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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
226/274

ある企業家の休日

 大陸東部

 日本国浦和市近郊

 エルジェーベト村


 基本的に日本国は領土内に大陸人の居住を認めていないが、幾つもの例外は存在する。

 まずは新京とその近郊に在住する貴族妻女や子弟、それに仕える郎党。

 本来は皇国との戦争での年貢に対する担保、人質だが、江戸時代における大名屋敷的なものと思えばいい。

 大陸全土で領邦三千と言われるが、貴族自体は二千家しかいない。

 王家直轄の天領は、その9割が皇国と地球側の戦争責任を取らされ改易された元貴族領だ。

 さすがに新京に全貴族が屋敷を構えるのは無理があり、衛星都市である龍別宮町や吹能等町、隣接する中島市や那古野市に屋敷を構える家も出てきた。

 次に魔術師や神官、精霊使い等、医療や教育機関などに顧問、非常勤として雇われた者達。

 魔法の腕を買われ、地球人にはまだ無理な魔法を駆使して労働に勤しんでいる。

 そして、大陸人部隊として将来的に日本国籍を与えられる事が前提で労務に励む。

 今のところ日本人は転移前より職業差別が少なく、肉体労働や転移前は人が嫌がる仕事とされた職業にも高い配給や土地譲渡として加算されるので引く手数多だ。

 しかし、どうしても人手不足の分野は出てくるので、そこを大陸人部隊から出向して補われている。

 そして困り者なのが、地球人との間に婚姻を成した者だ。

 これが人間種なら国籍やら社会保障を与えていれば問題は無かったが、エルフが相手なら問題しかなかった。

 何よりエルフ達は婚姻はあまり望まず、子供だけを産み散らしていくからだ。

 これが妊娠したのが人間側なら堕胎、母子家庭など選択肢はあるが、エルフ女性によるハーフエルフ孤児が社会問題になりつつあった。


「そこでエルフ大公国に最も近い、浦和市近郊にハーフエルフを育てる村を創る計画よ。

 どうもエルフはネグレクト傾向があって、子供なんて勝手に育つと考えてるらしいわ。

 最低限、衣住は用意するけど食は自分達基準で小食か、何日か食べなくても死なないでしょう、とか本気で考えてからびっくりしたわ」


 浦和市の市長選に立候補を決めた白戸昭美は、夫婦別姓の夫である乃村利伸を連れてこのエルジェーベト村を訪れていた。


「よくもまあ、それで大公国を建国できるほど人口を保てたな。

 いや、大陸では人間種に続いて人口第2位だ。

 産めよ、増やせよだけでは無理があるだろ」

「大公国の森なら恵みあふれる豊かな森だから問題は無いけど、都市や寒村ではハーフエルフが孤児になりやすい傾向があるわ」


 ところで乃村は何でこの村に呼び出されたか聞いていない。

 選挙協力と愛娘の顔見たさに休暇に浦和市に来てみたら、愛妻にこの村に連行された。


「しかし、大公国と国交が結ばれてからまだ、数年だからハーフエルフ達も幼いな。

 十歳くらいまでは人間と変わらない歳の取り方なんだっけ?」

「そうね。

 その後は人間の半分ほどの歳の取り方で百年ほど生きるわ。

 つまり50代の見掛けで寿命間近ね」

「なるほど……

 とこで、その、さっきから気になってたんだが、多くない?」

「この村の人口は3568人。

 うち2311人が日本人とエルフのハーフ。

 日本人母親が632人よ。

 エルフは男女合わせて45人。

 あとは元々の村人」


 えらく歪すぎる構成だと、ため息しかでない。

 なんとなく自分が呼ばれた理由がわかった気がした乃村は広い敷地を見て取る。


「全寮制の学園でも建てるか、将来的に石狩貿易の社員候補として囲えればいい。

 奨学金みたいな形で返済して貰うとして、補助金や寄付金で緩和させていけばいい」


 学園自体の建設費用は大したものではない。

 教職員の人件費や教材や学園の維持費、生活費が莫大なものである。


