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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
235/274

モデルチェンジ

 大陸東部

 日本国中島市

 航空自衛隊中島基地


 航空自衛隊第9航空団が配備さるている中島基地上空を見慣れない飛行機がテスト飛行を行っていたが、基地外から見学していた航空機マニア達は首を傾げていた。


「あれ、F-1だよな?」

「F-1って、F-1戦闘機ですか?

 いや、まさか……

 本国の展示品としては観たことがありますが」


 マニア達どころか、航空自衛官達でさえ戸惑いの声が隠せない。

 25年以上前に退役したはずの機体を観たことがある者は少なく、例外は航空祭用の観客席に座って見学している一団だけだ。


「F-4の新規生産した部品を多用しましたが、巧く流用できてなによりです。

 中島飛行機には引き続きF-1の復元を続けさせますが、F-104の方も近いうちに飛行試験に入ります」


 ラフな格好の男は石狩貿易の社長乃村利伸は、この日は中島飛行機株式会社の大株主として、この飛行試験に招かれていた。

 中島飛行機は戦前の中島飛行機とは別物で、中島市に本社、工場を持つから命名された飛行機の製造、修理、部品生産を請け負う会社の名である。

 名前が被ったのはただの偶然なのだが、社員一同何かの運命を感じたのか、やる気と使命感が天元突破し、労働基準監督署の度重なる警告を社員達自身が無視し、密かにサービス残業を会社幹部にも秘密に行う社風となっている。

 営業停止になりそうなのを関係する各役所や自衛隊、総督府が庇い、無理矢理差止めさせている問題会社でもある。

 大株主の乃村は口も手も金も出す御意見的立場で、現場に顔も出し、今回の試験飛行の自衛隊に対する窓口を買って出ていた。

 また、『復元』されたF-1やF-4戦闘機には、石狩貿易から提供されたミスリルが資材として使用されている。


「ミスリルはステンレスのような物と認識していたが、より硬く、より軽いとはたいした物だ。

 重量が六トンを切ったと、F-1の整備士が舌を巻いていたよ。

 老朽化していたガワを取り替え、電子戦装備等は小型化、エンジンを今の技術で最適化し、機動性と航続距離も上昇した。

 おかげでカナード翼を追加する改造まで施せた」


 制服組の第9航空団司令の澤村三等空将が満足げに語り出す。

 乃村としては、技術者として教育、囲い込んだドワーフ達がそこまで再設計してくれたことに驚かされたが


『さすがは異世界。

 ドワーフの鍛冶師に丸投げすればだいたいどうにかなる』


 と、異世界あるあるな発言をして、まわりをドン引きさせたりしている。


 澤村三将としては、技術流失規制法の壁はどうしたのか気になるところだが、空自の装備が整うならスルーすることにした。


 カナード翼は姿勢制御の安定化や揚力を発生させて、高い短距離離着陸性能を確保できる主翼の前に設置された短翼である。

 燃料消費の低減も見込めるメリットもあるが、転移前の地球ではステルス性を重視するトレンドに乗って自衛隊では採用されていない。

 しかし、この世界ではステルス性にこだわる意味が無いことから再設計の際に採用されることとなった。

 幸いなことにF-1戦闘機の原型となった国産練習機T-2には、T-2CCVというカナード翼を後付けで備えた実験機が実在する。

 航空実験団(現・飛行開発実験団)にてテストパイロット教育に使われたのち退役、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館に展示されている。

 これらのデータも参照に、紆余曲折を得て再び空に飛び上がったF-1は、F-1CCV、もしくは、F-1改と呼称されることが決まっていた。

 12機だけの限定復元再設計機だが、確かな手応えを飛行音と飛行機雲が示している。


「そうだ乃村さん。

 急ぎじゃないが、総督府が顔出して欲しいと連絡してる筈だよ」

「ああ、本社に連絡が行ったのかな?

