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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
239/274

追跡中

 大陸南部

 サイゴン市郊外

 日本国自衛隊在サイゴン駐屯地

 大陸南部混成団司令部


 大陸南部混成団は大陸南部に散らばる先遣隊や各独立都市に駐屯する在外駐屯地の管理部隊、駐在武官などを統括する司令部だ。

 全体的な規模としては千名を越える隊員が所属しているが、あまりに分散している上に三自衛隊共同なので、連隊の形は取られていない。

 そんな中、大陸南部混成団団長の井田翔太二等陸佐は広報で、第2戦車連隊が第2戦車旅団として独立し、北サハリン共和国が警戒を強めているとの情報に面していたが、そんなことよりまた本国の同期が昇進したのかと、意気消沈していた。


「いや、総督府からの命令書を早く呼んでくださいよ」


 吉野一等陸尉は、南部混成団司令部が直接動かせる南部普通科小隊の隊長だ。

 密林の多い南部の様相に合わせてレンジャーで構成された部隊である。


「密林奥、シュタイアー男爵領北部の山間部にダークエルフの集落があるから接触、調査せよと?」

「公安がエルフ大公国の大使を締め上げて吐かせたらしい。

 さぞやえげつなく楽しんだろうな」


 とんだ風評被害を被る公安調査庁だが、彼等の目の保養の結果、ベルタ・ダンディオケ大使はダークエルフが種族単位で千年前から引き込もって姿を見せていないことを白状した。

 まあ、それならばと手の者をダークエルフに扮させて、私略行為や暗殺、諜報を行わせて矛先をダークエルフに向かわせていたという悪辣ぶりだった。


「『これがバレたらあらゆる勢力が大公国に攻めてくるから黙っててね』などと可愛く言われて、総督の幹部たちは振り上げた拳の行き先に困ってるらしい。

 今回の皇国軍に大公国の武器が渡るように誘導したのが我が国だから困ったもんだ」


 種が割れてしまえば、そのカードを伏せたまま優位に立つべくダークエルフの身柄も抑えておこうというのが日本側の思惑だ。

 大陸全土で悪評が振り撒かれているが、日本の役に立ち、実情がそれほど悪くない種族なら保護するのも吝かではないからだ。


「まあ、それはわかりますが、なぜうちに?

 近いのはわかりますが、国際連隊案件でしょう、これは」

「国際連隊に頼むと、北サハリンや高麗、華西にまで知られるからアドバンテージをとっときたいのだろう。

 そっちはいいんだが、外務省の交渉団が趣くから吉野一尉は、護衛よろしくな」

「あいつらは連れてっていいんですよね?」


 吉野一尉は団長執務室の窓から駐屯地のグラウンドを見渡して指差す。

 そこには教官役の自衛官の指導の元、全力疾走で駆け抜けたり、射撃訓練に奔走する外務省警察、百済領事館百済署の署員達だった。


「なんか全員アスリートみたいな身体能力なんですが、外務省はどっから拾ってきたんです?」


 一人二人ならまだしも訓練を受けていた全員が一般的な自衛官より運動神経も良く、体力があった。


「体育大学の陸上部をまとめてスカウトしてるらしい」

「今の本国に体育大学なんてあるんですか?

