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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
247/274

ワンワンパニック

 

 大陸南部

 シュタイアー男爵領

 大森林 ダークエルフ集落


 ダークエルフ達と交流していた吉野一等陸尉は、その実態を調査していた。

 ダークエルフの集落のある地下洞窟はもとはダンジョンとなっていた遺跡を利用しただ。

 確認されているダンジョンとしては、魔神達に占拠されたドワーフ候国の地下都市だった大石窟に匹敵する。

 大石窟は数万人のドワーフが居住し、なおかつドワーフ達が採石や鉱山として拡張していたので全容は推し測れなくなっている。

 ダークエルフ達は、光源に光の精霊を利用している為に明るさに不自由していない。


「太陽光じゃないから免疫力とか気になるが、その辺は学者さんに任せるとして、飯は苔料理中心でヘルシーなんだろうが、腹には溜まりにくいな」

「ダークエルフは肥満がいませんが、細マッチョやグラマラスな体型が多いので、スレンダー一辺倒のエルフより健康的ですね」


 吉野一尉とその部下達はダークエルフの生体や生活、文化、性癖などの調査を行い、報告を共有していた。


「概算では集落全体で三千人程度。

 世間の評判と違い、引き籠り気味で、性的には保守。

 完全な少数民族だな」


 百万規模のエルフ大公国とはえらい違いだ。

 日本がたまにやる独立領化もこれでは厳しい。

 しかし、ポーション増産の為にはここに支援をいれるしかなかった。

 ポーションはある植物を水耕栽培した容器に入った水に魔法を混入させて作成される。

 混入させた魔術によって効果が異なる魔法水が造られるが、そのうちの回復系の魔術や奇跡を混入させたのがポーションである。


「意外に単純な造りだが、この水耕プラントが一つしかないのか」

「月寿草をどうにか育成してるんだが、自生してるのはなかなか見つからなくてな。

 増産はままならなくなっている。

 全部をポーションに使うわけにもいかないからな。

 毒消しや病気、他の術用に備蓄もいる。

 そうなるとやはり、ポーションも少数生産しかない」


 案内人のダークエルフ、ボリフが教えてくれる。

 ダークエルフ達も増産できるにはこしたことは無いらしい。



 そこに鳴子が鳴り響き、それぞれの洞穴を利用した家々からダークエルフ達が弓矢を携えて出てくる。


「侵入者だ。

 あんたらの仲間か?」

「そんな話は聞いてないな。

 第一分隊、住民の方々を支援しろ。

 発砲を許可する」


 千年近く、外部の侵入者を拒んできた集落だ。

 罠や警報の類いは山ほどある。

 地下洞口入口には簡単な番所も置かれている。


「二番鳴子だ

 番所が突破されたようだ」




 地下洞窟入口


 爆破した番所を後にブリタニア陸軍情報部バーナード・メッサヴィー少佐は口笛を吹いていた。

 かつてのマッドサイエンティスト、マーシャル卿の研究産物、人工獣人化のデータは、ある程度ブリタニア市に持ち込まれていた。

 そこから密かに研究は続けられ、一つの成功を納めていた。

 勿論、実験材料はブリタニア近郊に住む大陸人住民である。

 ブリタニア情報部は一つの村の住民全員を人工獣人に変え、秘密任務の尖兵にしていた。


「まあ、狼の獣人が忠誠度が低いことはウェールズ大尉が証明してくれたから犬の獣人となったんですが、参ったなあ」


 狼は多少の経路や体格に差はあれど、それなりに統一感があった。

 しかし、犬は犬種ごとにその容姿や特徴に差があった。

 しかも研究者達がどの犬種でも獣人化出来るのか、試しまくっていたからたちが悪い。

 ダルメシアン柄の人工獣人は、その脚力で距離を詰めてSAS式武器格闘術で、ダークエルフの見張りを始末したが、その白と黒のぶち柄は絶対に隠密行動に向いていない。

 木を怪力で降り、落ちてきたダークエルフを噛み殺したブルドックの人工獣人は意外にスタミナが無く、呼吸困難に陥っている。

