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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
234/274

テコ入れ

 大陸中央

 王都ソフィア

 王国宰相府


 大陸北部で起きた動乱の件で、日本国陸上自衛隊第18師団第18即応機動連隊本部管理中隊隊長小代三等陸佐は宰相府に呼び出されていた。

 彼は宰相ヴィクトールの執務室に通されると、挨拶もそこそこに苦言を吐き出していた。


「毎度毎度、並みいる上官や外務省大使を通り越して、小官を呼び出すのは勘弁して貰えませんかね」

「まあまあ、ワシとそなたの仲では無いか。

 孫娘もそなたを気に入ってるし、どうかな、そろそろ……」


 ちなみに小代三佐は既婚者だが、貴族の方々は重婚等はあまり気にしていないので、平気で婚姻を進めてくる。


「ま、まあその話は今回は関係ないので、本題の方を」

「おお、そうだったな。

 実は北部で皇国の皇族を名乗る者が反乱を起こしたらしいが、詳細がわからなくてな。

 そちらなら情報を色々掴んでるじゃろうから御足労願ったのだ」


 ますます大使館経由でお願いしてくれないかなと小代三佐は、天井を仰いでいた。

 すでに仮にも北部軍団に任じられていたノヴィコフ侯爵家が反乱の後ろ楯となり、天領が二つ陥落、有力伯爵家が敗退、子爵家がこれに恭順する事態となっているのにこの認識である。

 情報の共有は機密に触れない範囲で許可は受けているので提供することになる。


「北部軍団長といっても100人くらいいるうちの一人だからな。

 実質動員できるのは与力の伯爵家、子爵家、男爵家、各一家ずつの領邦軍、合わせて三千程度。

 役職やる代わりに献上金貰うのが目的じゃったから特に問題はない。

 王国への収益の少ない天領だから兵力は少なめだったが、要所にはそれなりに置いている。

 建国当初は近衛くらいしかまともな戦力は無かったが、どうにか天領に守備隊を駐屯させるぐらいには充実してきた。

 あとは適当に領邦を攻めさせて戦力を削り、派遣軍で仕留めればよい。

 すでに血気盛んな貴族が仕掛けて、そこそこに消耗してくれてるだろう。

 ただ問題があってな。

 日本が旗色を鮮明にしてくれんと、動揺する者が出ている。

 上官殿や大使殿に伝えてくれると助かる」


 直接言えよ、と小代三佐は頭痛を覚えていた。

 ヴィクトールの対応は消極的に感じたが、北部は魔神やエルフ大公国のような独立勢力が跋扈しているから今さらな話でもある。


「先日の新京で起こった騒動。

 日本が反乱軍に味方していると動揺する者が続出していてな。

 最初の討伐隊の敗北もそこに起因している」

「おそれながら我が国領内で武力紛争が起これば、これを鎮圧するのは当然のことです。

 そして鎮圧されるのは、当然騒動を実際に起こした者が対象となります。

 その結果が相手にどのように利用されようが、我が国の権益が犯されない限り、知ったことではないのです」


 小代三佐の言葉は国家を代表するものでは無く、茶飲み話の私見扱いなのは双方の暗黙の了解であった。

 だから大使や自衛隊の上官を招き、問い質せないヴィクトール宰相は、小代三佐を呼び出し、実務的な世間話をして調整して貰いたいのだ。


「まあ、早いところ総督閣下に伝わることを願ってるよ。

 次はヴォルコンスキー伯爵家が周辺寄子の領邦軍を結集させている。

 反乱軍、領邦軍削り有って貰えば上々だ」


 現在のアウストリアス王国の制度では、領邦は爵位に付属しているが、同一人物が複数の爵位を有しているのは認められていない。

 手柄を挙げても貴族本人に昇爵や転封は有っても領地自体を拡げることは出来ない。

 代わりに一族の者を叙爵させる権利を得ることは出来る。

 貴族達を焚き付け、嗾けることは容易いことだった。





 大陸東部

 日本国

 新京特別行政区 総督府


 小代三佐からの報告に佐々木総督は、旗色を鮮明にすることに難色を示していた。


「ぶっちゃけると、反乱軍は我が国に宣戦布告も権益を侵害する何物も犯していない」

「賠償金代わりの年貢が微増微減しそうですが?

