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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
233/274

父(仮)との約束

 大陸東部

 日本国 新京特別行政区


 貴族街で起こった争乱は、王国派貴族の私兵と新京警視庁第3機動隊の乱闘で多数の逮捕者を出していた。

 器物破損、傷害、争乱、工務執行妨害、放火、様々な罪状が乱舞したが、大半は後ろ盾の貴族達が、保釈金を支払う形で引き取り、魔法が使える数人は公安調査庁が引き取りに来た筈だが、放免後に行方不明になった。

 肝心のノヴィコフ侯爵家屋敷側は、正当防衛を主張、第3機動隊に感謝状を送るなどして、事態を複雑にさせた。


「もう少し、スマートに鎮圧できなかったのかね?」


 柿崎警視総監は現場視察を兼ねて、ノヴィコフ侯爵家屋敷周辺に部隊を配置する第3機動隊隊長太田黒警視正に苦言を呈していた。

 負傷入院した機動隊員が30名近くに登れば、さすがに言いたくもなる。


「我々の仕事は荒仕事です。

 機動隊に鎮圧命令を出した時点で諦めて下さい。

 その為の指揮権でもあります」

「まあ、保釈金でウハウハだから財務局の連中は喜んでたからいいんだが、見舞金は出し渋ってたな」


 異世界転移後に自衛隊、警察に限らずだいぶ現場主義な思考に変化した日本だが、財務局だけは予算を盾に現場に介入してくる。


「乱闘で生じた周辺の復旧費用は突っぱねたのでしょう?

 なら問題はないでしょう」


 一向に悪びれない太田黒警視正に閉口するが、実際問題遠巻きにノヴィコフ侯爵家屋敷の様子を伺っている私兵集団がまだいるので、指揮官を交代させる愚を犯すわけにはいかなかった。


「当面、第3機動隊の交代は無しだ。

 空き家になった貴族屋敷が幾つかあるからそこを拠点に今後の貴族街の警備を中心に活動してもらうぞ」

「望むところですが、逆に交代が少なくなって第1や第2の連中から不満が上がりませんか?」


 そもそも第1機動隊は総督府を含む、官庁街の警備。

 第2機動隊は新京特別行政区の外壁の警備を専門に行っており、第3機動隊は予備戦力として、一般の事件やモンスター駆除に動員されていた。


「総督府が移転すれば元々機動隊だった警官を集めて、第1機動連隊を組織して、SARは新総督府の移転先に同行する。

 そんなに長い話じゃないさ」


 本国から移民してきた機動隊に所属していた警官達は、重武装の武装警察官、通称武警として、各警察署のモンスター退治や市機動隊の中核として任務にあたっている。

 各市と言っても、本国なら県並みの広さを有している。

 当然、市警察も署員が多数配備され、新京を除く沿岸都市なら市警察本部の他に六つの警察署、機動隊中隊。

 内陸都市も市警察本部と二つの警察署と機動隊小隊を組織している。

 5000人の警察官と12の警察署を所属させる新京警視庁は規模は大きいが、SARこと機動隊に対する直接指揮権を実は持っていない。

 SARは独自に本部を設置する外局扱いなのだ。


「ああ、また引越しですか、女房や家族になんていいますかね?」


 最近は移民を定着させる為に転勤はさせない傾向にあるが、まだまだ官職は逃れられない。

 むしろ家族親兄弟姉妹とその家族もまとめて移民し、土地家屋を譲渡されていたから将来的に相続問題で揉めそうだし、大家族から解放されたがっている者が、新たに新天地で土地家屋を貰えるならと転勤を希望する者も少なくない。


「奥さんも警官だろ?

