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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
232/274

前哨戦?

 大陸東部

 日本国 新京特別行政区

 大陸総督府


 大陸北部でアウストリアス皇族が蜂起した一件は、即座に総督府に報告され、佐々木総督、北村副総督、各補佐官、大陸東部方面隊総監穴山二等陸将を初めとする自衛隊将官、新京警視庁柿崎警視総監、公安調査庁波多野新京支局長、各局長達が集められていた。


「皇族は米軍が全て焼き払ったと聞いてましたが、生き残りを良く今まで隠し通せましたね」


 佐々木総督が報告書を読み上げながらため息を吐く。


 米軍の総力を上げた空母艦載機、巡航ミサイル、大型爆撃機による皇都大空襲は、皇帝、皇族はおろか、皇都に生きる者を許さない苛烈なものであった。

 公式の記録には残っていないが、陸軍特殊部隊第1大隊やNavy SEALs、チーム5も皇都周辺に配置し、書類に残せない所業を行ったらしい。

 事前の調査では、皇族全て、貴族の大半、総戦力が最大限揃った時に空爆が実施されたので、皇族が脱出出来る隙があったとは思えない。

 皇族全員が皇帝親征に参陣する軍勢を閲兵するパレードを観戦していたことは確認されている。

 また、大陸各所で日本から厳選された凶悪犯罪者で構成された第1更正師団が、極悪非道、鬼畜外道、残酷無道、残忍無惨な作戦が実施されており、大陸中央に有った皇都は、一番安全な馬車として皇族や貴族達が避難していた場所でもある。

 そんな場所に飛竜騎士や鷲獅子騎士、天馬騎士という、金喰い虫で捕獲や飼育が難しく、乗り手にも資質と度胸が要求される

 航空戦力の認識しかない皇国が航空奇襲攻撃をまともに受けたのは仕方がないことだったのかもしれない。

 最も皇統に近いのが、皇弟で臣籍降下した現アウストリアス王国国王モルデール・ソフィア・アウストラリス、当時のソフィア大公だけになる。


「記録にも存在しない皇女です。

 やはり騙りでは?」


 北村副総督の言葉に誰もが納得仕掛けたとき、おずおずと挙手した者がいた。

 公安調査庁の波多野支局長だ。


「さすがに大陸北部は我々の管轄外ですが、あちらを縄張りにしているPSBが妙な情報を仕入れてきました」

「妙な情報?」

「亡くなった皇帝と皇女の親子関係を証明する我が国のDNA鑑定機関による証明書です。

 コピーされた証明書が決起文に添付されていたようです」


 日本が親子関係を証明できる方法があると知ると飛び付いてきたのが貴族達だった。

 配偶者に疑いを持ち、自らの子か明らかにしたい貴族家当主。

 側室の我が子を跡取りにしたい為に正室の子の検査を密かに依頼してくる者。

 貴族に孕まされて、認知を求める為に依頼してくる母親。

 自らは○○家の御落胤であると名乗り出る根拠を欲しがる子女。

 様々な理由があるが、貴族家の弱体化を狙う現総督府は、低額での検査実施を許可していた。

 その後に刃傷沙汰や毒殺による治安悪化が多発したが、日本としては関わりを避けていた。

 幾つの貴族家が改易、流血沙汰になったかは、把握できていなかった。

 地球でもシェイクスピアの史劇の主人公にもなった英国国王リチャード3世(1452-1485)の遺骨をDNA鑑定した結果、公式の家系図との血縁上の不一致だった事が判明した。


「しかし、DNA検査の親子証明は99.999%とかじゃないと駄目だろ?

 どっから皇帝のDNAなんか採取できたんだ」


 穴山陸将の疑問にも波多野支局長が答える。


「皇都近郊に位置する神殿領ツァルスクレブト。

 光と正義の教団の聖地ですが、初代皇帝の遺言により、この千年間毎年、皇帝の毛髪を奉納される習わしが有ったそうです。

 光と正義の教団の初代法皇にして、初代皇帝の側室でもあった聖女セシリーが


『何の為に?』


 と、皇帝に問うと


『来る日の為に

 皇国が亡国となり、一族が衰退した時の一助になるかもしれない』


 と、答えたそうです」

「いったいどこの予言の書よ。

 で、そこに後ろ楯の侯爵が接触して、日本領で鑑定を行い正統性を主張したと?

