6 暴風王との会談2
「その男との結婚を認めろ、と? そいつは人間ではありませぬか、魔王様」
暴風王が言った。
「しかも、勇者でしょう? いや、『元』勇者ですか。人間とは決裂したとか?」
「決裂はしていない。ただ、同じ勢力ではいられないかもしれない」
俺は暴風王に言った。
「……ふん。信用ならんな。人間はすぐに嘘をつく。信頼を簡単に裏切る」
その言葉にはやけに実感がこもっていた。
こいつ、以前に人間に裏切られた経験でもあるんだろうか。
「私とシオンの結びつきは、人間の国々との関係においても、必ず上向きに作用するはずだ」
ヴィラが言った。
「いつまでも戦争を続けるわけにはいかない。当然のことだが、できるだけ有利な条件で講和に持ち込みたい――彼との結婚はそのための一手さ」
「講和? 人間ごときと、ですか?」
暴風王は哄笑した。
「魔王様ともあろう方が何をぬるいことを仰るのか。人間など滅ぼしてしまえばよろしい」
こいつ――!
「なぜあなたが私に後方待機を命じるのか理解できませんな。この暴風王にお命じくだされば、人間など肉片一つ残さず、世界から消してごらんにいれましょう」
「私は人間の滅亡など望まない」
ヴィラが暴風王をにらんだ。
「そして――人間はお前に全滅させられるほど弱くはない。私は人間の強さを、身をもって味わった」
「恐れながら、それは人間が強いのではなく、あなたが弱いからでは?」
「ぶ、無礼なっ!」
アーニャが叫んだ。
「先ほどから、魔王様への無礼の数々……たとえ寛大な魔王様が許しても、このあたしが許さない!」
「控えろ、雑魚。貴様などワシの眼中にないわ!」
「ざ、雑魚だとぉぉぉっ!」
アーニャが剣を抜こうとする。
「やめろ、アーニャ」
それをヴィラが静かな声で制した。
「今は私が暴風王を話をしている。お前は控えていろ」
「で、でも、ヴィラちゃ――」
「私は『控えていろ』と言ったぞ、アーニャ?」
「っ……!」
ヴィラの言葉に、アーニャは言葉を失った。
「し、失礼いたしました、魔王様……」
配下としての口調で、アーニャは深々と一礼した。
「――ふん」
暴風王が鼻を鳴らす。
「話が脱線したな、本題に戻るぞ」
ヴィラがそんな暴風王をまっすぐに見据えた。
「暴風王、お前は魔界において最高の実力者の一人だ。私の結婚は、お前や他の実力者たちの承諾なくして、勝手に進めるわけにはいかない」
「でしょうな」
「どうか、認めてはくれぬか」
「戦略的な理由での結婚ならば、ワシも人間を見下す感情だけで、それに反対するわけにはいかぬでしょうな」
少しだけ、彼の口調が柔らかくなる。
譲歩の姿勢を見せ始めたのか。
それとも――?
「ですが」
暴風王の目がさらにぎらついた。
「もし結婚したなら、その男も今後の魔王様の対人間戦略にかかわってくる。生半可な者では務まりますまい」
その視線はもうヴィラではなく、俺だけにまっすぐ向けられていた。
嫌な感じだ――。
「ならば、その男を試させてもらいましょう」







