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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
246/274

ケモノ ロワイヤル

 大陸南部

 シュタイアー男爵領

 大森林 

 吉野街道(仮)


 ダークエルフの集落に続く道を、22名の自衛官達は文字通り切り開いていた。

 チェーンソーや斧で木を斬り倒し、地面を簡単に整地し、余剰な土で穴を埋め、土塁を盛っていく。


「最初の頃は、妙なテンションでサクサク行ったが、さすがに疲れてきたな」

「隊長達はきっとダークエルフの美女に歓待されてデレデレしてるんだぜ」

「奥さんに言いつけてやろう。

 うちの女房と日本人街でジンギスカン屋の店員してるんだ」


 日本国領内ならともかく、南部混成団が駐屯する独立都市サイゴンは一応他国領だ。

 共同農場や牧場といった広大な土地を使う副業は許可が下りにくい。

 歓迎されるのは飲食店で、日本の商品を売ってくれる量販店だ。

 当然、現地の隊員家族もそういった形で働いていたりする。

 ちなみに即席街道の名前に吉野一等陸尉の名前が付いているのは、伐採作業なら逃げ出した小隊長に対する隊員達の嫌がらせだ。

 真っ先に街道名が書かれた碑石が製作されたあたりに、隊員達のストレスが感じられた。

 逃げ出した隊長達に代わり、今も堀切陸士長がチェーンソーで大木に切れ目を入れて倒すところだった。


「倒れるぞ!!」


 倒木した大木は、茂みに隠れていた象の獣人に直撃して下敷きにした。


「……、ああ」

「……、えっと危ないぞ、生きてる?」

「お、俺、掛け声はしたからな!!」


「ウガアー!!

 コロス!!」


 下敷きとなっていた象の獣人は大木をはね除けて、頭部を血まみれになっている。

 それをものともせずに長鼻を隊員に巻き付けて引き寄せ、隊員を象牙で貫く気だった。

 巻き付かれた堀切陸士長だが、冷静にチェーンソーを起動させて長鼻を切り落とす。


「グホッ、グホッ!?」

「あ、大丈夫か?」


 思わずチェーンソーのエンジンを掛けてしまった血まみれのが堀切陸士長が声を掛ける。

 獣人なら話が通じる可能性があり、鼻を巻き付けてくる行為は友好の仕草かもしれない。

 ちなみに象の獣人が言った言葉は、発音の問題か、聞き取れていない。


「やばいよお前、倒木ぶつけて、現地人を負傷させるなんて」


 現場指揮を任されていた牛田二等陸尉は対応に苦慮する顔を見せる。


「俺、捕まるのですかなあ……」

「奥さんと子供は団のみんなで支援するから心配するな。

 それよりも消……」


 しんみりとしだす陸自隊員に航空自衛隊の宮崎空士長が叫んで現実を認識させる。


「いいから早く手当てしてやれ!!

 象さんが泣き崩れてるじゃないか!!」


 象の獣人はつぶら瞳からは涙を、頭部と鼻の裂傷からは血を垂れ流している。

 さずがに罪悪感を覚えた陸自隊員達が、治療に駆け寄ろうとすると背後で大きな音がした。

 全員が振り向くと、街道を作る原因となった3トン半水タンク車の水タンクに犀の獣人達が巨大な斧で破砕させた音だった。

 そのまま体当りで車両を横転させる。


「なんだ敵か」


 宮崎空士長が躊躇せずに象の獣人の顔面に9mm拳銃 の弾丸を全弾叩き込んだ。

 9mm拳銃は転移後に陸自全隊員に行き渡る量が生産され、現在ではエウローパ製9mm拳銃 SFP9が後継として採用され、本国陸上自衛隊でも第15師団以外では主流となっている。

