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日本異世界始末記  作者: 能登守
2033年
242/274

年が明けて早々

 大陸東部

 日本国那古野市

 海上自衛隊 那古野基地


 那古野基地の桟橋に海上自衛隊第一輸送隊や防衛フェリーといった艦船が停泊し、陸上自衛隊第18特科連隊の装備や荷物を吐き出していた。

 鳥嶋一等陸佐はその光景を見ながら溜め息を吐いていた。


「ついに来ちゃったな大陸」


 自衛官は基本的に移民の対象外だが、異動となれば話が変わる。

 本国に止まる限り、駐屯地間の異動が無くなり移民の対象外となりたい異性からはモテモテだが、一等陸佐になれるくらいの年齢層は異世界転移する前から既婚者が多く、そういった恩恵からも対象外だった。

 第一、特科連隊の隊員は西方大陸アガリアレプトへの派兵経験者が多く、一度は派兵経験が無いと一人前扱いされなかった。

 そのため、新入隊員当時にモテ期の恩恵に預かれなかった隊員も多い。

 本国の隊員が異動昇進したがらないから本国自衛隊も最近は旅団司令部を新設してポストや異動枠を増やしている。

 第7師団から独立した第7戦車旅団や第2師団から独立した第2戦車旅団の旅団司令部直轄部隊がその際たるもので、本国の不景気ぶりを証明している。

 大陸に派遣されるのは昇進に意欲的な隊員だ。


「ここで部隊を迎えるのも年明けの恒例行事になってましてな。

 ようこそ大陸へ、当基地司令兼那古野地方隊司令の猪狩三等海将です」

「これはご挨拶が遅れました。

 陸上自衛隊第18特科連隊鳥嶋一等陸佐です。

 吉備市までの出発までの間、お世話になります」


 鳥嶋一佐は隊員を輸送列車て送り出した後に隊員の家族も送り出すのを見届けてから那古野を出発することになっている。

 すでに吉備駐屯地には第52普通科連隊が駐屯しており、18特連の駐屯施設や陣地の整備は行われている。


「この基地は鉄道駅を内部に抱えておりますが、国鉄の通常ダイヤを犯さない、終電後に輸送列車を走らせることになります。

 始発ダイヤ前まで中継駐屯地に入り、また終電後に移動ですね

 沿岸都市は鉄道の電化が始まりましたが内陸部はまだまだ汽車が主流です。

 窓の開閉には気を付けてくだいね」

「ああ、煙がトンネルとかでは入ってくるんでしたか」


 蒸気機関車の列車はトンネルが近づくと蒸気機関車の煙が入ってこないように乗客がいっせいに窓を閉める必要がある。

 車内に入り込んできた煙の煤で、汚れてしまう為だ。

 本国から来たばかりの日本人はこの失敗をして、顰蹙を買うのがお約束であった。


「吉備市は魔術学園が開校されるとかで、そっちの関係者も多いから気を付けてください」

「むう、あっちの術とどう違うんですかね?

 ああ、宗教関係者も多数いるということですよね、気を付けます」


 第18特科連隊に限らず、第18師団の装備は華西民国製の物が多い。

 本国自衛隊の各師団は転移後に開発、生産された装備を第14師団までは充足して配備された。

 第15師団は来年に新装備が割り当てられるが、従来の装備は八個ある旅団と他部隊に分配され、余剰分も海自、空自、警察、国土交通相の海保と国保に再分配された。

 法務省の公安調査庁や刑務隊、その他の治安機関外務省警察や宮内省皇宮警察、財務省財務警察、水産庁漁業取締局、厚生省麻薬取締局などが、虎視眈々と余剰装備を狙っている状況だ。

