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異世界生活の日常  作者: テンコ
第6章 彼女の日常
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6-05

この話を読んで下さっている方がいたら申し訳ございません、ちょくちょくと進めております。感想も読ませて頂いております。

少ししたらまとめて返答させて頂きますが、遅れてしまっている事を深くお詫び申し上げます。

つまりは、仕事が……仕事が……!!

 私は今、2~3日に1回の割合で王城に来てお仕事をしている。

 けれどどこからだろう、視線を感じるのだ。下卑た感じでは無く、こう何て言うのかな。まるでメルカちゃんに見られている時のような感じ。


「はっはっは、どうかなシズナちゃん。励んでいるかな」

「こんにちはユスティさん」


 それと時を同じくして、最初に案内してくれた女性騎士団長様がちょくちょく私の下へ訪れるようになった。

 最初は自意識過剰なだけかと思ったのだけれど、こう何日も、それも何度も続くと否定する訳にはいかなかった。


 騎士団長様は特に魔術師団と仲違いしてる様子も無く、邪険にされる事もなく術師兵舎に馴染んでいる様子である。

 ぶっちゃけ暇なのだろうか?


「時にシズナちゃん。今日は何を?」

「ええと。はい、私が出会った賊の動きについてお教えしようかと」

「ほぅ」


 この仕事は意外にも魔術を行使するだけでは無かった。

 私が過去出会った賊等の動きを身振り手振りで説明して、出来るところは実際に動いて見せる。

 その賊を魔術師団ならどう対応するか、それを話し合うのが今日の内容だ。


 つまりはお城から出たことのないインドアな術師に、実際在野の魔術師がどう対応したのか説明するって訳である。


 イヴァラさんがこの仕事を勧めた訳が分かった。

 こう見えて私はギルドの嘱託員として、意外にも色々な場所を巡っている。ともすれば人が進めない所であったりも、だ。

 そして見た目か弱い女の一人旅には、それ相応の危険が付き物なのである。


 召喚獣の皆に頼ってばかりで、私だけの力では無いけれど。でも1人旅の最中は何とか対処出来ていた。

 その経験を掻い摘んで説明するのである。


 まぁ先日も同じ様な講義をやったし、今日は森中での事について話そうかと思っていたのだ。


「オレも聞いていていいかな?」

「え、ええ。私からはどうにも……」

「ああそうか。ちょっと許可でも貰ってくるさ。そこらへん煩いからね、此処も」


 言うが早いか颯爽と去って行かれたユスティさん。燃えるような赤い髪が流れる様は、とても綺麗だ。


 さて、今日も1日頑張ろう。





「姫様、ただいま戻りました」


 流石に待ち遠しかったわね、頑張ってくれているのは分かっているのだけれど。やっぱりワタクシが直接お話しさせて頂いた方が良いかしら……。

 とりあえずは報告を聞きましょう。


「お待ちしておりましたユスティアラ。顔をお上げなさい」

「はっ」


 あいも変わらず、ワタクシの前では猫を2重にも3重にも被るのがお上手な事。本当に不思議ですわよね、何時ものふざけた態度が擬態ですって。その方が敵が油断してくれるのです、と。

 "敵"なんてもう居ないというのに、過保護だ事。


 ……"ワタシ"が王の血を引く娘だと分かったのは、母が死んでからだ。


 血の繋がりの無い兄と一緒に、明日の食べ物にも困る日々の中、王陛下からの遣いが来た時は夢かと思った。

 けれどそれからの事は、知識と教養を叩き込まれる中、大きな大きな書庫にある物語の本で知る事になる。


 ――報われない、出生も知らない姫は、それからは幸せに暮らしましたとさ。


 つまりは良くある話である。


 市井の娘に生ませた子供を、政略の道具にする。

 有り触れて、何処にでもある事実だ。


 それまで学が無かったから分からなかったけれど、少しは考える事が出来る様になるにつれ理解した。

 その時が、ワタシが"ワタクシ"になった瞬間でもありました。


 何が言いたいか申しますと、これまで必死になってこの国の為にと言われて努力をしてきたのです。ちょっとくらい、好きにさせて貰いますわ。


 ……あの妖狐の女性が欲しいのです。

 始めて見た時は、心が躍りましたわ。

 ――だって、あんなに"ふさふさ"しているのですもの。


 ワタクシが動物であったり、人間以外へ異常な程の興味を覚えるようになったのは、はたして何時だったでしょうか。


 覚えていますのは拝見の間で退屈な御用達商人の話しを聞いていた時です。

 その商人はでっぷりと肥えた身体をゆすり、後ろから大きな檻を運ばせてきました。

 この国の王、つまりはワタクシの父親にあたるその人は、さして興味もなさそうに座っておりました。


 けれど幼き頃のワタクシは何を思ったか、その檻の中のイキモノに興味を持ってしまったのです。


 ――陛下、こちらは西の果てに住むと言われる美しい銀の艶色をした狼でございます。


 商人の言葉は、すんなりとワタクシの中に染み込んできました。思わず口を開けて、手を伸ばしてしまいそうになっておいました。


 けれど……。


 結論から言います。

 ワタクシはその美しい狼に触れる事も出来ず、そしてその狼は誇りという意地を見せ、そのまま餓死してしまいました。

 ヒトから手渡される食物を一切受け付けなかったそうです。


 そしてワタクシが触れる事叶わなかったのは、"危険"だから。


 たったその一点、けれどとても大きな(理由)でした。


 確かに、"ワタクシ"の重要性は、ワタシと違って高いと思います。この身に及ぶ危険は少ない方がより良いのでしょう。利用価値が国単位でありますからね。けれど、正直父親には何の義理も無く、かといって自らの境遇を悲観している訳ではございません。