 女房の選挙区や地回りしてたから立ち寄ってないんですよ。

 緊急じゃなきゃ取り次いできませんし」


 趣味に没頭してる間は連絡いらないと、社会人にあるまじき指示を出したせいでもある。


「で、総督府の皆様方は遂に私を逮捕する気になりましたか?

 暗殺は勘弁して欲しいんですが」


 乃村としても心当たりは色々あるが、さすがに防衛大臣息子、南樺太道知事の弟、将来の大陸植民都市市長の夫を手に掛けるとは考えていなかった。

 冗談目かしてまわりを笑わせようとしたが、自衛隊の制服組も中島飛行機の幹部、技術者連中の誰も笑っておらず、冷や汗をかくこととなった。


「大丈夫かな?

 車に乗った瞬間に爆発したりしない?」


 だんだん不安になってきて、お抱えの大陸人のイグニス司祭にいざという時の回復の奇跡を用意する様、指示を出す。


「皇都が有った頃は蘇生さえ行える司教もいたんですがね。

 念のために死霊魔術師も手配しておいて下さい」


 イグニス司祭のジョークも笑えないので、近年復活した落語の寄せのチケットを進呈することにした。

 まさか総督府に仕事を依頼されるとは、この時は考えてもいなかった。





 大陸北部

 エルフ大公国


 石和黒駒一家の若頭である荒木は、大学時代の先輩である企業経営者からエルフ大公国にある銃器を供与する為に協力を求められ、エルフ大公領公子アールモシュと非公式な会見をするはめになっていた。

 石和黒駒一家も性風俗の店舗は経営しており、性に奔放なエルフ達とは友好的な関係を結んでいる。


「しかし、武器の販売となると御国の総督府が黙ってないのでは?」


 大公国の政を司るアールモシュ公子もさすがに怪訝な顔をする。


「問題はないです。

 仲介を依頼して来た方は、本国の政界と大陸の財界に大きくコネを持っていて、自衛隊にもガッツリ食い込んでる御仁です。

 総督にも手を出せない我が国の重鎮です」


 ガッツリ乃村のことを持ち上げるが、今回の依頼の黒幕が総督府だということは察しが付いている。


「まあ、我々としても制式銃の更新は望むところですし、申し出はお受けします。

 ふむ、こちらがリー・エンフィールド小銃のRifle No. 4 Mk I ですか」


 アールモシュ公子が手渡されたリー・エンフィールド小銃のRifle No. 4 Mk I を弄り倒していた。

 リー・エンフィールド小銃には様々な派生型やモデルチェンジした型が存在するが、エルフ大公国で制式採用されているのは、こちらの世界に500年ほど前に転移してきた大英帝国軍ノーフォーク連隊が装備してきたSMLE Mk III(Short, Magazine, Lee-enfield No.III)と呼ばれるタイプだ。


「少し重いかな?」

「その代わりに命中精度と有効射程、生産性を向上させたタイプです。

 従来型なら大公国軍に500丁を年内に納入出来ます」


 新型のリー・エンフィールド小銃はRifle No. 4 Mk I(No.4 Mk I)と呼ばれる大英帝国軍が、第二次世界大戦直前に制式採用させた型だ。


「なるほど、これが無償提供される代わりに苦境の

 タチアナ皇女の皇国正統政府軍に荷担せよと?

 しかし、王国と正面から事を構えるのは困るなあ」

「はい、大公国には王国による皇国軍討伐の為の壁になって貰えれば十分です。

 北部の中央に位置する大公国。

 北部東側に勢力を構える魔神。

 北部北岸に居を構え、中立の北サハリン共和国。

 王国が皇国軍を討伐するにはこれらを迂回しながらの進軍となるので、時間がかかります。

 そして、廃棄予定のリー・エンフィールド小銃が何故か皇国に流れる」


 これだけでも王国軍の前装式小銃(施条銃)に対して優位が取れる。


「そうだな。

 ダークエルフの連中でも使うか」

「あっ、いるんですかダークエルフ?

 そのへんの話をもう少し詳しく」

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