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日本異世界始末記  作者: 能登守
2032年
225/274

見切りと先送りとマウントを

 大陸東部

 日本国

 大陸総督府


「それで、ミュミルドンたちの顛末はどうなりましたか?」


 佐々木洋介総督は、国際連隊が取り逃がしたミュミルドン達のその後を秋山首席補佐官に問い質していた。


「逃亡したミュルミドン、通称羽蟻は約300匹。

 高麗航空隊や自衛隊ヘリコプターが網を張り、農村や漁村の襲撃を阻止、宿場町も避難が早かったのか、人的損害は無かったのですが、この時点で航空戦力の弾薬や燃料が不足し、最寄りの基地に撤収。

 攻撃を潜り抜けた羽蟻約200匹は、ケルディア子爵領の領都を強襲。

 領邦軍、冒険者、傭兵など明らかに武器を持った者を皆殺しにしました。

 この中には領主一族も含まれてますが、武器を持たない者は捕獲、フェロモンによる洗脳に留めたようです」


 佐々木総督の報告書にはフェロモンで洗脳された者は、水や気付け薬、鉄拳で目を覚ましたが、巣穴で発見された餌や奴隷化された人間は、ミュルミドンの針で、認知能力が極度に低下した状態となって発見されたと書かれている。

 食事や排泄など、生命維持に必要な行動は支障が無く行われていたが、それ以外の行動は大脳が初期化されたように出来なくなっていた。


「重度のアルツハイマーみたいなものですかね?」

「リハビリで日常生活には戻れるようにはなるかもしれないですが、以前の記憶は戻らないだろうというのが医師の診断でした。

 今は神殿の奇跡による治療が試みられるとのことです」


 確かに高位の奇跡の力なら四肢欠損すら回復させた事例もあるので、脳神経の回復も期待できる。


「朗報を待っています。

 それでケルディア子爵領の処置ですが」

「領邦軍の残存戦力が、子爵家親族の援軍を持って領都奪還にあたるそうです。

 残りの羽蟻は百匹相当、問題は無いとの話ですが、その後は子爵家の家督争いになるかと」

「そこまで介入する気は無いですね。

 王国軍もいることですし、いざとなれば南部独立都市群にお任せしましょう。

 まあ、もう少し引っ掻き回して欲しいものですが」


 秋山首席補佐官は自分の報告は終わったと席に戻るが、後日佐々木総督の言葉が実際に起こり、冷や汗をかくことになる。


「次の事案よろしいでしょうか?」


 川田雅晴次席補佐官に促されて、次の報告をさせる。


「移民本部から相模原市の入植が終わり、岡山市からの入植を開始するとのことです」


 岡山市は、美作市、瀬戸内市、備前市、津山市、加賀郡、久米郡、都窪郡、勝田郡、和気郡、英田郡、鏡野町、里床町、新庄村を合併し、県人口の六割近くを供出する構えだ。


「また、鹿児島市がようやく地域合併を達成しました」

「やっとかあ」

「揉めたなあ」

「国勢調査のデータも現実に追い付けない流動人口でしたからね」


 転移後に日本国の経済は実質的に壊滅し、人々は食料を求め庭や空き地を耕地に変え、海岸に釣竿を垂らし、素潜りで獲物を捕まえ、血縁を頼り田舎に疎開を始めた。

 この際に疎開はあくまで疎開であり、住所や本籍地は元のままだった者が大多数だった。

 その後は現地で開墾や漁船の取得に成功した者は、現地の市民権を得て土着しはじめる。

 それ以外の者は徐々に復活してきた企業や工場に戻り、或いは大陸への移民が元々住んでいた自治体で行われ、疎開先を離れていった。

 その膨大な住民票などの処理も政令指定都市なら誤差も少なく乗りきれたが、それ以外の都市を中核とする都市圏に混乱が発生させていた。

 登録された住民と疎開先で居座った住民の総数が合わないのだ。

 電力不足でお役所もPCの使用が制限され、紙とペンで乗りきろうとしたのが、収拾の着かない事態に拍車を掛けた。

 電力に余裕が出来てからは、各自治体が大慌てで実態調査と改訂に乗り出したのは言うまでもない。


