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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
243/274

年始問答

 大陸北部



 ウルンゲン子爵領から脱出し、討伐軍を振り切ったタチアナ皇女一行の皇国軍は逃走先のミゲール子爵に熱烈に迎い入れられた。

 ダークエルフから接収した新型小銃は絶大な威力を発揮したが、賊軍の数の多さから子爵領を放棄せざるをえなかった。

 ミゲール子爵領に隣接するバーチチバ伯爵も感激するように膝を付かれ、忠誠を誓ってくれた。

 老境だが屈強な領邦軍を抱えるバーチチバ伯爵は、現地の討伐軍を撃退して皇国軍の進軍を可能にした。


「で、次は誰かな?」

「バファロ侯爵ですな。

 この近辺では最大勢力ですが、傲慢で野心的な男です」


 バーチチバ伯爵が忠告して来るが、会わないわけにはいかない。

 何しろ二万の領邦軍を保有する侯爵は是非とも味方に付けたい。

 その為に使者も送っているが、返答は焦らされていた。

 それが今になってて大軍と共にバーチチバ伯爵の領境に展開している。


「侯爵は数人の側近と護衛十数人だけでくるそうですが」

「こちらの七倍の兵力だから無碍にも出来まい。

 会おう」



 バーチチバ伯爵の居城の大広間で会見が行われる。

 舞踏会にも使われる大広間だ。

 いざとなれば荒事にも使える。


「これはこれは遅参申し訳ない。

 我が兄の領邦が王国に付くというので制圧してたらウルンゲン子爵領に行けませんでしたわ。

 しかし、姫君。

 これからはこのバァフロ侯爵に全てを任せ、王国軍に対する総大将をお命じ下さい」


 バファロ侯爵領領邦軍と合流すれば二万五千の兵力となる。

 まだ十歳になったばかりの姫君等、侯爵の手のひらになる筈だった。


「もう良い、帰れ」

「はあ、今なんと?」

「兵をまとめて帰れといったのだ。

 おまえの兵などいらん帰れ」


 タチアナとしては二万の兵力は喉から手が出るほど欲しかったが、侯爵の舐め腐った態度が死ぬ程気に入らなかった。


「あ、あの私、既に王国に絶縁状を叩き付けてしまったのですが……」

「そうか、一人で頑張れ」


 タチアナを旗印に出来なければバファロ侯爵はただの反乱軍で大義も無いので味方も得られない。

 彼は感情のままに計算できる傑物ではあった。

 そのまま床に額を付ける行為に躊躇いはない。


「姫様、某し、心を入れ換えて忠節に励む次第であります。

 一兵卒でも構わないので皇国軍の一翼に加えて下され」


 仮にも侯爵ともあろうものがその場で土下座する。

 彼も襲爵する前は上級貴族の子息として新京で学んでいる。

 土下座は最敬礼の礼法だ。

 だがタチアナは皇都でもそのような礼法を学んだことがない。

 貴き貴族が床に額を付けて平伏する姿に面を食らってしまう。


「ま、待て侯爵!?

