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日本異世界始末記  作者: 能登守
2031年
209/274

ホラディウス侯爵領進攻作戦 

 大陸西部

 ホラディウス侯爵領

 領都 ホラディウス城


 米海軍アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦『ステザム』が放った巡航ミサイル、トマホークを撃墜した爆発した煙を領都上空に残っていた。

 騒然とした領都の民を見下ろし、侯爵に成り代わったホワイト中佐は冷や汗を流す。


「どうにか撃墜できたが、他の被害がでかいな。

 いよいよ本気を出してきたか?」


 大砲密造工場、解放軍訓練キャンプ、領都正門、領邦軍駐屯地、領都を守る三つの砦、侯爵別荘、ホラディウス城と街を繋ぐ架け橋、アンデッドドラゴンの保管施設が煙をあげて炎上している。

 城が守られたのは、元フランス海軍のミストラル級強襲揚陸艦『ディクスミュード』に積載されていたプジョー・P4をベースとする4連装式のASPIC発射機を城に持ち込んだからだ。

 発射されたミストラル2対空ミサイルが、辛うじてトマホークの侵入を防ぎ、迎撃に成功したが、もう一度同じ手を使われたら防げない。

 だいたい今回防げたのは、侯爵領全域に張り巡らせた怨霊達の囁きから音の速さより速く、ホワイトの耳に届けられたからだ。


「あら、いよいよ貴方に死神の手が近付いてきたのかしら?」


 前ホラディウス侯爵の令嬢で、ホワイトが侯爵位を手にする為に無理矢理妻にしたエルナは、愉快そうに笑っている。

 両親や家臣達を目の前で殺された彼女にホワイトに対する愛はない。

 すでに子をなした身だが、いつかはホワイトを討ち取るべく、刃を持ち何度も実行して、失敗する日常だった。

 子供の情操教育的に良くない環境なのは間違いない。


「確かにここは限界かもな。

 支度をしろ、『ディクスミュード』に移るぞ」

「勝手に行けばいい。

 私は城に残るは……」


 形ばかりの仮面夫婦だったが、ホワイトはそれなりに未練はあった。

 だが無理矢理連れていっても邪魔にしかならないのは目に見えていた。


「エイブラハムとユリシーズは連れていくぞ」

「侯爵家の血筋は残さないといけないわね。

 ユリシーズは幼すぎて無理でしょう。

 投降するから残しなさい」

「そうだな……

 世話になった」

「くたばれ外道が!!」


 執務室を退室し、ホワイトは移動する為の車両に向かった。

 エルナに罵られ、拒絶されたことは堪えるが、地球人を一人でも多くこの世界から排除し、駆逐するとう崇高な信仰は揺るがない。

 その為にも自分自身が死ぬわけにはいかなかった。

 いよいよ、最期の時を迎えても、次に繋げる算段は立とうとしていた。

 傍らに控える騎士にも命令を下す。


「領邦軍は遅滞戦術を取らせつつ、解放軍将兵を密かに『ディクスミュード』に集めろ。

 我々にはまだまだ支援してくれる同志がいる」





 侯爵領北側

 旧里谷実験農場


 日本の『サークル』と呼ばれる日本人内政研究会が手掛けたこの実験農場は、一定の成果を挙げつつもホラディウス侯爵領陥落時に技術流出規制の為に自衛隊の手に寄って破壊された。

 しかし、その地に再びMi-24Vハインドが降り立ち、エジンバラ自治男爵領に駐屯する第10先遣隊から派遣された水谷一等陸尉は、感慨深げに廃墟化した施設跡を眺める。


「また、ここに戻ってくるとわな」


 かつて、自らの手で爆破させた実験農場は、近隣の村の郊外に位置している。

 廃墟の残骸を盾にし、村からヘリコプターのローター音を聞き付けて殺到する領邦軍、いや、解放軍に向けて、隊員達がカラシニコフの銃弾の雨を浴びせる。

 皇国軍と違い、この地の解放軍は、スプリングフィールドM1873をホワイト中佐の記憶をもとに再現し、後装式ライフルを実用化させている。

 しかし、АК-74自動小銃との性能差は、絶望的であり、解放軍将兵達も現代的軍隊の訓練は受けていたが、次々と銃弾に身体を、貫かれて地に伏していく。

 だが自衛隊側も無傷とはいけず、防弾チョッキ3型のボディアーマーを着ていたことから致命傷は避けていたが、味方に引き摺られて後送され隊員が、二人、三人と出始めていた。