「飯自体は国にも出させるか、年貢を少しこちらにまわして比べればいいし、生徒自体に畑や牧場を農業科みたいに運営して貰えばいい

 ああ、国が計画してる魔法学園にも留学として送り込むか。

 一人や二人ならいじめの対象になるかもしれないが、毎年一クラス分なら一大派閥だ。

 迂闊に手は出せなくなるだろう」


 すると昭美は少し驚いた顔をしている。


「私としては孤児院建設の寄付金を頂ければ、選挙の宣伝になるからいいと考えてたのだけど。

 そこまでしてくれるなら支援活動のアピールを拡大できるわ」


 余計な事を言ってしまったと苦笑いしかできない。


「将来的にお義父さんの再就職先にいいかな?」

「ダメよ、天下りの斡旋は、支持率に響くわ。

 それはそうと、見て貰いたいものが有るのだけど……」


 夫が学園の資金を出すのは良いのかと疑問に思うが、案内された場所に驚愕する。


「まだ、規模は少ないけどユニコーンとバイコーンの牧場よ。

 この森の特産、或いは浦和市の名物に出来ないかしら?」


 双方共にエルフ大公国では軍馬として飼育、使用されてるので、試す価値はあるように思える。


「試す価値はあると思うがユニコーンの角は治癒能力や水質浄化に効果があるのは知ってる。

 バイコーンは何があるんだ?」

「装飾品や精力剤として好まれてるみたいね。

 もっと言えばは媚薬?」

「生体はどうなんだ?

 ユニコーンは性的行為を行った人間が触れると角が落ちると伝るが」

「正しくはツガイとなった相手が、自分以外の他の個体と性的行為をして、その後にユニコーンと性的な行為を行った場合よ。

 その場合、角が抜け落ちて白馬が黒馬になり、ただの馬に成り果てるわ。

 まあ、なぜかエルフなら平気だったり、普通に生きてても一年で生え変わるから勝手に落ちてたりするのよね。

 だから人間の少女を清らかな乙女のうちにキープして、将来的に性的に食べて伴侶にするつもりなの。

 まあ、このユニコーン版『光源氏計画』は、人間社会と噛み合わないから上手く行かないけど。

 男の子の場合も同じね」

「そんな性犯罪者みたいな生き物の近くに学園創るなよ」

「今いるユニコーンは『伴侶』もちだから問題無いわ。

 逆にバイコーンなんだけど、あれは淫蕩を好んで不特定多数と乱れたい傾向があるから男女見境無いわね。

 人間を食肉の意味でも食べるから飼育には気を付けないと」


 何一つ安心できる材料が無かった。


「飼育員にはミスリルの鎧でも渡しとくか。

 さすがにあれは噛み砕けないだろ。

 今はどうしてるんだ?」

「エルフさん達が性的に満足させてるから、両方大人しいわよ」

「うん、ちょっと詳しいこと聞くのに頭痛を覚えたから後日な」


 浦和市の別宅に戻った乃村夫妻は、家族団欒を楽しんだ後に本社から送られてきた資料に目を通す。

 それは先ほど公表された航空自衛隊第10航空団設立のものだが、世間には秘密とされている機体名に眉を潜め。


「親父、遂にボケたか?」


 などと暴言を吐き出す。

 普段は乃村も旧式の銃器や戦闘車両を復元、再生産し、売り捌くこともするが航空機となると話の格が数ランク上がる。


「現行のF-4はかなり共食いに新規の部品で延命処置を施したが、F-104JやF-1は実質再生産になる。

 F-104は2005年までイタリア空軍が近代化改修を施して現役を維持してるな。

 電子戦装備はいらんからこのS型に機銃を着けた感じが最新型になるのかな?

 F-4を含めて部品の共通化も行われるか」

「それであなたの役割わ?」

「中島飛行機にこれら部品の生産を行わせることだな。

 一線級の機体が揃うまでの場繋ぎなんだが」


 一線級の機体もF-2は4機、F-15は17機、F-35は16機が本国の教導飛行団に所属している。

 こちらをまわせば良いものと思わないでもない。


「そうそう昭美、エルジェーベト村には保安官事務所もいるよなあ」


 考えないといけないことが多く、とても休暇とは思えなかった。

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