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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
227/274

遠海からの物体X

 日本国

 大阪府 堺市(旧和泉市)

 信太山駐屯地


 旧和泉市と高石市が堺市に合併され、市民達が移民して激減した。

 現在は旧三市合わせて、三万人程度の住民しかいない。

 市民の一割以上を自衛隊隊員とその家族が占めているのだから主要産業と言っていいだろう。

 陸上自衛隊第20普通科連隊は駐屯する信太山駐屯地も増員された隊員の為の拡充を行っていた。

 駐屯地の東側は墓地が立ち塞がっているので拡充を断念した。

 北東側も福祉を目的とする財団の障害者支援施設だったのだが、現在は機能を停止しているので接収、東側は青少年野外活動センターがある森林公園だったが、これも閉鎖してるので接収。

 西側に何故か隣接している小学校2つの校舎、敷地を接収し、前奈池1号、2号公園、伯太6号公園と隣接する高校校舎敷地に繋げて広がっていた。

 隊員とその家族が運営する共同農場や市場も拡げられ、生活の質向上にも意欲的だ。

 それでも1200人以上の隊員と車両、装備を有する駐屯地としてはまだまだ手狭に感じられていた。

 連隊長の橋村草平一等陸佐は、駐屯地内に鎮座する鍋塚古墳で、趣味の発掘作業をしながら

 駐屯地の縄張りについて思いを巡らしていた。


「いや、サボってただけですよね、連隊長!!」


 副連隊長にして駐屯地副司令を兼任している大黒将太二等陸佐が古墳の駐車場に高機動車で乗り付けて、苦言を呈してきた。


「急いでくるとは、何かあったか?」


 話題を変える必要もあり、無駄な説教を辞めさせる。


「高石マリーナにモンスターの死体が流れ着いたそうです。

 地本に市役所から安全の確認と死体の処理の要請が来てます」


 高石マリーナは市民が利用していた改造漁船の一大停泊地だ。

 もともと漁港も隣接していたことから、住民が減った今でも市民の胃袋を支える大事な場所である。

 また、現在では災害派遣の他に治安出動でも市長クラスの自治体の要請で出動出来るように法改正されている。


「モンスターの種類はわかってるのか?

 あと、警察や海保はどうした」


 日本本国の海洋は、モンスター等のこの世界由来の生物が死滅する海水、通称海洋結界に囲まれている。

 徐々に結界の範囲は縮まっているが、占守島以外はまだまだモンスターが海上から上陸できる場所は存在しない。

 モンスターの死体は海洋結界に触れて死んだのが流れ着いたのだろうが、自衛隊に死体処理の依頼が来るのは大型モンスターの可能性がある。


「識者からの見解で、モハモハと命名されました。

 警察は高石駐在所が現場を封鎖、府警からNBC初動措置班されています。

 海保は堺海上保安署が巡視艇『みのお』が海上から見張っています」

「モハモハ?

