外伝:昔話と言えなくもない
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
「おじいちゃん! お誕生日おめでとう!」
おじいさんは、大勢の孫に囲まれています。
「ねえねえ! おじいちゃん!」
おじいさんに、孫の一人が話しかけます。
「また、あれ! あの話してよ!」
その男の子以外の孫も、おじいさんに期待の目を向けます。
「本当に、お前達はあの話が好きじゃな」
「うん!」
一度目を瞑ったおじいさんは、可愛い孫達の期待に応え、昔の話をします。
「むか~しむかし、あるところに……」
****
ある日、おばあさんとおじいさんが川に洗濯にいくと、川上から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
おじいさんとおばあさんは、その桃を拾い上げると、持って帰る事にしました。
家に帰った二人は、その桃を割ってみることにしました。
ボタンを押すと、その桃はカチッ、パシュッと音を立てて割れました。
すると中から、元気な男が生まれてきました。
おじいさんとおばあさんは、言いました。
「桃から生まれたから、桃太郎という名前にしよう」
「う~ん……。あれ? ここは?」
「目が覚めたかい? 桃太郎?」
「も……桃? あの……ご婦人? 何を?」
「桃から生まれたお前は、今日から桃太郎じゃ」
「え? あの……確かにこれは、ピンク色をしていますが、桃ではなく脱出ポッドで……」
「桃太郎? お腹はすいておるかい?」
「え……いや……まあ……」
「おばあさんや、飯の支度をしよう」
「そうですね、おじいさん」
「え~っと……」
二人は、桃太郎を大切に育てました。
「……私はもう、成人しているのですが?」
「おじいさん……」
「ああ、太郎が帰ってきたんじゃ」
「あの……」
おじいさんとおばあさんは、若い男性の遺影に手を合わせます。
「生き返ってくれたんだねぇ。太郎や……」
桃太郎は、それ以上何も言えませんでした。
遺影に向かい涙を流す老夫婦を見て、何を言えばいいか分からなかったからです。
桃太郎は、みるみる大きくはなりませんが、怪我を老夫婦のもとで癒しました。
ある日桃太郎に、一匹の犬が近づいてきました。
犬は擬態を解除して、元の姿に戻ります。
「王子! 遅くなり、申し訳ありません!」
「無事だったのか……。よかった」
「アンナ様と、数名は脱出に成功したのですが……」
「どうした?」
「奴らに見つかってしまい、アンナ様が捕らわれてしまいました」
「そんな……」
「他の仲間達が殺される中……私は……逃げ延びる事しか……」
「いや……よく生きていてくれた」
桃太郎は、おじいさんとおばあさんに言いました。
「おじいさん、おばあさん、私はこれから敵(鬼)と戦いに行かねばなりません。生きて帰ってこれる保証はありませんが……」
桃太郎と犬は、老夫婦に頭を下げました。
「私も王族です。戦う義務があるのです! 勝手な事を言う私を、お許しください。そして……今まで、本当にありがとうございました。このご恩は、一生忘れません」
土下座で涙を流す桃太郎に、おじいさんとおばあさんは、きびだんごを作ってやりました。
老夫婦は、強い決意を宿した桃太郎の瞳に、何も言えなかったのです。
桃太郎が、敵のいると思われる鬼が島に向かっていると、一匹のキジに出会いました。
キジは、スイッチを押すと擬態を解除します。
「王子! いえ……もう、王とお呼びするべきですね……」
「おお! お前も無事だったか!」
「恥ずかしながら、生き残りました」
「何を恥じる? 本当によかった」
「勿体無いお言葉です。王よ……。そのお姿は、もしや……」
「ああ……。アンナだけでも、救ってやらねば、死んでも死にきれないからな」
「私も! 私もぜひお供に!」
キジをお供に加え、桃太郎はさらに旅路を進みました。
また、しばらく進むと、今度は行き倒れに出会いました。
「腹減った……。死ぬ……。死んでしまう」
桃太郎は、きびだんごを一つ差し出しました。
「よければ、これをどうぞ」
「マジで? おお! サンキュー!」
「あの……大怪我をしていますが……。大丈夫ですか?」
「え? ああ……すぐ治る。てか、カロリーバンザイ」
日が暮れたので、桃太郎達はその森で、野宿をすることにしたのです。
「え!? あの……」
「最初から、自分でそれを捕ればよかったんじゃないのか?」
「カロリー不足で動けなったの! 文句言うなら、食わさないぞ!」
行き倒れは、森で殴り倒した猪をさばいて、食事を用意します。
「へ~……王子なのか……」
「もう、滅んだ国の話だけどね」
「で? その馬鹿達から逃げるために、世界を飛び越えて逃げたと?」
「ああ。でも、脱出艇にも奴らが潜んでいて、結局沈められたんだ」
「お前それ……勝てないんじゃね? その姫さんが、そんなに大事なのか?」
「ああ……。私の妃になるはずの女性だ。命よりも大事なんだ」
「ふ~ん。でも、船も壊されて、元の世界には戻れないんだろ?」
「戻れないわけじゃないけど、戻るつもりもないよ。奴らの支配する世界なんて……」
「どうやって戻るんだ?」
「私の乗ってきたポッドで、戻ることはできるんだ。でも……」
行き倒れは、肉を食べ始めると、体中から煙が噴き出してきます。
「お前……」
行き倒れの怪我は、見る間に回復していきます。
「王子さんよ~。取引しね~か? 勿論、成功報酬で構わない」
こうして、犬とキジと行き倒れをお供につけた桃太郎は、鬼が島へ船で渡ります。
桃太郎達が鬼が島へつくと、鬼達が襲ってきました。
「お前が言ってたのは、あいつらか?」
「そうだ! 突然変異の化け物だ。知恵もある。来るぞ!」
「コアがある……。がっつりモンスターじゃん」
キジは鬼の頭を突っつき、犬は足に噛みつき、桃太郎は刀を振るおうとしました。
しかし……。
「アックスボンバァァァァァァ!」
行き倒れのラリアットが直撃した鬼が、重力を無視して吹き飛びます。
「リバァァァァ! ブロォォォォォォ!」
行き倒れの拳は、鬼を肉片に変えました。
「コーナーポストは無いけど雪崩式……ブレーンバスター!」
行き倒れの活や……虐殺により、鬼達は全滅しました。
「ふはははっ!」
十分ほどで……。
桃太郎達は、それを呆然と眺めていました。
そして、桃太郎は食料として捕まっていたアンナ姫と、部下達を助けたのです。
こうして桃太郎は、皆とおじいさんとおばあさんの待つ家に帰りました。
その後、皆で幸せに暮らしましたとさ。
****
「めでたし、めでたし……」
孫がおじいさんに質問をします。
「その行き倒れ? は、どうなったの?」
「約束の脱出ポッドを担いで、何処ともなく居なくなってしまったんだよ」
別の孫が、さらに質問をします。
「なんで、お姫様とおばあちゃんの名前が一緒なの?」
「ほっほっほっ、それは……」
髭を生やした桃太郎は、笑顔で孫達の質問に答えていきます。
これは、遠い異世界の……。
ごく一部の人しか知らない……。
運がなく、不器用な行き倒れのお話。
どんとはらい……。