 プードルの獣人に至っては存在がホラーである。

 しっかりとトリミングされた身長189センチの体躯の二足歩行の姿にトリマーは正気だったのか疑いたい。

 彼らのことは人狼にちなんで、人犬と呼称される。


「素直にシェパードやドーベルマンで統一しろよ。

 絶対に面白がってたろあいつら」


 シェパードとドーベルマンの人犬は一人ずつしかいない。

 そんなこんなで十種の犬種の人犬を纏めるはめになったメッサヴィー少佐は些か、不安になる。

 しかし、結果はダークエルフのパトロールと門番は片付けた。

 銃火器は扱わせれないが、ナイフや刀剣、牙だけでも十分な戦果を発揮していた。

 輸送係のセントバーナードの人犬が皆にワインを一杯振る舞ってる中、次のダークエルフの一団がやってくる気配がある。

 しかし、姿も足音も消したまま、ダークエルフ達は矢を放ち、人犬に命中させて来る。

 その毛皮と予め着せていたボディアーマーがある程度の矢が突き刺さるのは防いでくれる。

 さらに厄介な再生能力が矢傷による負傷を癒してくる。


「ライカンスロープか?

 頭を狙え!!」


 通常の獣人と人間から獣人に変化するライカンスロープの違いは、ライカンスロープは呪いの力で守られ、驚異的な再生能力を有していることだ。

 最も今回のライカンスロープは科学の力なのだが、再生能力は健在である。

 人から獣に獣から人に変化することも再生能力の一環であると、メッサヴィー少佐は聞いていた。

 しかし、さすがにダックスフントの人工獣人がヘッドショットを受けて倒れたところを無数の矢に貫かれて絶命する。

 再生能力の許容量を越えれば死ぬことには代わり無い。

 その間に彼らの嗅覚が姿隠しの術で接近していたダークエルフ達の位置を特定することに成功していた。

 その脚力を生かして、ダークエルフの戦士達に噛みつき、刃で貫いていく。

 勿論、ダークエルフの戦士達も土の精霊や火の精霊に呼び掛け、ダルメシアンの人犬を地面から生えた土の槍で貫き、ポメラニアンの人犬に無数の炎の弾が襲い掛かり、焼き殺していった。

 三人の人犬が殺られたが、ダークエルフの戦士達30名を葬っていた。

 ダークエルフの社会は全員が武器を持ち、精霊魔術も使える国民皆兵な部族だが、普段は女子供は苔や果実の採集による食糧調達を役割とし、男達は狩りとそれに乗じた安全圏の確保や領内への物質調達を生業としている。

 戦うことに特化した戦士階級の男達は集落全体で70人近くしかおらず、半数近くが殺されたことになる。

 メッサヴィー少佐にしても集落そのものを落とすには戦力が足りないと感じていた。

 だが流血を浴びて興奮している人犬達を見て、ここは好き勝手に暴れさせて、ダークエルフ達を消耗させるのが得策と考えていた。

 実験に使った村に戻れば、実戦で使える人犬は一個小隊は準備できている。


「よし、お前達はダークエルフの男達を殺しまくれ、女は好きに扱っていい。

 私は本部に増援を要請する」


 問題は集落にいる自衛隊だ。

 彼らに自分の姿は見られるわけにはいかない。


「その応援は呼ばせる訳にはいかないな」


 洞窟は一本道で、メッサヴィー少佐の声が響いていたのか、吉野一尉の声も響いていた。


「どこの部隊か知らないが、その身柄を拘束させてもらう」

「お断りする、殺れ!!」


 命令に人犬達に従い、数十メートル先の自衛隊と背後のダークエルフ達に向かってくる。

 自衛官達も発砲し、ドーベルマン、ブルドック、アフガンハウンドの人犬達が射殺されていくが、残りの人犬達が殺到していく。

 近接戦の覚悟を決めた自衛官達だが、人犬達が通りすぎて、後方のダークエルフ達を襲っている。


「あれ?」


 戸惑いながらも吉野一尉はシェパードの人犬を撃ち殺す。

 人犬達は訓練の過程で緑色の服を着た人間は襲わないよう刷り込まれてしまっていた。




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