エピローグ①
悪意……。
そう呼ばれ、レイ達が戦い続けた敵は一掃されました。
ただ、世界から完全に消えたわけではありません。
世界自体……。
人間という存在自体が消えなければ、彼らはやがて姿を現してしまいます。
もう、彼はいませんが破壊神や双子神が戦うでしょう。
あらゆる世界の神や天使達も……。
弱体化したそれらは、容易に排除できます。
たとえ、討ちもらし強大になったとしても、さらに強くなった破壊神が戦えば済むことです。
何より、対処方法は確立されています。
今回の事態は、神々が対処の準備をする間に敵が強くなり過ぎた事。
仕方のない事でした。
敵の存在に気が付いた時には、何億年分もの悪意が誕生した後だったのですから……。
その負債を、彼はすべてリセットしてくれたのです。
破壊神達がいる限り、悪意は永遠に駆逐されるでしょう。
終わったわけではありませんが、平和は約束されたと言えるでしょう。
では……。
質問です。
悪意と呼ばれたそれは……。
そんなに簡単な敵でしたか?
何故、死神達は絶望に飲みこまれたのですか?
そんな、ただ魔力が強いだけの敵に……。
レイや真幸は苦戦したのですか?
そうです。
彼らは狡猾で、残忍……。
常に、レイの裏をかき続けた敵でした。
最後だから油断した?
まさか……。
ありえないことですよ。
これ以外の方法ですか?
レイが選んだ方法こそ、唯一で最高の方法です。
だからこそ、彼はそれを選んだのですから。
思い出してください。
世界の未来は……何色でした?
レイが消え去って、一週間。
潜んでいたそれは、変化を起こし始めました。
誰にも気づかれません。
それが特性だから。
****
「調整完了ですか? お疲れ様です」
世界と分離し、部屋を出てきた梓に真幸が声をかける。
「うむ。今日からは、微調整で済むじゃろう」
おや?
最高神の梓でも気が付かないのでしょうか?
「どうかされましたか?」
どうやら、気が付いたようですね。
眉間にしわを寄せ、腹部を抑える梓はどうするでしょうか?
「い……いや。なんでもない」
「そうですか……。そう言えば、オリビアから伝言があります」
「なんじゃ?」
「今度あの世界上げての祭りがあるそうで、ルー様もぜひ来てほしいと」
「わかった。ぜひ伺うと伝えてくれ」
「わかりました」
気のせい……。
では、ないことに気が付いていますね。
それでも、梓にはその選択しかできませんか。
仕方がない事ですね。
その選択は、仕方がない事。
彼女の過去を考えると、責めることも出来ません。
ですが……。
それは終末の始まり。
敵が用意していた、残酷な計画。
その日……。
梓以外の誰にも気付かれず、悪魔が発芽する。
全ての世界で同時に……。
****
その日から、十月十日……。
何もしていない女性からも……。
世界中で同時に、大勢の赤子が産み落とされました。
中絶された個体もかなりいますが……。
それでも十分な個体が誕生したのです。
その赤子達は、急速な成長をみせます。
三か月。
その期間で、成人と変わらない姿になりました。
その姿を、知っている者も多いでしょう。
灰色の頭髪と、端正な顔立ち。
そう、信じられない人数の彼が誕生したのです。
正確には彼のクローンが。
大きく違う事……。
宿っている魂は、悪意であり……。
使うスキルは、吸収ではなく浸食。
そして、心も……。
梓は、それを殺すことが出来ませんでした。
頭では分かっているのに……。
本当の彼ではないと……。
でも、ダメでした。
もう二度と、彼を殺す事が出来なかったのです。
双子神も……。
それ以外の彼を知ってる女性の神も同様です。
彼を知る女性……。
この人達に対して……。
とても見ていられません。
相手の名を呼び……。
心臓とコアに刃を突き立てる。
そして、命をすべて食らう……。
悪意は、もっとも性能の高い体を手に入れました。
それと同時に、もっとも障害となる梓の攻略も同時に行ったのです。
「母さん……」
「なんじゃ?」
「欲しいものがあるんだ」
「……」
「梓……。お前の命を、俺にくれよ」
彼の凶刃は梓を殺して、食らってしまいました。
最強の個体が誕生しました。
梓は、それに抗いませんでした……。
いえ、違うようですね。
梓は、彼を殺した自分自身を憎んでいた。
殺したいほどに……。
彼に自分が殺される……。
彼女が最も望んだことかもしれませんね。
抗うはずがありませんよね。
おっと……。
問いかけの答えを言っていませんでしたね。
答えは、真っ黒です。
世界が、終わりを迎えていきます。
完全でないとはいえ、それは最強の軍団なのだから……。
いくら最強の破壊神でも、最高神と双子神の力を持った自分を超えた弟子には勝てません。
その四人が倒された後は?
彼はもういません。
そう、レイはもういないのです。
答えは、彼が消したはずの真っ黒な未来。
何もなくなったそこでは、彼ら同士が殺し合う地獄。
何故そんな事を?
悪意は欲望の塊です。
仲間の命すら食らう対象なのです。
****
レイが消えて、約一年半……。
世界は滅びました。
これが全ての終わりです。
END2:彼は世界を救い、そして殺した




