不完全燃焼
大陸南部
高麗民国国防警備隊航空隊
第3戦闘航空団
サイゴン市の国際連隊からの要請により、6機のMiG-21戦闘機が新羅基地より飛び立っていた。
日本からの協力で、電子兵装の強化と、ルーマニアの近代化改修機をモデルに対地攻撃を強化した機体となっている。
そのため、任務自体も地上部隊への支援攻撃となっていたため、全機が爆装して飛行していた。
『サイゴンDC(防空指揮所)より、飛行中のイルソン各機。
目標が羽を生やして空に飛び立った。
これを撃墜せよ』
『イルソン01、了解』
サイゴンの防空隊も飛行するミュルミドンを追うが規模も小さい上に地上からでは追い付けない。
高句麗基地からも第2戦闘航空団の15K 3機、F-4E 3機が緊急発進して追い付けないまでも高麗民国に進路を変えた時に備えている。
国際連隊は91式携帯地対空誘導弾を積んだ自衛隊車両が追跡するが、数匹を撃墜したのみで、道の悪さから追跡を断念する車両が続出する。
だがそんな悪路を走破できる存在が国際連隊には存在する。
「その短SAMを寄越せ、我らが追う!!」
南部独立都市群から派遣された第2中隊隊員を背中に乗せたケンタウルス達だ。
マルホイ小隊長を先頭にケンタウルス達が掛け寄ってくる。
軽装甲機動車や高機動車から旧ロシア製の9K38 イグラや91式といった携帯地対空誘導弾を第2中隊隊員に手渡し、ケンタウルス達が道無き道を駆け巡り、羽根つきミュルミドン達を撃墜していく。
この戦術は後に『チェンタウロ・ドラコ』と呼称されることになる。
やがて高麗のミグ21も30mm機関砲NR-30を発射するが、何れも数百匹にも及ぶ羽根つきミュルミドンの前には焼け石に水であった。
「呼びにくいな。
仮称を『羽蟻』にすると各方面に伝えろ。
アンフォニーとイベルカーツからヘリコプターでインターセプト出来ないか?」
長沼一佐が対応に四苦八苦してると、上位司令部より報告を求める連絡が来た。
「連隊長代理、呂宋の井田二佐から報告を求める通信が……」
呂宋の自衛隊駐屯地に鎮座する大陸南部混成団は、大陸南部における自衛隊各部隊を統括する
部隊だ。
国際連隊とは指揮系統が異なるのだが、アンフォニーやイベルカーツに分屯する先遣隊を動員するなら、ここに話を通さなければならない。
双方の分屯地にはヘリコプターもあるし、小規模だが高射隊もいる。
長沼一佐をここまで送り届けた護衛艦『ながら』のSH-60K 哨戒ヘリコプター も燃料補給の為に引き上げていってしまった。
しかし、長沼一佐としては、年齢も階級も経歴も下の大陸南部混成団団長の井田翔太二等陸佐に頭を下げるのに抵抗があった。
「要請と簡潔な報告を送っとけ、今俺は手が離せん」
その言葉も嘘ではなく、国際連隊有数の射手として、SV-98狙撃銃を08式歩兵戦闘車の上から射撃し、上空の羽蟻を一匹ずつ仕留める妙技を見せつけついた。
だがその話をしていた隊員の様子がおかしい。
能面のような顔つきになり、涎や涙を垂れ流しながら車両の屋根に乗る長沼一佐に襲いかかってきたのだ。
レンジャー徽章を持つ精鋭隊員に相応しくない、ただ掴み掛かってきた動作。
そんな相手にしてやられるほど、長沼一佐も鈍っていない。
すぐに蹴り飛ばし、車両から飛び降りて取り押さえる。
気がつくとそこかしこで味方の隊員同士が殴り合い、投げ飛ばされ、抑え込まれている。
「全車、MBC戦用意。
スモーク発射、ガガスマスクを着用せよ」
MBCとは、ご存じの通り魔術(magic)、生物(Biological)、化学(Chemical)の意味する。 .