 皇国との戦争やモンスター駆除におけるダンジョン攻略を想定されたからだ。

 実際のところは、大量配備したはいいが、あまり使いどころがなかったのが実態だ。

 9mm拳銃はそのままに9mm拳銃 SFP9は、転移前基準に幹部自衛官等に交換されていっている。

 南部混成団の拳銃は、政治的配慮もあり、高麗製 K5自動拳銃や華西製 92式手槍が主流だ。

 伐採作業の為に小銃を車両に保管していた隊員達は、一斉に犀の獣人達に発砲する。

 たかだか数名の獣人の為に小銃弾を惜しんだ為でもある。

 車上の銃架にブローニングM2重機関銃やPKP ペチェネグ汎用機関銃を設置していた警戒班からの銃撃も無く、様子を観られている。

 撃ちながら先程、象の獣人に傷害を負わせていた隊員は、胸を撫で下ろしていた。


「撃ち方やめ!!」


 犀や象といった皮膚が厚くて丈夫な硬皮動物は、格子構造になったコラーゲンやケラチンが角質化し、肉食獣の牙や爪、銃弾等も容易には通さない。

 しかし、それはその巨体を持っての前提であり、獣人としてのせいぜいが二メートル代の体躯では、拳銃弾の雨には無力であり、蜂の巣になって倒れ付していた。


「さてどうするか?」


 牛田二尉は被害を確認するが、横転した3トン半水タンク車とそのタンクに穴が空いたくらいだ。


「目的を達せられないなら水タンク修理の為に一度駐屯地に戻らないとな」


 こんなところで延々と街道整備をしていたくない隊員達は喜色の顔を隠せない。


「問題は吉野小隊長か。

 宮崎空士長、頼む」


 無線機を渡された宮崎空士長は、吉野一尉にチャンネルを繋いでもらい、精一杯の演技をする。


「現在、獣人の攻撃を受けています!!

 敵は犀と象の獣人、車両もひっくり返されて部隊は後退中、水タンが破壊されました、仕方ない、後退です」



 一連の戦闘を姿隠しの術で身を隠したエルフが二人、遠見の術を併用して監視していた。


「ああ、バイニマラ君殺されちゃった!!

 あの白い服の奴許せない!!」

「彼はそんな名前だったか?」

「アンカス族の名前なんて発音しにくいから私が付けたの!!

 彼の長い鼻、とても良かったのに」


 女エルフは象の獣人と性的な関係があったから思い入れがあるんだなと男エルフは悟った。


「気持ちはわかる。

 俺も彼等とは同様の関係だったから」


 二人はエルフの暗部で、女が象の獣人アンカス族の担当、男が犀の獣人ザイン族の担当だった。

 両部族はマクシミリアン辺境伯領に隣接する天領を根城に皇国にまつろわぬ部族だった。

 彼等の脅威から民を守るためにマクシミリアン辺境伯家が封ぜられたのだが、その抵抗は千年近く続いたと思われていた。

 実際には当の昔に鎮圧、平定されていたのだが、マクシミリアン辺境伯家が周辺貴族の軍事的指揮権を皇国に返還しないために傘下に納め、周辺貴族を襲わせることで富を得ていたのだ。

 エルフ達はそのことを知っていたが、南部のことには興味もないし、将来的に皇国への抵抗勢力となると隠蔽に協力していた。

 エルフ達としては、これまで悪事を擦り付けていたダークエルフの実態が世に知れることは防ぎたく、その利権を狙うマクシミリアン辺境伯家と利害が一致し、戦士達を駆り出したのである。

 そこをどう嗅ぎ付けてきたのか、ブリタニア情報部、北サハリン共和国保安庁、通称PSBが協力を申し出てきたのだ。

 北サハリン共和国は、奪取した旧フランス海軍ミストラル級『ディクスミュード』改め『ウラジオストク』の試験航行、ブリタニアのヘリコプターに便乗させて戦士達を送り込んだのだ。


「まあ、ポーションなんてインチキ薬。

 日本に手に入ったら一人勝ちが続きますからね。

 彼等は現状の主戦力を集落から引き剥がしてくれた。

 あとは我々にお任せを」


 冒険者風の格好をしているが明らかに地球人臭い男を二人は睨み付ける。


「着けてきたの?」

「いえ、辿ってきたのですよ。

 お前達の淫靡な匂いを」


 男の背後から十数人の大陸人の男達が現れる。

 エルフの二人は精霊に呼び掛ける言葉を唱えるが、一瞬で喉笛を切り裂かれていた。


「バ……カな……人狼だ……と……」

「いえ、ただの猟犬ですよ」


 エルフの女が絞り出した声に応え、ブリタニア軍情報部バーナード・メッサヴィー少佐は、頭を踏み潰した。


「さて集落にいる日本人は十人か、全員殺すしかないかな?」

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― 新着の感想 ―
>宮崎空士長が躊躇せずに象の獣人の顔面に9mm拳銃の弾丸を全弾叩き込んだ。 これには某天狗仮面師匠もニッコリ。
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