19 真実の力
あっという間に最後の晩餐会の日になった。
参加者は殿下と私たち『リリィクイン』だけ。とっておきのドレスに、イリア様からお借りしたアクセサリーで着飾った私は、鏡の前であまり浮かない顔をしていた。
あの2人きりのお茶会の後、昨日は全員での久しぶりのお茶会だった。その時の殿下は以前のような鉄面皮で、感情はうかがえなかったし、メイベル様は……というか、他のご令嬢は相変わらずだった。
私と言えば、メイベル様の会話に相槌を打ちながらも少しずつ会話に加わるようにした。人の話に口を出すような真似はしないが、そこはメイベル様も私だけを除け者にするような真似はしない。
あくまで私がちゃんと向き合っていれば、こうして会話に加わることだってできる。きっと彼女もそれを望んでいたのだろうし、私がしゃべった事に驚きながらも、少し嬉しそうに見えた。
イリア様の預けてくださったのは、真っ赤な貴石の嵌った金を台座にした宝飾品だ。大ぶりな石は確かに国内ではあまり見ないが、この石は、光を中で乱反射して炎が燃えているように見える。
宝飾品をお借りしてから箱を開いていなかったが、ドレスとも調和が取れている。そして、中に一枚の紙があった。
『この石はガーネット。真実と友愛を象徴する貴石です。どうか、ソニア様がご自分の真実の気持ちに気付かれますように』
驚いた。イリア様は確かにいっぱいいっぱいになってはいたけれど、これほど聡明で見抜かれていたとは露程も思っていなかった。
それとも私は意外と分かりやすいのだろうか? 何にしても、今日はどんな結果であっても、殿下の答えを受け容れようと思う。
「イリア様……」
沈んでいた私の表情は、鏡の中で胸元を彩る赤い石を見て自然と微笑みを作っていた。
もうどんな答えであろうと受け容れよう。国母として相応しいのは、やはりどう考えてもメイベル様だ。私は、どちらかと言えばメイベル様の話し相手くらいがちょうどいい気がする。
(いえ、違うわ)
自分のことを小さく思うのはやめよう。私が殿下を好きなことを、素直に認めよう。また何か理由をつけて自分に嘘を吐きそうになったら、イリア様から借りたこの炎が揺らめくような石を見て前を向こう。
結局選ばれる側なのには変わり無いけれど、私の気持ちは定まった。真実、私は自分の気持ちと向き合い、自分の気持ちを認めた。
私はランドルフ殿下が好きだ。あの方の伴侶として、生涯を共にし、支えていきたい。一緒に、国を治めたい。
選ばれる側の私にできることは、その気持ちを強く持って、これまでの人生で一番の笑顔で今日の晩餐会に参加することだけだ。
「アリサ、行きましょう」
「はい、ソニアお嬢様」
背筋を伸ばして微笑んだ私は、アリサを伴い、ケイたちに見送られて晩餐会の会場に向かった。




