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日本異世界始末記  作者: 能登守
2026年
22/274

一揆と神像

 一揆軍が竜騎兵団に蹴散らされ、追い散らされる乱戦の中、街道の先にから土煙を上げながら何かが接近してくる。


「何だ?」


 一揆軍を突破した先頭の竜騎兵は、土煙に人の形をした影を認めて、槍を突き立てるとそのまま持ち上げられ、街道の外に放り投げられた。

 土煙が晴れると神の姿を象る4メートル前後の全高を持つ巨像が動いている。


「ゴーレムか?

 だが一体だけだ、対ゴーレム戦用意!!」



 一揆軍からもゴーレムの姿が確認出来る。


「おお、あれは!

 先代の子爵様が用意した神像、この領地が危機の時に動き出すと言われてたが」


 モンローの言葉に農民達が共に戦おうとゴーレムのまわりに集まっていく。


「行くぞ!!」


 一揆軍の反撃の進撃と同時にゴーレムは前方を歩いていた農民を踏み潰した。






 代官所の堀を渡る為の橋を、デイノニクスを駆る勝蔵が疾走する。

 富士吉田市の牧場で一通り馬には乗れるようになったが、騎竜はやはり勝手が違う。


「前進出来ればいい!!」


 橋の上で時速40キロで走り抜けるデイノニクスに代官所に立て籠るグルティア兵の前装式弾込め銃が数発発砲される。

 しかし、その快速で狙いを外され空を切り、強靭な鱗が運良く着弾した鉛弾によるダメージを減衰させてしまう。

 デイノニクスはそのまま門扉にぶつかる直前に、門扉の金具に足を掛けて、そのままスルスルと屋根まで駆け上がっていく。

 屋根から代官所の庭先に降り立った。

 群れを作る性質のあるデイノニクスは、すぐに代官所内の別のデイノニクスのいる場所に向かう。

 グルティア兵達は味方の騎竜かと思い、阻止行動をとってこない。

 即ち立て籠る敵将のいる場所だ。

 手綱とデイノニクスの首にしがみつくのが精一杯だった勝蔵は、敵騎竜と騎竜兵の前で停止したデイノニクスから滑り落ちる。


「こ、この気持ち悪いじゃないか」


 吐き気を堪えて、自棄っぱちっで背中に背負ったベレッタ 自動式散弾銃を適当に構えて撃ち放つ。

 穴だらけになって倒れた騎竜兵を目撃し、代官所のグルティア兵は降伏した。

 



