が水の泡となった吉野一尉だが、ボリフが耳打ちする。


「大丈夫だ。

 月寿草の種は幾つか隠してある。

 半分はあんたらに託すさ」





「ああ、まだ有ったんだ。

 なかなか上手くはいかないものだな」


 メッサヴィー少佐は乱戦の中、幾つかの盗聴器をダークエルフに忍ばせていた。

 死体のふりをして洞窟内部に侵入し、水耕プラントにいたダークエルフを殺し、証拠隠滅の為に人犬達の死体を燃やした。

 任務は最低限達成したが、出来れば出来合いのポーションや種子の始末もしたかった。

 月寿草の育成は外部で拉致したダークエルフに自白剤を投与し、聞き出しているから問題はない。

 日本国の一人勝ちは阻止する最低限の目的は達成できたのだから深追いは禁物だ。

 洞窟から出ると、外に隠していた無線機を回収し、迎えを呼ぶことにした。


「002(ダブルオーツー)より、ベイカー・ストリート。

 任務は達成、所定の位置でヘリを待つ、以上」





 大陸東部

 日本国 新京特別行政区

 大陸総督府


「結局、我々の手に入ったのは樽二本分のポーションと種は10粒だけか」

「どの研究機関に引き渡すかは厳正なる審査の結果待ちとなります」

「樽の一本は自衛隊、警察といった治安機関の共用品としますが、使いどころは間違わないで下さい。

 それより、こちらは燃えそうですな」


 佐々木総督は正直、ポーションにはあまり興味はない。

 秋山首席補佐官から渡された写真には、今回の騒動で使われた北サハリン共和国のミストラル級強襲揚陸艦『ウラジオストク』が写っていた。

 その所有を巡って、エウローペ市が北サハリンに返還を要求する外交問題に発展していた。






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