 そなたの覚悟はわかった。

 私の幕下に加わり、皇国の再興に力を貸せ!!」

「ははあ、殿下に永遠の忠誠を!!」


 土下座から忠誠を誓ったことによるテンションからバッフロ侯爵は感極まっていた。


『なんか涙や涎垂らして、汚い、怖っ!!』

 あれを素で出来るのがバファロ侯爵の怖いところであった。

 タチアナは心の中の将来の粛正リストにバファロ侯爵の名を書き込んでいた。


『いつか殺そう』






 大陸東部

 日本国 駿府市

 駿府市市役所


 年が明けて幾日か過ぎ、駿府市への入植も川口市と合併した旧草加市民の入植が1月内に終わる見通しとなっていた。


「入植予定の88パーセント達成後に鹿児島市からの入植が始まります。

 鹿児島市は地域振興局、鹿児島地域、南薩地域、北薩地域を統合し、姶良・伊佐地域振興局から姶良郡を引抜きました。

 この内、旧鹿児島市、旧薩摩河内市、旧指宿市の市民以外を駿府市に入植させる計画となっています」


 秋山首席補佐官が市民ホールに集った聴衆の前に駿府市移民計画の最終段階を説明している。

 聴衆の中には、総督府移転の新都市の構想も語られるので、識者やマスコミも市民に紛れて聞き及んでいる。


「前述の旧3市に加え、八王子市、姫路市、宇都宮市がエントリーされており、松山市から補完される予定です」


 八王子市の統合は完了しており、八王子市、西多摩郡、あきる野市、青梅市、羽村市、福生市、武蔵村山市が統合合併する。

 わざわざこんなことを駿府市のような僻地で行うのは、他の植民都市からの移民誘致でもある。

 正直、本国から移民をここまで植民させるくらいなら、自力で引越し出来るの大陸の日本人に来てもらった方が早いのだ。


「新たな新都市の名称はお決まりでしょうか?」

「おいおい発表がありますので、そちらをお待ちください」


 この件に関しては総督府では無く本国政府から待ったが掛かっていた。


「植民間もない駿府市での市長選は不公平間がでると思うのですが」

「まずは新京、次に沿岸都市、次に東部中央三都市、東部北三都市と月毎に選挙期間を先延ばしにて市民の方々に馴染んでもらいます」

「総督府移転の新都市に防衛隊は配備出来るのか疑問なんですが」

「自衛隊は新設の方面総監部、航空自衛隊第10航空団が拠点を構えます。

 警察も新京警視庁が道警本部に変わるので、こちらに新設、移転となる警視庁と特殊強襲部隊が対応に当たります」


 矢継ぎ早に質問され、応対していく。


 秋山首席補佐官は次の次の総督候補と見られており、注目度も高い。

 二代に渡る総督補佐官を務めた実績は信頼に値できた。


「防衛上の対策はわかりましたが、貴族街はどうするんですか?」


 新京の貴族屋敷は、皇国との戦争に対する年貢と称される賠償の為の人質と外交的公館としての役割があるが、最近では地球側の教育を学ぼうとする子弟の下宿みたいな役割になってきている。


「さすがに複数の屋敷を構えることは、貴族の方々にも負担は大きいでしょう。

 新都市には男爵家の方々には同行を求めず、新京に留まってもらいます。

 子爵家以上の方々が新京に屋敷を残すのかは、総督府との調整次第になります」


 年貢の貯蔵の他にそれぞれの領邦の名産品、特産品、余剰食糧を売るための蔵屋敷的役割も担われているので、ほとんどの貴族は新京の屋敷は手放さないと観られていた。

 最もほとんどの貴族は血縁の男爵達に売却や賃貸、管理委託の方針を固めている。


「総督府移転前に新京市市長選挙が行われます。

 先月辞職した青塚栄司副総督補佐官が立候補していますが、総督府は支持の意向ですか?」

「総督府が特定の候補者を支持することはありません。

 そんなことをするくらいなら最初から行政長官を任命してますよ」


 青塚元副総督補佐官は上司の北村副総督が新京道道知事選挙に出馬する為の前哨戦と言われている。

 記者会見も終わり、秋山首席補佐官も自らの進退に付いて考えていた。

 地元の松戸市が移民の対象になれば、その市長を目指すのも悪くなかった。


「しかし、今大事なことを言ったんだが、反応出来た記者も識者もいませんでしたね」


 声を掛けてきたのは石狩貿易のCEOの乃村利伸だ、


「早速、利権の匂いを嗅ぎ付けて来ましたか?」

「これは手厳しい。

 しかし、順番が違いますな。

 私は最初から関わっています。

 第10航空団で使用されるF-1CCV、うちが復元を手掛けたんですから、次にくる展開は予想の範囲内。

 総督府移転となれば国賓も招かねばならないし、必要となるのは自衛隊も含む官と民間の共用空港。

 広い敷地が必要になりますね」


 官民共用の国際空港、総督府移転に合わせたビックプロジェクトの一つだった。


「しかし、大都市に空港建設して問題視されないんですかね?」

「だから空港の方を先に作ってしまうのですよ。

 滑走路が都市側に向いて無ければ騒音もさほどでは無いですからね」


 空港建設は機密ではなく、アピールをしてないだけだ。

 関係者には徐々にリークしていくの方針で、大陸財界の重鎮の乃村に話すいい機会とも言えた。


「後日、一席を設けましょう。

 奥様も連れてきてくださいね」


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