 そこまでは良いとして、なぜこの皇女の存在が把握………」


 財務局局長代理の斉木歌の言葉に全員が耳を傾ける。


「ああ、なんかわかっちゃった。

 この皇女、皇都空襲時、まだ産まれてなかったんじゃない?」

「正解です。

 第13皇女タチアナ殿下は御歳9才になられる幼女です。

 母親はノヴィコフ侯爵家の侍女で、皇帝が行幸で訪れた際に手を着けた後落胤ということになります」


 全員が呆れ返ってる所に警官が入室してきて柿崎警視総監に耳打ちする。


「どうしました?」


 佐々木総督の質問に柿崎警視総監は言いにくそうに答える。


「新京のノヴィコフ侯爵家屋敷を周辺貴族屋敷の私兵が取り囲み、睨み合いになっていると」

「日本国は宣戦布告も追討も受けていません。

 あくまで彼等と王国の争いなら我等のお膝元での武力衝突は許されません。

 柿崎総監、王国側私兵集団に解散、或いは鎮圧を命じます」





 新京 貴族街


 王国貴族の新京屋敷が連なるこの街にも当然、ノヴィコフ侯爵家の屋敷が有った。

 これまでも貴族同士の諍いによる小競り合いや皇国残党の潜伏先になることもあり、公安調査庁の監視下にあったが、今回は些か毛色が違う。

 明確に王国と皇国による闘争で、王国系貴族は皇国の討伐対象となっている。

 ならば先手とばかりに大陸中央、東部の貴族の先走った者が徒党を組んでノヴィコフ侯爵家屋敷に武装して押し掛けたのだ。

 巡回に当たっていた警官達が、間にパトカーを割り込ませて応援を呼んだが人数的にも車両的にも遮ることが出来ず、壁を破壊、或いは乗り越えようとする者をその都度制止するいたちごっこになっていた。


『この区域における集団的武力闘争の届けは出ていない!!

 今すぐに解散しなさい!!』


 パトカーで現場指揮を任された警部がスピーカーで呼び掛けるが、私兵達も一旦解散しては別のところから取り付く、壁をハンマーや魔術で破壊しては警官が近づけば逃げ出し、警官が追えば別の集団がやってきて破壊を続行することが続いた。

 振り回された警官達の疲弊もパトカーのガソリンの消費も蓄積されていく。

 逆に侯爵家側も自衛権を発動し、魔術や矢が屋敷の中から放たれ、巻添えの警官達が退避する始末だ。

 貴族屋敷内は大使館同様にそれぞれの貴族領の領土扱いで、一般の警官達では立ち入ることさえ出来ない。

 逃走する私兵達も付近の貴族屋敷に逃げ込むからタチが悪い。

 だがいつまでもそんな事態に甘んじる程、警察も甘くない。

 青い車体の常駐警備車が現場に雪崩れ込み、周辺屋敷の門や勝手口を塞ぐように駐車した。

 私兵達が通りを見ると、人員輸送車から降車する戦列歩兵のような盾と警戒杖を構えた機動隊隊員達が整列して壁を作っていく。

 当然通りの反対側、ノヴィコフ侯爵家屋敷の裏側や側面の通りも同様に塞がれていく。


『こちらは新京警視庁第3機動隊である!!

  屋敷の周辺は完全に包囲した!!

 何の目的があるかは想像に付くが、無駄な抵抗はやめて投降しろ』


 現在、新京警視庁は三個の機動隊中隊を組織しているが、その小隊はほぼ全員が本国では百万政令指定都市や訓練中隊、本部大隊で、SATをしていた隊員達だ。

 つい最近、ようやく本国から異動となった隊員が千名を越えたので、晴れて特殊強襲連隊、SAR(Special Assault Regiment)と名乗るのに憚りが無くなった。

 隊員の不足からSAB(Special Assault Battalion)、特殊強襲大隊などと揶揄されたのが嘘みたいだ。

 私兵達も日本人を傷付けることは禁止されていたが、ここで捕まる訳にもいかなかった。

 刃は鞘に納めて、素手で掛かってこいと機動隊側を挑発した。

 私兵達が投降しないこと望んでいたに第3機動隊隊長太田黒警視正はスピーカーで


『えらい!!

 相手は納税者じゃないから遠慮はいらん。

 総員、突入せよ!!』


 と、叫んでいた。

 かくしてノヴィコフ侯爵家屋敷の大乱闘は、さらに応援に駆けつけた警官も加わり、半日に渡って続けられた。

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