「移民対象都市の選別は、転移前の市町村人口を参考に行われていましたが、さすがに実体に合わなくなってきました。

 東京都民や横浜市民を真っ先に大陸に移民させたのは正解でしたね」


 佐々木総督も呆れ顔だ。

 人口は似たようなものだが、鹿児島市は船橋市の99倍の第1次産業従事者がいる。

 混乱は比較にならない規模だ。


「まあ、鹿児島市が地域統合を成功させても静岡市、船橋市の順番は変わりませんが、川口市が鹿児島市の人口を抜くという問題が生じました。

 これは転移後初の事態であり、移民本部が頭を抱えています」

「岡山市の入植が決まる前に蹴りを付けなくてはいけません。

 皆さん、心して対応に当たってください。

 はい、次の事案」


 問題を確認できたという結論を出して、解決は先送りにする決定が下された。


 次の事案に手を挙げたのは、大陸東部方面隊総監穴山友信二等陸将だった。


「現在、陸上自衛隊では来年に吉備市に第18特科連隊、新植民都市に第18後方支援連隊を配備する方向で部隊を新設、訓練を続けています。

 しかし、今のペースで植民都市の建設が続く場合、来年には建設される総督府移転都市に戦力を用意できません。

 今までも何とか騙し騙しやって来ましたが、もう無理です。

 逆さに振っても出てきません」

「ふむ、困りましたね。

 警察の方ではどうにかなりませんか?」


 話を振られた大陸東部方面隊総監穴山友信二等陸将も困った顔をする。


「新京警視庁のSAR(Special Assault Regiment)は、ようやく千名に達したところです。

 総勢1025名ではまだ連隊の規模が満たせず、守備隊として送り込むのは無理です」


 陸自からも新京警視庁からも袖にされた佐々木総督ら古巣の公安調査庁の波多野支局長や海上保安庁 第13海上保安管区本部本部長岡田海上警備監の顔をみるが、二人とも顔の前で手を振っている。

 海上自衛隊の那古野地方隊総監の猪狩三等海将は、内陸部の話だと、関わる姿勢を見せていない。


 そんななか、手を挙げたのは航空自衛隊第9航空団司令澤村三等空将だ。


「あのう、うちで第10航空団を創設する話があるんですが……」


 その話に食いついたのは、穴山二将だった。


「空自さん、そんなに戦闘機があったか?

 F-15は本国の航空団に独占されて、虎の子のF-35は飛行教導団行きだろ?

 F-2だって最近ようやく第9航空団で定数満たせたと喜んでたばかりじゃないか」


 F-2、F-15、F-35の各戦闘機は、転移後も少ない資源を遣り繰りし、必要の無い機能はオミットしながらも年間に各1機ずつ生産はされていた。

 本国の各飛行団がF-2の飛行中隊、F-15の飛行大隊を編成する中、第9航空団だけはF-2の飛行中隊とF-4の飛行大隊という有り様だった。

 数機の予備機はあるのだが、本国が大陸に寄越して来るとは思えなかった。


「実のところ機体はF-104Jの飛行大隊とF-1の飛行中隊です」


 全員が微妙な顔をしたのは言うまでもない。


「ああ、戦中の機体を復元したとかの話があったな。

 あれと比べればマシなのか?」

「あれも今回の機体もガワも部品も実質新規で製造されてます。

 こういう場合、新規に最初から作った方が安上がりとよく言いますが、新規だと予算が下りなく、復元だと予算が下りやすいんです」


 澤村三将の言葉に一同の顔は


「そうかな……そうかも…… 」


 と、なっている。


「実際に震災時に損傷したF-2新規製造や代替機でなく、修理で予算でたでしょう?

 生産ライン止まってたのに」

「いや、比較としてもF-104やF-1と一緒にしていいのか?」

「大戦中の機体まで復元しといて今さらでしょう。

 あ、ちなみに第10航空団創設と同時に私も大陸航空方面隊司令になります。

 やっと二等空将です」


 その言葉に出遅れたとショックの顔を猪狩三等海将見せていた。






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