 また可愛らしい名前だな。

 あと、識者って誰だよ」


 写真を見る限り、全長10メートル程の亀の甲羅から足や長い尾を生やした首長のドラゴンという感じだった。

 問題は流れ着いたのが十数匹の群れだったことだ。


「大阪検疫所が防疫検査を行うので、処分はこちらに任せたいと。

 焼却処理後は大阪沖埋立処分場に埋没させればよいと。

 第6中隊に任せようと思いますが」


 第6中隊は比較的、漁業系や水産加工を親や親族に持つ隊員で構成され、堺港、浜寺漁港、高石漁港に隊員の家族名義の漁船に乗り、漁を行っていたりすり。


「十分だろ。

 念のために衛生中隊にもお出ましを願おう」


 第3師団に所属する第3衛生中隊は、自衛隊病院も所在する兵庫県川西市の川西駐屯地に配備されている。

 最も川西市はいまだに移民対象外の都市なので、駐屯地の拡充は出来ず、中隊隊員達は各地の駐屯地で医療行為を行っている分散配置となっている。

 こうして自衛隊側が出動する準備が始まるが、事態はそれより早く動いていた。



 旧高石市地区は第一次産業就業者が少なく、その他移民対象外者やその家族を含めて残留者は2100名程度しかいない。

 むしろ石油、ガスの精製、貯蔵施設の職員とその家族が市民の3割以上を占めている。

 当然、警察官もその数を減らし、高石警察署は警察官6名が駐在する駐在所に格下げになっている。

 警官達の家族も警察署周辺の住宅を官舎とし、その広さを共にもて余していた。

 当然、交番などは割り当てる人員もいないから廃止である。

 これは中核となる旧堺市も同様で、13000人程の残留人口では、堺警察署以外は廃止され、34人ほどの署員しかいない。

 むしろ旧和泉市の方が残留人口が多く、和泉警察署も40名以上の警官が務めている。


「この人数でマリーナを封鎖しろとか無茶だよな」

「堺署から10名、和泉署から20名、応援に来るらしいが気を抜くなよ。

 自衛隊が来れば後はお任せだ」


 警官達は高石マリーナや漁港を封鎖し、猟銃や拳銃、防刃ベスト、防護盾など完全武装で一帯を封鎖している。

 生きていれモハモハはいないと思われるが、海上では巡視艇『みのお』が探索を行い、安全の確認を行っているが出港出来ない漁民からは不満の声が上がっている。


『出港中の船は浜寺マリーナに向かってください。

 現在、輸送車両等もそちらに移動中です』


 巡視艇『みのお』も外部スピーカーで呼び掛けを行っている。

 マリーナ周辺ではモハモハの死体が散在しており、少ない人員での封鎖は無茶があった。

 今となっては自警団も小規模なので協力も難しい。

 ようやく大阪検疫所の職員が到着し、20普連第6中隊の隊員もマリーナに隣接する大阪府立臨海スポーツセンターの駐車場を本部に検疫に立ち合い、死体搬送の準備を行っていた。

 しかし、検疫所の職員がモハモハの死体に接近したところで、死体の皮膚の中から何かが動いてるのが見えた。

 その皮膚を食い破り、中から出てきたのは大蛇のように長い身体に触手のような何かを生やした生物が職員に巻き付いてきた。


「うわっああ、取ってくれえぇぇ!?」


 当然、職員も防護服を着ており、何度か噛みつかれるが、その牙は弾かれていた。


「動くなあ、今取る!!」


 隊員の一人が20式5.56mm小銃に着剣した89式多用途銃剣で生物の頭を刺し貫き、地面に叩き付ける。

 生物の尾はまだモハモハから抜け出ておらず、全長が何メートルあるのか検討もつかない。

 別の隊員が地面に落ちた生物に銃弾を連射するが、千切れた尾の部分はまだうねうねと蠢いていた。

 さらにモハモハの皮膚を破り、二匹目、三匹目と謎の生物が姿を現す。

 隊員達が射撃を続けるが、漁港、スポーツセンター敷地、浜寺水路を挟んだ対岸の浜寺公園からも銃声が鳴り響き始めた。

 他の死体からも謎の生物が体内から湧き出したのだ。

 同連隊第6中隊長の三間一等陸尉は、スポーツセンター内で市役所や警察官、大阪検疫所の責任者等と協議を行っていたが、外から聞こえる銃声とセンターのガラスを破る白く長い生物に拳銃を抜いて発砲した。


「早く避難を!!」


 警察の現場責任者も拳銃を抜き、学者や役人達を避難させていく。


「隊長さん、あれは多分寄生生物の一種だ。

 モハモハの体内に寄生して海洋結界の効果から逃れたんだ!!

 海に叩き込めば死ぬか、モハモハの体内に留まるはずだ」


 学者の一人がそう叫ぶが


「海に死体を多数投げ込めば海洋が汚染される、漁港でやるのは致命的だ!!

 焼き払ってくれ」


 漁協の組合長が折角の対策に異論を挟んでくる。

 実際のところこの漁港を借りて、漁を行っている三間一尉もこんな得たいの知れない生き物を自分達の漁場に叩き込むのは、なんか嫌だった。

 無線機を片手に各隊員に命令を下す。


「銃弾で応戦しつつ、バケツで海水汲んで、奴らにぶっかけてやれ」

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