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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
230/274

誰か教えてやれよ

 大陸東部

 日本国 駿府市


 吉備市の移民完了に伴い、駿府市の建設並びに植民が始まった。

 吉備市に静岡市と合併した藤枝市、焼津市、榛原郡、森町と静岡市の清水区、駿河区に加えて葵区の人口の半数が植民した。


「市の人口予定の一割以下に市名を決めさせて良かったんですかね?」

「川口市と船橋市がロクな市名候補を出さなかったのが悪い。

 鹿児島市も合併する薩摩河内市と周辺町村に駿府市の割り当てを押し付けている。

 連中の本命は次の総督府予定の都市なんだろうが」


 次の都市は総督府が移転するだけあって、人口200万人を予定している。

 八王子市、姫路市、宇都宮市の、松戸市もエントリーしてうる。

 そんな雑談を交わしているのは、沢海市に一時期駐屯していたが、駿府市に正式移駐が決まった陸上自衛隊第第35普通科連隊に所属する五代二等陸尉率いる小隊の面々だ。

 現在は35普連は総出で市の周辺のモンスターや猛獣、盗賊等の駆除を行っている。

 同時に35普連や二年後にやってくる第18後方支援連隊の駐屯地確保や家族が住む居住区の用地確保もしなければならない。

 すでに駿府市には旧静岡市葵区の住民五万名が植民を開始し、駿府市役所、駿府警察署や駿府税務署が稼働している。

 すでに本国からは旧習志野市や旧浦安市を合併した船橋市の移民第1陣が出発したと報告があり、駆除も可能な限り範囲を広げないといけない。


「しかし、いつも思うんですが恒例のこの駆除作戦、空自に空爆させるわけにはいかないんですかね?

 連中、暇なんでしょ」

「そんなアメリカ人みたいなダイナミック駆除をうちの国が出来るわけないだろ」


 アメリカ人は外来種を駆除する為に河川に毒を散布したり、長期間湖を干上がらせたりと、在来種ごと根絶する豪快な駆除を地球上で行ってきた。

 近年も空爆や艦砲射撃や河川にガソリン巻いて炎上させて駆除をしている日本も他国のことは言えなくなってきているが、あくまで非常時くらいだ。

 環境保護団体がいないとやりたい放題だが、平時には地味な駆除作業に専念しなくてはならない。


「第一、空自は去年やりすぎて爆弾無いから呼ばないでね、と通達来てたろ。

 まあわ我が国にも核兵器があれば手っ取り早く駆除出来るんだが」


 そんな五代二尉の呟きを隊員達は、冗談を聞いたとばかりに追従の笑いを浮かべるが、五代二尉は至って本気だった。

 五代薫は二等陸尉に昇進したばかりで、防大を卒業して二年目に当たる。

 小学校に入る前に日本が異世界に転移し、経済の破綻や資源の枯渇から実家のレンタルビデオ屋は廃業に追い込まれた。

 テレビは停波に追い込まれ、映画館は休館し、映像ソフトの配給会社は倒産した。

 レンタルビデオはリースしていたVHSテープやらDVDといった大量の在庫を抱え込むが、18禁ソフトだけはどんなに国全体が飢餓に怯え、貧困に苦しんでも高値で売れた為に食い繋ぐことが出来た。

 そんな五代薫の多感な時期に残されていたのが、大量のアメリカ製B級映画である。

 ストイックに身体を鍛え、勉学に励んでいた彼の数少ない娯楽だったが、些か情緒に欠けていた彼は冒頭やスタッフロール後に表示される『この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません』と、いうテロップを飛ばしてみていた。

 その中でのアメリカはモンスター退治から自然災害まで核兵器で対処しようとする傾向があり、実際のアメリカはおろか、この世界のアメリカ人とも会ったことが無いので、変な偏見が身に付いてしまう。

