10 勇者と魔王の距離が、縮まる
「俺の能力は他に――あ、『竜牙兵』作成なんかもあるな。まあ、弱いんだけど」
竜牙兵。
その名の通り、竜の牙から生み出される兵士で、分類としては魔導人形に近い。
外見は竜の顔をした骸骨兵士といった感じだ。
「竜牙兵か……なるほど」
俺はピンときた。
なぜバッシュから『成長性』を感じ取れたのか。
強さの形は一つじゃない。
「お前自身よりも、お前の能力――『竜牙兵』を鍛えたらどうかな?」
「えっ?」
「竜牙兵は一体一体は大した戦闘力じゃない。けど、こいつらがある程度の力を備えたら……面白いかもしれない」
「なるほど……」
「竜牙兵を鍛えることはできるんだろう?」
「は、はい……」
俺の問いにうなずくバッシュ。
「ただ、考えたこともなかったです」
「やってみよう。何事も試行錯誤だ」
「はいっ」
バッシュは嬉しそうにうなずいた。
――バッシュは己の牙から三十体ほどの竜牙兵を生み出した。
その竜牙兵たちはそれぞれが剣や槍を構え、素振りをしている。
「はい、一、二! 一、二!」
バッシュはすっかりトレーニングコーチになっていた。
……冷静に考えると、竜牙兵に素振りって意味があるのか?
いや、フォームを固めたり矯正したり……って考えると、アリか。
まあ、筋肉がないから筋トレ的な効果はないけどな。
「うん、いい感じじゃないか」
あらためて見ると、竜牙兵の動きは案外統率が取れている。
バッシュがきっちり指揮をして、連携して動くことができれば、強力な戦力になりそうだ。
「ありがとうございます、シオンさん。俺じゃ、こんなの思いつけませんでした」
「お役に立ったなら何よりだ」
にっこりとうなずく俺。
「シオンさん、すごいです! 尊敬します!」
「おおげさだよ」
「いえっ、かっこいいですっ!」
バッシュの目がキラキラしていた。
慕われてしまったのかもしれない。
ヴィラも同じくにっこり笑顔で、
「私からも礼を言っておこう。感謝するぞ、シオン」
「どういたしまして」
俺はなんだか照れてしまった。
その後、俺たちは帰路についた。
「助かったよ、シオン」
「ちょっと手伝っただけさ」
「いや、魔王竜の中には気性が荒い者もいる。一緒に来てくれただけで心強かったよ」
言って、ヴィラは悪戯っぽく笑う。
「まあ、今回は気弱なタイプだったけどな」
「はは、ヴィラ一人でも十分だったかな」
「いや、感謝しているさ」
にっこり笑ったヴィラが、ふいにぽつりとつぶやいた。
「いっそ……このまま、ずっといてくれたらいいのに」
「えっ」
「きゃーきゃー! 今のなし! なしだからっ、ああ、恥ずかしいよう……」
真っ赤になってうつむくヴィラが可愛らしかった。
「むむ、ニヤニヤしてる」
「えっ、いや、ヴィラが可愛いから……」
ジト目で見てくるヴィラに、俺は思わず本音をもらした。
「えっ? えっ?」
たちまちヴィラが慌てふためく。
「ご、ごめん」
「い、いや、謝らなくても……ただ、そんなこと言われると……照れる」
ヴィラはもじもじしていた。
「えへへ、でも……嬉しいな」
「そうか」
俺はにっこりとした笑顔を返す。
「シオンと一緒にいると楽しくて、嬉しくて、気持ちが癒されて、心が温かくなるの」
「俺も……そうかもしれない」
相手は魔王なのに。
憎むべき敵だと思っていたのに。
今は、ヴィラのことが――。