 移民でほとんどが閉校や統廃合だって地本の隊員が嘆いてましたよ」

「だから閉校後の移民が待ったなしだったからな。

 就活しようにも企業なんてほとんど求人だしてないから実家の家業も継げない学生をごっそり引き抜いたんだよ。

 都内の体育大学や学科は真っ先に自衛隊や警察が引き抜いたから他の政令都市は海保、刑務隊、国境保安隊、外務省警察やらの争奪戦となったんだよ」


 地球からの異世界転移後も大学生を続けられた、或いは入学できたのは、農業や漁業などの第一次生産業や公務員、伝統技能保有者などを実家に持つ学生くらいだ。

 大陸に移民し、少しは食い扶持に余裕が出来た層は、改めて仕事の傍らに各植民都市に新設された大学受験に挑戦する者もいる。

 しかし、本国では大学の閉校が相次ぎ、生徒を求めて移転し自治体一つに付き大学は一件という具合に棲み分けまて行われている。

 また、人口激減により区の廃止や市町村合併が加速し、都内に有った大学が北関東にすら移転できず、福島県の村にまで移転する始末だった。


「もう1つ問題があるんですが」

「なんだ?」

「連中、どこに出動するのにも黒スーツにネクタイ、サングラス、トランクケースが義務だそうです」



 サイゴン市からシュタイアー男爵領に出発した一行は、エウローパから再現生産した小隊長車のチェンタウロ戦闘偵察車を先頭にLAPV 軽装甲巡回車両 エノクを分隊長車として二両、全輪駆動式戦術トラック2t積載型 TRM 2000に隊員を乗せた。

 外務省警察官は10名はそれぞれの車両に分譲し、特使の相武一等書記官は移動領事館に改造した観光バス バンホール アストロメガにスタッフと共に同乗しているら、

 それぞれの車両には1t水タンクトレーラや野外炊具1号(改)等を牽引している。


「観光バス改造はトイレがあるのは助かるな」

「野外処理の回数も減らせますからね。

 装甲化すれは華西や高麗も採用してますから自衛隊も採用すべきなんですが」


 車長の柘植三等陸尉も切実に同意する。

 バスに関しては高麗が強く、元々国内に有った車両の老朽化前に新羅市に日本にいた技術者を集めて自動車工場を稼働させている。

 対して今回の派遣部隊が使っている車両は旧イタリア、旧フランス、旧ドイツ、旧ベルギーの車両を使っているのは外交的配慮でエウローパから購入したものだ。

 エウローパ都市憲兵隊より早く多く購入しているので、羨ましがられて居心地が悪いときもある。

 途中、天領イベルカーツの第9先遣隊分屯地で補給や休憩、露払いを行ってもらい一週間ほど街道を走らせてシュタイアー男爵領の関所を通過する。


「今更ですが、俺達だけ先に来てヘリコプターの着陸場所を確保してから外務省に方々に来てもらえば良かったんじゃないですかね?」

「外務省警察の連中も訓練付けの毎日から外に出たかったんだろ。

 まあ、俺達もそうだし堅いこと言うな」


 駐屯地の訓練より任務中の旅路の方が息抜きになる。

 一応は情報収集と称した街の散策も隊員達は楽しみにしていた。


「最も挨拶に行った男爵殿は早く帰って欲しそうだったけどな」


 領民一万人近くの領邦に50人近くの日本人が来るのは、食糧的に負担も大きいのだろうが、経済的には潤うよう配慮するので悪い話ではないはずだ。

 男爵邸だけは相武一等書記官を歓待しないといけないので家計に響いてるようだ。

 自衛官達は情報収集中にも88式鉄帽を着用しているが、顔は見えているが外務省警察官達は一様に黒スーツにサングラスと住民を怖がらせていた。

 サンクスは眼鏡型デバイスであり、小型カメラからの映像は移動領事館バスに集められていた。

 そして領民の中に不自然な揺らめきを放つものを見つける。

 透明化や変身魔術にも段階があり、本当に透明化や変身するものもあれば、対象の視覚を幻惑してそう見せるだけの術があることはわかっている。

 外務省警察官達が耳に装着したイヤフォンから彼等に指示が飛ぶ。


『ダークエルフだ。

 エルフが扮しているかはわからないが、確保する。

 行け!!』


 外務省警察の主な任務は在留邦人の取締及び保護、領事館の警備、反日活動家の情報収集・監視などである。

 任務の性質上、追跡が多いのとその服装からこう呼ばれることがある。

 即ち『ハンター』と。


 何の前触れも無く突如として、その場その場から一斉に走り出した黒服達に領民達は驚愕して逃げていく。

 その光景を観ていた自衛官達は謝罪に奔走させられることになる。


「くそ、なんて迷惑な奴等だ!!」


 人にぶつかることは無いが、腰を抜かした老婆を背負いながら吉野一尉は抗議の声を叫んでいた。

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