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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
228/274

UMA、確認

 日本国 

 首都 東京

 品川埠頭 国境保安庁


「占守島の国境保安署の報告に寄りますと、同島の海洋結界は、昨年のうちに消失。

 新たに幌筵島北東部海岸での消失も確認。

 自衛隊の第39普通科連隊が一帯の警戒ランクを上げております」


 大阪の堺市で起きているモンスター上陸に国境保安庁には海洋結界はどうなっているのか、問い合わせが殺到していた。

 一応は1ヶ月ごとに定期調査を行い、即日発表を行っているのだが、わざわざ記者会見を開かせて手間を掛けさせれているのが川崎長官には煩わしかった。

 記者会見後に


「あいつらマスコミは公式発表を観てないのか?

 旧地球の大陸から25キロ地点は、警戒区域と発表してるただろ」


 と、毒ついていた。

 すでに占守島にあった国境保安署は、幌筵島の国境保安部の指導の元、パトロールを強化しているし、海上保安庁や自衛隊第308沿岸監視隊も同様の処置を行っている。

 幌筵島に駐屯する陸上自衛隊第39普通科連隊は、北千島各島に警備隊を派遣しているが、旧日本軍の北千島臨時要塞跡を駐屯地にして万全の構えだ。

 そうそう遅れを取ることは無いと思えた。

 幌筵市役所も市民に注意を喚起し、漁船も銃器で武装してから出港だ。


「マスコミは高官に失言を拾って、叩きの材料にしたいだけです。

 お気になさらず我々にお任せください。

 それに堺市は我々の管轄外ですから非難の恐れは無いでしょう」


 この世界に転移後は経済破綻により活動を停止していたマスコミ業界も近年は息を吹き替えしつつある。

 普段はスポーツ中継やいまだに餓死者が出る配給体制の不備、新たな興味対象となった魔法の取材などの番組は人気を博している。

 モンスターによる災害などは、政府機関としても国民に対する呼び掛けや協力の必要もあり、今回の記者会見となった。


「まあ、今回は寄生生物による上陸だ。

 空から飛来するモンスターのようにイレギュラーは常にあるという認識を周知できればよい。

 念の為に周辺空港の保安派出所やスカイマーシャルには、拳銃の所持命令と火器の点検をしじしておけ」


 あくまで対外向けアピールだが、堺市周辺には関西国際空港(関西空港)と大阪国際空港(伊丹空港)があり、国境保安庁も派出所を設置し、空港警備やスカイマーシャルの拠点として活動させている。

 それぞれ事件現場から離れてはいるが、普段は暇をしている部署に喝を入れれるのにちょうどよく思えた。


「さすがにそろそろ片付いてると思うが」


 川崎長官の予想に反して、寄生生物の駆除は思いの外、手こずっていた。




 大阪府堺市(旧高石市)

 浜寺公園


 モハモハの死体から飛び出してきた寄生生物は、触手を振り回しながら応対する陸上自衛隊第20普通科連隊第6中隊と交戦していた。

 20普連を含む本国自衛隊の隊員は、大陸の隊員に比べて装備は新型、新品揃いで良いのだが、モンスターの対処に当たって明らかに経験が不足していた。

 失業対策の為の自衛隊の大増員は、一等陸士や二等陸士といった士にカテゴリーされる隊員の定員を満たすことに成功させた。

 転移前から入隊していた隊員は新設される隊や充足した部隊の指揮官不足を補うために一気に昇進させた。

 さすがに転移も十年以上たつと、当時の即席自衛官等と揶揄された『士』も『曹』になり、第17師団や第18師団が創設されたことにより、抜けた穴を補い、新たな若者達が『士』となっていく。

 問題はこの若者達は転移当時の苦境や危機感に薄れた世代になっていることだ。

 これは防衛大出の若い尉官の間でも見られている。

 それでも大陸の隊員ならモンスターの駆除に参加し、入隊前から食料確保の狩りなどを行っていて、妙に覚悟が決まっているのだが、本国の若者にはまだ、そこまで期待するのは酷と言えた。

 ようするに例えモンスターを目の前にしても発砲を躊躇ってまうのだ。

 浜寺公園周辺で駆除を命じられていた第6小隊の苦戦もそこに起因していた。


「何をしている早く撃て!!」

「う、撃っていいんですか、普段はあんなに煩いのに」

「俺達が撃っているのに今さらだろ!!」


 分隊長や班長といった三等陸尉や一等陸曹達が射撃をしているのに確かに今さらだと、士の隊員も撃とうとするが、数人が触手の先の口に噛みつかれたり、身体に巻き付かれて引きずられようとしている。


「小隊長、ダメです。

 交代して距離を取りましょう」

「死守だ、後退は許されない」

「はっ!?」

「浜寺公園の防衛線が突破されれば俺達の背後に何がある?