 昇進栄転とセットなら文句は言わないさ」

「新天地派遣に御家族温情とは時代は変わりましたね」

「今のうちだけさ、安定の時代になったらまた官僚主義の時代だ。

 現場主義を楽しんどけ」









 大陸北部

 ノヴィコフ侯爵領隣の

 天領ダルムバッハ


 タチアナ皇女に煽動された皇国正統政府は、合流した皇国軍残党を吸収し、天領であるダルムバッハとオドンコールに兵を進めた。

 天領には二種類あり、肥沃な王国の財源となる地と辺境過ぎたり、資源もなく、誰も欲しがらないからしょうがなく王国で管理している地だ。

 ダルムバッハとオドンコールは後者にあたり、代官とせいぜい30人ばかりの王国兵と管理している土地だ。

 天領の兵力が少ないのは、同じ大陸北部の脅威、旧ドワーフ侯爵領を占領した魔神に対抗する為に動員されたからだ。

 その間隙を突き、ダルムバッハにはノヴィコフ侯爵自ら率いる領邦軍2000の兵が雪崩れ込み、降伏する間も無く王国兵は斬られ、代官の首が跳ねられた。

 タチアナ皇女は自らに賛同する貴族の領邦軍や吸収した皇国軍残党、3000を率いてオドンコールを陥落させた。

 その際に北部の有力貴族イグナチェフ伯爵が領邦軍を率いて、天領の奪回に挑もうとしたが、白馬に乗ったタチアナ皇女が魔道具の力で拡声した声で両軍に幼い声で言葉を発した。


『この戦場に集いし、勇敢な兵士達よ、つい先ほど、遠く東の果ての新京において、愚かなる逆賊の軍勢がノヴィコフ侯爵家の屋敷を襲撃した。

 勇敢なる我が手勢が必死に防戦に努めたが、多勢に無勢、邸内に乗り込まれようとする寸前、日本の軍勢が現れて、屋敷を取り囲む軍勢を打ち破り、こ、れを解放した。

 これに感謝した侯爵家嫡子殿が日本の手勢の指揮官に感状を渡した。

 日本は我等を守った。

 この意味を良く考えるといい!!』


 その言葉にイグナチェフ伯爵の領邦軍に動揺が見られ、伯爵自身も交戦の愚を起こせなかった。


「お館様、いかが致しますか?

「日本の意思を確かめるまでは交戦する訳にはいかい。

 西部の連中の二の舞は御免だからな。

 領境まで兵を退かせて固めろ。

 領境を侵犯したならこちらが正義だ。

 日本も文句は言ってこない」


 側近は伯爵の判断を是とするが、肝心の王国軍の動きが見えないことを疑問に思っていた。


「王都に伝令は行ってるのでしょうが、動きが無さすぎませんか?

 地球の技術や魔術による通信もあるし、商人達の情報網も侮れません。

 とっくに王都には皇国の動きは伝わっている筈です」

「まあ、きっと誰かが伝えたのだろ?

 ……いや、まさかなあ」


 不安に思ったイグナチェフ伯爵は自らの領都に戻り、宰相府に通信の魔術具で今後の対応を求めた。

 応対したヴィクトール宰相の反応は


「いや、今初めてそんな騒乱が起きてると知ったばかりだが……」


 と、言ってイグナチェフ伯爵を机に突っ伏させていた。

 宰相府は辺境の騒乱に興味がなく、貴族同士の小競り合いとしか考えていなかった。




 タチアナ皇女の皇国正統政府軍は、恭順したヴィアゼムスキー子爵の領都に進軍し、子爵館に臨時の司令部を置いて休息を取ることになる。

 ヴィアゼムスキー子爵と歓談のお茶会で二人きりになると、それまでの姫騎士の態度から急に弱々しくなって、泣き出してしまう。


「うう、怖かったよう!!」

「ひ、姫様?

 ひ、人払いは済んでますのて御存分にお吐き出し下さい」


 突然の幼女に泣かれて困惑するヴィアゼムスキー子爵の手を取り


「ありがとう子爵。

 いまだに誰にも言ったことは無いが、子爵の噂は予々聞いており、母上から聞かされていた父上が生きてたら子爵の様であったのではないかと考えていた。

 これからも頼りにしていいであろうか?」


 心の中に何か尊いものが生まれたヴィアゼムスキー子爵は跪いて、忠誠を誓いだした。


「この身を殿下に捧げ、御身が玉座に座る、その日まで御供することを誓います」

「ヴィアゼムスキー子爵、ここには二人しかいない。

 二人きりの時にはパパって呼んでいい?」


 テンションがMAXに仕上がったヴィアゼムスキー子爵は、殿下への忠節に酔う自分と将来の栄達に夢見る自分を両翼に天まで舞い上がる心地だった。

 笑顔でヴィアゼムスキー子爵に抱きつくタチアナ皇女だが、頭の中では次の貴族を篭絡する言葉をレパートリーの中から考えていた。

 後はヴィアゼムスキー子爵となるべく二人きりにならないよう心に決めていた。


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