「思ったより手こずるな。

 フレデリック1、2、やれ!!」


 無線で上空に待機していたMi-24Vハインドのコールサインを呼び出し、対戦車ミサイル9M17P ファラーンガ-Mや57mmS-5ロケット弾用 UB-32A-24が発射される。

 爆炎と共に解放軍は兵士達が吹き飛び、12.7mm4銃身ガトリング機銃で掃射されていく。

 時間的にも地理的にも車両を持ち込めないので、ヘリコプターの機動力に頼るしかないが、まるで、攻守を変えた五年前の再現だ。


「このまま小隊前身、村を制圧する」


 村人達は礼拝所に避難し、戦闘が過ぎ去るのを待っていた。

 解放軍将兵の残党は、村人の家屋からゲリラ的に自衛隊を攻撃し、手榴弾を投げ込まれて沈黙させられていく。

 領邦軍詰め所が


「RPG!!」


 の叫び声と共にRPG-22から発射された対戦車ロケット弾に爆破されると、抵抗する者はいなくなった。

 別に『RPG!!』と叫ぶ必要は無いのだが、何故かRPGシリーズを使用する際はわざわざ叫ぶのは、自衛隊内での悪癖となっていた。


 村人が籠る礼拝所に水谷一尉が入ると、村長と司祭が前に出てくる。


「あの、この攻撃はいったい……」

「日本国総督府はホラディウス侯爵を討伐することに決めた。

 理由を聞きたいか?」

「いえ、なんか怖いからいいです。

 それでこの村に何かをお求めに?」

「いや、我々はこの村の制圧だけが目的だ。

 抵抗するな、大人しくしてろ、日常を阻害するつもりはない」


 意外な申し出に村長達は目を丸くしているが、空爆地域を狭めるのが目的とは語れない。


「隊長、谷中三曹と早坂二士が息を引き取りました」


 先ほど、致命傷を負った者はいないと報告を受けたばかりだが、戦場では何が起こるかわからない。

「そうか……

 さすがに無傷とはいかんなあ」  


 ため息ともに残存戦力に次の村の攻略を命じる。

 この世界側の抵抗勢力の攻撃力は、明らかに強まっている。

 だからこそ、ここで削ぐ必要があった。


「別同の各隊に二人の戦死を報告しろ。

 各隊、気を引き締めろと」


 伝令役の隊員がいなくなると水谷一尉がさらにため息を吐いた。


「戦死者がいないと、どいつもこいつも舐めぷしかしないからな。

 ロクでも無い隊員だが、使い道はこんなところか」


 先日、配属されたばかりの身元を改竄された更正師団出身の『使い道』には背筋が凍る思いだった。


「さすがに略奪犯の家族に手紙書くのやだなあ。

 テンプレでいいか」






 領都上空

 爆装した航空自衛隊の空爆隊第一派は、F-2戦闘機で編成された第9航空団所属の第9飛行隊である。

 12機の編隊は領都上空に差し掛かったところで、目標の変更を告げられた。

 当初は軍事施設や侯爵の私有施設、交通の要所が目標であったが、目視でもわかるくらいに各々の施設が爆発炎上し、黒い煙を天高く舞い上がり、周辺を火の海に変えていた。


『海自からの報告では、米海軍の仕業らしい。

 第9飛行隊は、新たな爆撃対象の選定まで上空で待機されたし』


 早期警戒機であるP-3AEW&C センチネルに搭乗した管制官からの指示に飛行隊隊長の早川三等空佐は絶句する。

 緊急に隊員達とともに召集されて、ケツを蹴飛ばされるように発進させられてこの有り様である。


『確かに搭載された爆弾やミサイルは貴重品であり、無駄に撃てないから待ったが掛かるのは理解が出来るが、土壇場で待機はないだろう』


 傍受される心配が無いのと促成栽培で自衛官を増やした影響で、航空無線のやりとりが平文でやりとりされてるのは、異世界転移前から自衛官をやっていた隊員からは頭痛のする光景だ。


『目標自体が焼失してるんたから仕方ないだろう!!

 いや待て、ホラディウス城は無傷?

 わかった、飛行隊各機に目標の変更を告げる。

 全機、Mk 82を一発ずつ城に叩き込め』


 あまりに場当たり的な命令に早川三佐もやけくそに復唱し、12発のMk 82 通常爆弾がホラディウス城に投下された。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] ホラディウス城におけるやり取りの部分が重複しています。 [一言] 更生師団ってまだ残ってたんですね……てっきり対皇国戦争で使い潰されたのかと。
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