 ワタクシの場合はただ単に、王陛下とその側近がワタシを見つけた事。数いる妾の子の一人が運悪く流行病で亡くなった事。それを公表しなかった事。最後に、その妾の子の容姿とワタシの容姿が近かった事。

 偶然が重なって、あの生きる為に必死だった日々から"ワタクシ"としての人生に代わっただけの事です。庶子は通常、公に見つからない限り表沙汰にしないのですから。

 良くて跡目争いを避ける為に修道院や僻地の爵位持ちの家に送られるだけでしょう。


 そうまでして引っ張り上げたワタクシは、10歳になる前に婚約も済ませております。兄2人は次期国王としての執務を引き継ぐために勉強されておりますし、姉2人は国外に嫁ぐと決まっておりますから。

 ワタクシと妹は国内の平定の駒なのでしょう。


 別段、婚約が嫌という訳ではありません。相手方もお優しい人ですし、流される人生ですけれどそれでも、もう思い出すのも努力の必要なあの幼少時代のように、明日をも知れぬ日々を送るのは遠慮したいですし。

 なればこそ、今の暮らしはそれなりに気に入っております。


 ですが……そう、何時の頃からか自覚したこの性癖。柔らかい動物に触れたいという欲求を満たすのが、これほどまでに出来ない現実に打ちのめされていたのです。

 危険という、ただその一点で。





 彼女を見つけたのは、日課の読書をするために側付きへ書庫へ向かうように言いつけた後でした。

 ふと気まぐれに自室にある遠見の魔境を見遣った時です。あ、その鏡は王族にとって危険な物や興味のある者を、王城内から拾い上げるという魔具です。もちろん対策が取られている部屋内を覗く事はできませんが、侵入者などをいち早く見つける事の出来る便利な道具です。


 その鏡に、ワタクシも見るのが初めての美しい毛並を持つ妖狐が映り込んでおりました。


「……こ、れは」


 思わず、声に出していたようです。

 その方は何と、ワタクシ付きの騎士ユスティアラに城内を案内されている所でした。


 王都には近隣の国含めても比較的多くの種族が暮らしております。その大まかな把握や交渉も、一部ではありますが王族の勤めに入っております。しかし、妖狐というのはワタクシも話しに聞くだけの珍しい種であり、そしてこれほどまでに心が魅かれる魅力的な毛並が鏡越しにも分かる程でした。


「――ユスティアラ。ワタクシです」


 兵舎に入って行った妖狐。その案内をすでに終えている自らの騎士に連絡を取ります。


「今の勤めが終わり次第、こちらへ」


 呼び出す事は滅多にないので、急な呼びつけに少し驚いたような声音で返答をするユスティアラ。

 ああ、楽しみです。


 書庫に向かわせた側付きの事も忘れ、ワタクシはユスティアラから話しを聞く時間を待ち焦がれていました。





「――なのでシズナ嬢は、もう暫く依頼を続けられるようです」

「ご苦労、何時もありがとうございます。下がって」

「はっ」


 彼女の様子を見て貰っていたユスティアラに彼女の様子を聞いて、部屋から出しました。

 ちょっと対応が酷いかもしれませんが、剣を捧げてくれているとはいえ、そして同じ性別とはいえ騎士を同じ部屋に長時間拘束するのは要らぬ誤解を与えますからね。

 ユスティアラには悪いですけれど、その分報いる事で許して貰うとします。


 さて何故素直に魔具で盗み見――いえ、遠くから見守らないかと言いますと、何回か盗み――いえ観察していた所感づかれそうになった為です。勘の良いというか、魔術の感知能力が高いと言うか。


 あまり警戒をさせてしまうのもアレですから、さり気なく接触する糸口を探ることにしました。


 ……獣人の方って拘束されるのを嫌うのか、堅苦しい王宮生活には背を向けますので城内でワタクシがもふもふとする機会が中々巡ってきません。


 ……今度は、逃がしませんわ。





 ――と、こんな感じの事が書いてある日記を見つけた私シズナは、現在途方に暮れている最中である。


 何せ最近の妙な視線を探って、それに魔術が感知してあると分かったから念のために物理、魔術両方で探りを入れていたのだ。

 物理的には、最近特に影が薄くなっているいや態々薄くしている節もある烏丸に、相手の場所の探索を。

 その場所を見つけるのに、魔術で場所の特定を。いや、この場合魔法と言うべきだろう。


 ゲームの時に使えていた魔法スキル、ほぼ使い道の無かったサーチという下位魔法を使ったのだ。

 これ自体の設定は、ゲーム中モンスターの情報を読み取って画面に表示したりする程度の、しかも中位や上位魔法スキルの所得前提になっている使い道の無い魔法だ。


 しかしこれが現実になると便利である事が分かった。

 なにせ、こちらが指定した事象を周囲から読み取ることが出来るまでに、魔法スキルの解釈が広がったから。


 今回の場合は、私が今現在指定できる半径約20kmで、視力強化の魔術や遠見の魔具の魔術波形を感じ取り、それを召喚獣の烏丸に情報として送るという簡単な対策を取っただけなのだが……。


 その原因の部屋の中、主のいなくなった部屋で烏丸の瞳を通して見ている日記に"私を狙う"という事が綴ってあった。

 プチストーカー……!


 元男として、まさか自身が対象になるとは思わなんだ。


「今日も美味しそうですね~」

「ええ、味も完璧です」


 お昼休憩に入り、若干騒がしくなった魔術兵舎内で女性魔術師さんが話しかけてきた。

 しかし挨拶もそこそこにアリエルさん作のお弁当を頬張りながら対策を考える。

 って言っても、打てる手は一つしか無いんだけれどね。





 ――よし、逃げよう。面倒なイベントはごめんでござる。

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