以前は核(nuclear)を意味するNを加えてのNBCだったが、異世界転移後はあんまり意味がなく、魔術による戦闘が続出したので、近年MBCに言いかえらるようになった。
ちなみに『状況、M』だとモンスターとの遭遇戦いなので、使い分ける必要がある。
スマークこと、煙幕を張らせたのは化学兵器や生物兵器だった時に風向きを調べる為と、大半の魔術が相手を視界に捕捉させる必要があるからそれを防ぐためだ。
「魔術では無いか、それなら……」
魔術なら更なる追撃がるし、攻撃魔術ならどの属性でも濃密な煙がその攻撃を知らせてくれる。
ならば後者二者、現在の状況から生物兵器である可能性は高かった。
「追撃中の車両や隊員には異常はないか……」
「連隊長代理!!
臭いだ、変な臭いが隊員の精神を眠らせて身体を操っている。
水をぶっかければ動きは止まる」
ユニコーンに騎乗したエルフの小隊長ベルクが部下達と共に精霊魔法で水をあや取り、錯乱した隊員の頭を包み、昏倒させていく。
臭いが原因なら移動中の隊員に影響が少ないのは説明がつく。
影響の有った隊員は車両が山野を進めなくなり、停車して降車していた隊員だ。
長沼一佐が無事だったのは、08式式歩兵戦闘車の屋根の上という高所にいたからだ。
「なるほどフェロモンか」
羽蟻が地面にフェロモンを分泌していたのが、後から映像で確認すればわかった。
地球にもサムライアリという蟻がいる。
他の蟻の巣に攻め込み、巣の奥の卵を持ち去り、孵化させた蟻の幼虫に分泌物を塗りたくり、同胞であると認識させて自らの働き蟻として使役するのだ。
「それと坑道から巣穴に向かった部隊からの連絡です」
こちらはドワーフを中心に編成された。
適材適所で地球人側は数人の通信隊隊員のみだ。
彼らは長沼達が追撃時に恨みがましい目で見ていたが、現在は全員が外に出て仲良く吐瀉物を地面に吐き散らしている。
「洗脳された隊員連れていけば、いい気付けになるかな?」
などと鬼畜のようなことを呟いてる長沼一佐をベルク小隊長が
「素敵……」
などと呟いて他の自衛官達をドン引きさせていた。
それはそれとして巣穴の写真が手渡される。
「ああ、これを見たのか。
通信隊にはカウンセラーを手配できるか要請しておこう」
写真に写っていたのは背中を内側から食い破られて、食い散らかされた死体や白骨化して積み重ねられた死体だけだった。
そして水没した巣から逃げれず、溺死した女王ミュルミドンと無数の卵の残骸だ。
「行方不明の鉱夫や旅人、軍警察のか。
卵を埋めつけて、寄生先を孵化した幼虫の食材にするのか、属性てんこ盛りだな、おい」
どのみち国際連隊ではこれ以上の追撃は不可能だ。
観測では羽蟻は三百ほどに数を減らしている。
どこまでも追いかけて一匹でも倒せば領邦軍や冒険者でも対応可能になる。
「いえ、ここまです長沼一佐。
大陸南部混成団司令部は、国際連隊に追撃の余力無しと判断。
総督府を通じて退却を指示されました」
そう告げたのは増援の第3中隊を率いて到着したが、やはり山野にタイヤでは進めずに立ち往生を食らっていた高麗から派遣されている高麗民国国防警備隊柳基宗少佐でだった。
「我々は南部独立都市群の近隣に根を張っていた脅威を漸減し、警戒並びに防衛のラインを形成させた。
十分です。
後は現地の各々部隊に任せましょう」
「脅威を拡散させたの間違いじゃないかね?」
「連隊代理、お忘れなく。
総督府並びに地球系各政府の目標は大陸人の自然的減少です。
その為の手駒を減らす必要は無いんです」
国際連隊にはエルフやドワーフ等の亜人や王国軍、南部貴族領邦軍から派遣された将兵もいる。
彼等には聞かせられない話だ。
総督府や地球系各政府の考える脅威には大陸人も含まれているのだ。
「いつかその傲慢は全部俺等に返ってくるぞ」
「確かにそうかも知れませんが現実に追撃の手段が無いじゃありませんか」
そう言われるとその通りなので、長沼一佐は部隊の撤収と作戦の終了を宣言した。
後はそれぞれの警戒線に引っ掛かり、数を減らされるのを期待するしかなかった。
前に感想欄で、チェンタウロ・ドラコの情報貰いまして、チェンタウロはケンタウルスの事だったなあと思い出して珍妙な戦術を出してしまいました。
たぶん、2018年に映画館で観た『ホース・ソルジャー』の影響もあります。
どこでアイデアが繋がるかわからないので、感謝しております。