 第16師団も再び米軍系、第17師団は引き続きロシア系を装備することになる。


「翻ってうちは華西製か」


 大陸に来るまでは第1特科旅団の基幹連隊として、国産装備を使用してた身としては複雑な気分だった。









 大陸東部

 日本国中島市

 航空自衛隊中島基地


「なんだありゃ?」


 中島基地警備中隊隊員の東山二等空尉は、大型輸送ヘリコプター CH-47J チヌークに3トン半水タンク車を吊り下げて空輸されている光景を眺めていた。


「なんでも貴重な魔法の水を仕入れる目処が出来たので、給水車を送るよう要請が来てな。

 暇してるうちのを送ることになったんだ」


 第9航空団幕僚の内藤二等空佐がたまたま隣にいたので答えてくれた。


「なんです魔法の水って?」

「さあな、3日寝ないで働ける水じゃないか?」

「それはすでにあるでしょう、伝説のヤカンとか」


 今ではあまり見なくなったが、ラグビーの試合にはおおきな黄金色のやかんはつきものだった。

 倒れた選手にやかんの水をかけると選手はすくっと立ち上がりまたプレーに戻っていく。

 魔法のヤカンの魔法の水と呼ばれる都市伝説のことだ。

 色々とバリエーションがあり、公安、警察や自衛隊にも似たような話がある。

 さすがにポーションの大幅生産地が発見されたからとは公表されていない。


「しかし、あのタンク3tは入れれますが、そんなに用意できるんですか?」

「さあな?

 どこに行くかも明かされてないから隊員も不安がってたな。

 それより異動は来年になるが、家族の話し合いは出来てるか?」


 二人は来年には設立される第10航空団への異動、昇進が決まっており、市内に割り当てられた土地家屋を親族に売却するなど手続きに奔走させられていた。

 内藤二佐は航空基地司令、東山二尉は、第10基地警備中隊隊長の役職が内示されている。

 航空自衛隊の基地警備中隊は、陸自でいう特科や後方支援、機甲、衛生、高射、通信、偵察も

 兼務させられるので、中隊長は隊員の割り振り四苦八苦させらる管理職だ。

 また、単純に基地警備だけでなく、各地に配備されている航空管制警戒団の防空監視所にも部隊を派遣している。

「本国は航空警戒管制団や教育、支援集団にも警備隊を編成し、旅団司令部まで作ったからな。

 こっちも警備大隊司令部が作られるよ」

「事務や人事はそっちに任せていいんですかね」


 東山二尉は市内に発生したダンジョンからのモンスター氾濫の討伐に貢献して評価されているが、本人は気楽な後方基地警備中隊でのんびりしたがっていた。


「大隊司令部が出来たとして、ここだろうから新天地は通常営業じゃないか?」


 中島市は防衛上、兵力不足の欠点が存在する。

 航空自衛隊の拠点として基地警備中隊が存在するが、都市防衛となると手が足りない。

 さすがに陸自が水陸機動大隊を駐屯させてくれているが、規模的には二個中隊。

 国境保安庁の中島国際空港警備隊がいるがやはり足りない。

 国境に接してないから増員が見送られてきた感があるが、大隊司令部が出来たらその負担も大幅に解消される。

 建前上は連隊規模の防衛隊になるからだ。


「第10基地警備中隊の負担は全く解消されてないですけどね。

 しかも国境最前線」

「前途多難だな」




 大陸中央部

 王都ソフィア

 シュタイアー男爵家王都屋敷


「そうやっと見つかったのね」


 彼女の名前はエヴゲニヤ。

 元男爵の母親であり、マクシミリア辺境伯を父に持つ30代後半の女性である。

 マクシミリアン辺境伯家は予てよりシュタイアー男爵家がポーション取引を仲介していることを疑問に思っていた。

 先代男爵がエヴゲニアを見初め、妻に求めたことをいいことに彼女と家臣の一部を男爵家に送り込んだ。

 幸いなことに皇都に有った男爵家屋敷は米軍による皇都大空襲で数多の家臣と共に灰となり、王国が建国されて新しい屋敷が王都に建つことは絶好の機会だった。

 彼女は息子の現男爵が辺境伯家のために男爵家の秘密を暴こうと教育したが、ダークエルフを保護する男爵家の使命感を上回ることが出来ずに現在に及んでいた。

 徐々に領都の館の使用人と入れ交わさせた努力が実り、秘密の核心に至ろうとしていた。


「父上に手勢を送るよう伝えなさい。

 辺境伯家が栄光を今、掴むときと」


 前男爵と現男爵が守ろうとしたダークエルフの集落の位置

 がいるが今、明るみになろうとしていた。

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