 門扉が開き、荒木や北村が代官所に雪崩れ込むと真っ先に囚われていた代官所の役人や兵士達が解放された。

 軟禁を解かれた代官エミリオも勝蔵が肩を貸して中庭に出てくると組員や代官所の役人や兵士達が歓声を上げる。

 そこに浅井二等陸尉と調査団の団長である藤井が現れる。


「さあ、あとはあんたの仕事だ、お代官様」

「わかっている。

 王国代官として日本国自衛隊に、よ、要請する。

 この領内を荒らして回ったマッシモ・グルティア率いるグルティア騎竜兵団の撃退と奪われた食料の奪還を!!」




 マディノの町から高機動車2両が、竜騎兵団の追跡を開始する。

 だがすぐに目標を視認することが出来た。

 さすがに40台もの馬車が固まって街道にいれば嫌でも目立つ。


「なんでこんな所で停まってるんだ?」

「二尉、街道の先で騎竜兵団が交戦中のようです!!」


 高機動車の後部でドローンから配信される映像を見張っていた隊員が浅井を呼び掛けてくる。


「一揆軍か?」

「いえ、これは二足歩行ロボット?」


 要領を得ない隊員の発言に浅井もモニターを確認すると、確かに二足歩行の巨大な像が動いていた。


「ゴーレムって奴か」


 グルティア兵達が一斉銃撃後、竜騎兵達が槍や剣で切りつけている。

 デイノニクスも爪や牙を突き立てているが、まるで歯が立っていない。

 尻尾を掴まれて振り回されている光景が目にはいる。

 その周辺では一揆に参加した農民達が倒れていたり、逃げ回っている。


「先にアレを片付けないといけないか、やるぞ!! 」


 銃架にRPK軽機関銃を装着し、高機動車から銃撃が開始させる。

 車両から降りた施設科隊員もAk-74で射撃する。

 無数の銃弾がゴーレムに撃ち込まれるが、多少ヘコませる程度で前進が止まらない。

 そのヘコみもすぐに修復していく。

 後方からの突然の攻撃にグルティア兵達は慌てるものの、マッシモが号令を駆けて落ち着かせる。

 すぐに高機動車の元に駆け寄って忠告してくる。


「それじゃあ駄目だ。

 ゴーレムは、魔力を込めた宝石を体のどこかに埋め込まれている。

 それを破壊するんだ!!」


 さすがにマッシモは家臣団に組み込まれて士族に族籍変更が行われているとはいえ、貴族の子弟だったこともあり日本語を学習している。


「どこかってどこだよ!!」

「だいたい頭部、胸部、腹部がセオリーだ」


 銃撃は当然胴体を集中して狙っている。

 弾込めを終えたグルティア兵達も攻撃に加わる。


「あそこまでヘコめば、行け!!」


 竜騎兵4騎が、デイノニクスの腕に取っ手を持たせて持ち上げさせた巨大な金属製破城鎚を火線に注意しながら突撃する。

 巨大な杭のような穂先を持った重量400キロの金属製である。


「撃ち方やめ!!!」


 銃撃が止まり、ヘコみが戻る前に、ゴーレムの腹部を金属製破城鎚が貫く。


「外れか、いかん、退け!!」


 貫通して背中まで穴が空いたゴーレムの傷が塞がっていく。

 刺さったままの破城鎚が、そのまま刺突していた部分が切り落とされる。

 そのまま落とされた破城鎚を握られて振り回され、まだデイノニクスに取っ手を握らせていた騎竜兵二人が騎竜ごと投げ飛ばされる。

 そして何事もなかったかのように前進を再開する。


「兵を街道から外させろ。

 さっきから見てると、奴は進路を妨害するものにしか攻撃しない」


 浅井の指摘通りで、蹴散らされた農民や竜騎兵、排除された倒木や盛り土も全て街道のゴーレムの進路上でだ。

 しかし、後続の馬車を街道の外に出せるほど、街道の周辺の森は広くない。


「最後尾の馬車から負傷者を馬車に乗せろ。

 満載になったら順次その場で転回して町に戻れ!!

 竜騎兵は足止めに徹しろ!!」


 町には石和黒駒一家と代官所の兵士達が待ち受けてる筈だが、馬車に積まれた食料を無視出来ないのは同様だった。

 まだ竜騎兵は30騎ほど残っているが、ゴーレムを倒す決定打に欠けていた。

 転回しようとする馬車を浅井が引き留めている。

 馬車の兵士達に片言の大陸語で説明しているが、なかなか理解してもらえない。

 ようやく日本語がわかるマッシモが来て双方胸を撫で下ろしている。


「何をしている?」

「命令しろ、馬車に一揆に参加した農民も乗せてやれ。

 そうすれば町に入る通行手形の代わりになるぞ」


 確かに先程まで戦闘を行っていた武装集団がいる町に入るには手土産が必要ではあった。


「積み荷を放棄せるわけにはいかない。

 負傷してない農民は走らせろ」


 マディノの町では次々と引き返してくるグルティアの馬車に困惑していた。


「何があったので?」

「わからん」


 勝蔵とエミリオも戦力を集め、グルティア兵を町の広場に集めて、馬車を制圧して食料を奪還させた。

 グルティア兵の抵抗の無さに戸惑っている。

 ようやく馬車に乗っていた農民に状況を説明してもらったが、町の外では爆発音がして全員が振り返る。

 その後に銃声が鳴り響いている。


「手榴弾でも倒せてないのか」


 町の門を高機動車が後進しながら竜騎兵と退避してくる。


「門を閉じろ!!」


 だが閉じられた門には一向にゴーレムがやってこない。

 門の内側で待ち受けていた自衛隊、グルティア兵、石和黒駒一家、マディノ代官所の兵士達は拍子抜けする。

 高い塔から見張りをしていた隊員が無線機で叫んでいる。


「ゴーレム、進路を変更!!

 街道を外れて東の外壁に向かってます!!」

「なんだと!?」


 ゴーレムは街道から来ると信じすぎていた。


「東の外壁が破られたぞ!!」

「なんでそんなところから、あそこには旧子爵邸がある?」


 エミリオの言葉に全員が顔を青ざめる。


「まだ、調査団が!!」

「村の娘達やうちの女の子達もそこにまだいやしたね」

「そんな、ジーンにまだ詩を贈ってないのに」

「え、うちの娘に?

 娘達はそこにいるんですか?」

「街道は開いたみたいだし、我々は帰っていいかな?

 いや、なんでもない」


 全員から睨み付けられてマッシモは黙る。

 全会一致で迎撃に向かうことなったが、根本的な問題が解決してない。


「どうやって倒すか?」


 デイノニクスの爪や牙、銃弾や手榴弾、破城鎚でも効果は薄かったのだ。

 移動を開始するが打開策は見つからない。


「待てよ、あれがあったな。

 打撃が効かないなら押し返すか?」


 浅井は旧子爵邸と連絡を取った。




 ゴーレムは僅かな抵抗をものともせずに、旧子爵邸の門を破壊せんと破城槌を構えると、邸内の庭先でロシア製戦闘工兵車IMR-3のエンジンが唸りをあげる。


「いいのかなあ?」

「いいんじゃないですか、二等陸尉の許可は出てますし。

 今さら調査団や女の子を退避させる時間もないですから」


 車長である松田曹長と宮本一曹が、各種の装置の点検を行いながら会話をしている。


「よっしゃあ、800馬力の突撃を見せてやる。

 速度最大、ブレードは奴の胴体を狙え!!」


 何度も破城槌を叩きつけられた門が開門されると、IMR-3がゴーレムに対して突撃を敢行した。

 最初の一撃でゴーレムは、ブルトーザブレードに破城鎚を叩き着けるが、そのまま数メートル後方まで弾き跳ばされていた。


「軽う!!」

「こっち40トンはありますしね。

 もう一度行きます!!」


 浅井、勝蔵、エミリオにマッシモ、モンロー村長等がこの戦いを遠巻きに見守っていた。

 弾き跳ばされるゴーレムに巻き込まれると危ないからだ。

 だが何度も弾き飛ばされてもゴーレムはヘコんだ部分を修復して邸内に入って行こうとする。


「穴掘って落とすのはどうでしょう?」


 モンロー村長の提案で全員で町中に穴を掘り始めた。

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