 石油や天然ガスの精製所や貯蔵タンクだ。

 そこに奴らを侵入されて破壊されるわけにはいかない」


 場所が場所なだけに空爆や砲撃による援護も許されない。

 大阪府立漕艇センターに隣接するこの公園にモハモハの死体が流れ着いたのは、まだ幸運の部類なのだ。


「しかし、このままでは……」

「大丈夫、援軍が来た。

 火力だけが援護じゃない」


 浜寺水路の南側から堺海上保安署に所属する巡視艇『みのお』が姿を見せていた。

 よど型巡視艇の『みのお』は、海上保安庁の武装巡視船艇ではなく、消防能力を強化した消防巡視艇だ。

 角型の船型に高さのある放水塔を備え、5基の放水銃から毎分16,800リットルの放水を可能とする。

 ほとんどが泡原液と粉末消火剤だが、ポンプから海水を組み上げての放水も可能である。

 地球産の海水を主成分とする海洋結界内の海水が、なぜこの世界の生物に死をもたらすのかは謎だ。

 学者も魔術師も神官も究明には匙を投げ、そもそも何が作用して死に至るかもわからない。

 そんな海水がモハモハの皮膚や甲羅といった安全地帯から這い出た寄生生物に降り注ぐと、たちまち萎むように死滅していく。

 死に方まで生物に寄ってバラバラなのだから、学者達まで匙を投げるのは仕方がないのかも知れない。


「負傷者を後送、バケツでモハモハの傷口から海水を流し込め」


 寄生生物は末端が死滅しても内部で分裂して生き残っている可能性がある。

 最終的に焼却処分のはずだが、この場から逃がすわけにはいかなかった。

『みのお』は対岸の高石漁港や高石アリーナなどの寄生生物を駆除すべく、浜寺公園から離れていく。


「小隊長、第5中隊が援軍として、対岸に到着したそうです」

「そうか、後始末は押し付けられそうだな」



 事件の終息後、連隊長の橋村草平一等陸佐と副連隊長兼駐屯地副司令大黒将太二等陸佐が後始末作業に終われる高石漁港を視察する。

 高石漁港はモハモハの死体が運び出され、川西駐屯地からやってきた第3衛生大隊と大阪検疫所の面々が、除染作業を行っている。


「隊員の負傷34名と警察官と職員15名は自衛隊病院で精密検査と治療を受けています」

「殉職者が出なくて幸いだな。

 しかし、やっばり隊員の発砲に些かの遅れがあるな。

 訓練はそのあたりも考慮にいれよう、将来的の為にもな」


 現在、日本本国では千歳駐屯地では第18特科連隊が

 西方大陸アガリアレプトから帰国し、代わりに第19特科連隊が第1特科旅団として派遣。

 第18後方支援連隊が下志津駐屯地で新設されて訓練中。

 北サハリン共和国との樺太国境のでは、第19普通科連隊が第19即応機動連隊に改編されて訓練中。

 習志野駐屯地にて、新設された第55普通科連隊が19即連の穴を埋める。


「19即連が大陸に行けば次は我々の番だから三年後の改編に備えなければならない。

 まあ、その頃には俺もいないんだが」

「私の任務ですね。

 ここに残る隊員にも今回の事件は戦訓として残さないといけないですね」

「海から流れ着く死体に大型寄生生物がいる可能性もな。

 なあ、今回の件、本当に終わったか?

 あの寄生生物、すでに人間の身体に潜んでたりするんじゃないか?」

「ああ、今回の寄生生物、識者からスキンウォーカーと命名されたようですよ」

「モハモハにスキンウォーカーか、UMAはこの世界でも健在だな。

 で、識者って誰だよ」

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― 新着の感想 ―
>「小隊長、第中隊が援軍にあっち側に到着したそうです」 部隊名から数字が抜けています(小声
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