 戦さとなれば兵糧や戦費が必要になるでしょう」


 秋元首席補佐官の言う懸念は確かにある。

 先の皇国との戦争で、日本を初めとする地球諸国、独立都市は、不足する食料、地下資源を賠償として請求し、年貢と呼称している。

 皇国の後継国家である王国と貴族達がその請求先で平民に負担を押し付けられ、日本等に不満が向けられないよう税が統一するよう内政干渉し、農林水産関係の技術支援は行っている。

 反面、大陸は広大で家臣や一族が多数戦死した領邦では、この管理が遅々として進んでいない。

 日本が他の地球系独立国、独立都市に主張する縄張りである大陸東部や王国のお膝元の中央は、ともかく北部、南部、西部はお寒い限りだ。


「北部はデルメール男爵領以外は、北サハリン共和国の縄張りですから我が国が何か言うことはないでしょう。

 年貢や経済的損失もほぼ無いと見て、食糧の高騰には注視して下さい」


 年貢だけでなく、本国と大陸日本領の食糧生産量は増加の一歩を辿っているが、それだけで必要な食糧を確保出来ている訳ではない。

 また、年貢にしても豊作不作に左右されるので、地下資源や財貨財宝で補填され、それを食糧を他地域から輸入する財源にあてている。

 本国に送る食糧の量にも影響するので、高騰化だけは避けたかった。

 現状は出来ることは何もなく、監視に留める他なかった。


「他の案件は?」

「国境保安庁が総督府移転に伴い、国境警備群第5群の配備を求めています」


 国境保安庁は本国では国境保安署を設け、吸収した入国管理局のような仕事を行っていた。

 それとは別に重武装の国境保安官達に機動隊のような装備や訓練を施し、北サハリン共和国との国境警備や国際空港警備隊、国際線航空機のスカイマーシャル的な任務に携わる国境警備群を設けていた。

 大陸においても各植民都市には国境保安署を設ける一方、中島市に国境警備群第4群を配備していた。

 中島市は航空自衛隊がメインに防衛を担当しているが、基地警備第9中隊だけでは心許なく、陸自の水陸機動大隊や中島国際空港警備隊を含む国境警備群第4群も入れてギリギリの状態だった。

 また、大陸の王国との国境警備に各植民都市に国境保安署を設け、街道を巡回させる必要があり、モンスターや野盗退治、大陸民による不法入国者の取り締まり、と第4群は大忙しだ。


「確かに国境の変更があるから増員増強は仕方がないとして……

 いや都合がいいですか」

「はい、現状、陸上自衛隊が新都市防衛に割ける戦力の目処が全く立っていません。

 逆に警察は新京を新設する新京道警察本部直轄の第1機動連隊に任せ、SARは新都市に移転させるつもりです。

 それを補完させる意味でもちょうど良いかと。

 また、第5群は国際空港新設とともに移転予定も合わせて寄越してきました」


 陸自も来年の第18特科連隊、再来年の第19後方支援連隊、三年後には大陸東部中央方面隊総監部、第19旅団司令部、第7教育連隊、第19即応機動連隊等を計画しているが、新都市建設には間に合いそうになかった。

 空自も既に第10航空団や基地警備第10中隊を訓練中だが、これは次の新都市向けだ。


 詳細を検討していると次席補佐官の川田が入室してくる。


「大陸北部の反乱ですが、ノヴィコフ侯爵の軍が討伐軍と交戦に入り、敗退。

 討伐軍が侯爵領に攻め上がっています」

「皇女殿下の動向は?」

「主力では無い本隊を率いて、天領ダルムバッハで各地から集った皇国軍残党を再編中でした。

 ですがこちらにも討伐軍が向かっています」


 佐々木総督は考え込むが、少ししてとんでもないことを口にする。


「戦さが長引くのは困るが、あっさり終わられても困りますな。

 少しテコ入れをしますか、こっそりと」



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