 学友も秀才やスポーツマンが多く、映像ソフトを観たことが無い者が多数で、語り合えなかったのも大きい。


 そんな五代二尉だが、自衛官としては優秀で03式自動歩槍の銃口から二発、森の中から様子を伺っていたカメレオンと蛙を足したようなモンスター、『避役』に発砲していた。

 避役は中国の唐代の書物である『酉陽雑爼たい』に書かれている、南方の国にいるとされる幻獣の名前だ。

 大型の蜥蜴かヤモリの様な姿で、鬣の様に頭から背にかけて肉の突起があるとされる。

 体の色を十二色に変える事が出来ることから、カあれメレオンがモチーフとされる。

 実際に中国の漢字でカメレオンは、避役と書く。

 この世界にはカメレオンは、地球側が持ち込んだ種しかおらず、このモンスターは大陸では名前もつけられてなかったので華西民国の識者が命名した。

 地球のカメレオンと違い、体長が二メートルから三メートル有り、銃弾で青い血を流すと、尻尾を周囲の木々に絡めて、カエルのような脚力で高く飛び上がり、木々の枝の間に隠れて体色を変化させて隊員達の目では、わからなくなる。

 長い舌は六メートルも伸びて女子供なら舌で絡め取られて、丸呑みで補食されてしまう。

 さすがに装備込みの男性自衛官を引き摺ることはできないが、しなる舌は鞭のように自衛官達を打ち据える。

 防弾チョッキ3型や野戦服を着た隊員は激痛に襲われるが、抉られることは無い。

 生身の部分に当たれば皮膚や肉が抉られる威力である。


「弾幕を張れ!!

 傷口部分は体色は変えれない」


 隊員達は避役がいると思える地点を掃射し、傷口を増やしてやる。

 もちろん銃弾の浪費は抑えたいからカラーボールも用意させる。

 隊員が投擲したカラーボールが避役に当たり、カラフルな色に染めていく。

 体色を変えれると言っても1色ずつ限定なので、周囲の緑とカラーボールの着色を同時に変えて、周囲に溶け込むことが出来なくなっている。

 本当はペイント弾を用意したかった。

 自衛隊には5.56mmペイント弾が装備として存在するが、訓練用なのであまり生産されていない。

 実弾で訓練を兼ねたモンスター狩りが出来るので、訓練用ペイント弾にあまり必要性が無くなったことも大きい。

 AKライクな03式自動歩槍だが、自衛隊用は輸出モデルのNATO弾使用可能なタイプだ。

 弾薬の補給に関しては、普段は渋られるのだが、今の任務は植民都市開発のモンスター駆除だ。

 優先的に弾薬の補給が行われているが、さすがにペイント弾の補給は想定外だった。

 しかし、避役の出没の情報がこの地域から追放された住民から入手されると対応しなければならない。

 幸い先行して派遣されていた警備会社の武装警備員達が、カラーボールを大量に持ち込んでいたので、提供して貰った品だった。 

 蜂の巣にされて地面に落ちてきた避役を着剣した銃剣で突つきながら死亡を確認する。


「カメレオンって、旨いんですかね?」


 異世界転移で食料難に陥った経験のある隊員達は、少々悪食になっており、多少のモンスター食には抵抗がない。


「モロッコやチェニジアでは、呪術の一環としては食われてたそうだが、一般的に喰う人はいないらしい。

 まあ、人を補食したかもしれんモンスターややめとけ。

 一応、冒険者ギルドとかが、薬の材料として買い取りしてるが持ち込めないからなあ」


 モンスターを素材として解体や買い取りをしてくれる冒険者ギルドは、駿府市にはまだない。

 保管も出来ないので死体を腐らせてしまうしかないが、森の中で放置すると、他の猛獣やモンスターを呼び寄せるエサにしかならい。


「焼却処分だ、火を持ってこい」


 別に火炎放射器はいらない。

 落ち葉を被せてライターで火を付けて終わりだ。

 問題はわりと盛大に避役の身体が燃えて、森林大火災を起こしてしまったことだ。

 結構な面積の森林が燃えたが、お役所や土建屋から開拓の手間が省けたと感謝された。

 始末書はお怒りを覚悟していた五代二尉は胸を撫で下ろしていた。


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