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異世界生活の日常  作者: テンコ
第5章 彼女の帰郷
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5-03

 半年近い旅の疲れを街で癒し、新調した靴の均しや装備の点検。後は携帯食ほ補充などを終えていく。


 仕事なので先を急ぐ旅だ。けれども具体的な期日は決まっておらず、指定された期日の±2ヶ月程が目安になっている。

 現代社会で納期に追われていた生活からすると天国の様に感じるが、その分命を削っての仕事。


 もちろん現代社会もある意味命を削っているとは言える。まぁそこは感覚だろう。

 私も年2回の大規模イベントへの納品、アニメ放映に合わせた商品展開、ブームが終わる前に立体物の商品化等々。

 睡眠時間とリアルの体調を犠牲にしてこなして来たのだから。こっちでの依頼の方が天国に感じてしまう訳だ。縛り方が大雑把だし。


 獣化での移動速度がかなり早く、当初の予定より倍以上の距離を進んでいる。

 その為この街で休養を取る事にした。





 休養、と一口に言っても種類はあまり無い。

 見世物か、独自に発展した遊びか、それとも単純に花売りなどを買って愉しむか、になる。


 多岐に渡る種類は無いけれど、その分見世物などは奥が深くて見応えがある場合もある。

 何と言っても獣人亜人、それに魔物のいる世界。さらにテイマーという専門職もいる。単純な話だが迫力が違うのだ。


 見世物。

 例えば猫科だろう獣人。その彼らは現代のサーカスで言うトランポリンを使ったショーの様な事が出来る。素の身体で、だが。

 鍛えているのだろうし、訓練も欠かしていないのか、その躍動する身体は美しくさえあった。もちろん、外見的な美しさもある。チーターや黒豹をイメージする美しい


 毛並、それが所狭しと舞台と動き回るのだ。


 そんな人種が普通にいる世界。見慣れているから需要は無いのか?とも思ったけれどそれは間違いだった。


 そもそも娯楽自体が少ないのでそんな事を初めから考えていないのだ。

 知らない事は知らないし、分からない物は理解出来ない。当然の考えだろう。具体的に言えば同じショーを1ヶ月連続で見ても飽きない、それくらい感覚が違う。


 テイマーが魔物を使役する場合も、見応え抜群だったのを覚えている。

 人を襲って食い殺す魔物を飼い慣らすテイマー。動物の曲芸とはまた違った味わいで堪能出来た。


 次は独自の遊び。

 これは……オセロとか将棋とかトランプとか、その辺の類の遊びは存在した。もちろん似ているだけ。

 私などが知識があるからと言って持ち込まなくとも、遊びの文化は過去から連綿と続く物らしい。魔術もあるので作る事自体は出来るのだ。


 細かいルールは違ったりしたが面白かった……トランプの数字部分が無くて絵柄のみだったり。分かり易い物が流行るのだろうか。


 確かに識字率と言うのは何処へ行っても付きまとう。遊びながら学ぶ、と言うのは下地がある者の発想。絵柄で覚えられるならその方が早いから。


 最後は……花売りやその類いの館。

 当然だ。

 一番手頃で身近な文化だしね。私も半年近く1人なので途中そんな事を考えたりもした。けれどもそんな場所に行ったり、ましてや買ったりは出来なかった。


 これには推測していた事がある。

 ケモノの本能的な部分での抑圧、だ。


 あれだけアリエルさんと色々し、さらにはリーン姉さまを……襲った?いや姉さまとも色々した。けれど他の人とはそんな気分に一切ならない。


 見境の無いケモノ、では無くて本能はあるけれど理性を伴った衝動。それが獣人なのだろう。

 つまり惚れた相手や親しい相手、そんな人達にしか気分が出ないのだ。


 ……長々と説明したが、つまりは浮気はそうそうしない、と言う事である。





 結局その街では何のイベントも起きず、1週間程ゆっくりと羽を伸ばす事が出来た。


 あの商人に騙されて売られて以降、周囲に気を付ける様にはしているので変な事態にはならない。精々女と見て声を掛けてくる男か、首に下げているカードを見た同業者からの視線くらいだろう。


 前者は比較的丁寧に対応し、後者はすぱっと無視する。

 パーティーに誘いたいのでは無くて、見ない顔だから観察しているという類いだから。不躾な視線は答えないのに限る。


 ……けれど1回だけ返答してしまった事があった。あれは――





「そこの魔術師さん、お暇ですか?」


 休みの5日目、後ろからそんな声を掛けられてしまう。

 何時も通り無視を決め込もうとしたのだが、その声が気になってしまう。


 何時も声を掛けてくるの男しか居なかった為である。いくら男女間での区別も差別もあまり無いとは言え、荒事は基本男性向けなのはどこへ行っても同じ。

 しかしその時の声が、透き通るような女性の声だったから思わず振り向いてしまった。


「君は、妖狐のお嬢さんね。どう?ご一緒にお食事でも。この先に美味しい肉を出すお店があるのよ」


 どう考えてもナンパな台詞で、違和感があるほど美しい女性が笑顔で立っている。


 身長は私と同じくらいか。髪は私と同じ黒髪で、青白い肌と相まって退廃的な美しさを滲ませている。その黒髪も肩口で綺麗に切り揃えられ、その年齢を幼く見せていた。

 目じりは垂れ下がった、まるでお姉さんの様な風貌。ゆったりとしたワンピース風の服装と合っていて、一見荒事とは無縁な感じ。


 特徴的な部分も特になく、ヒューマンかと当たりをつける。


 しかし何故か違和感を感じる。何と言うか、胡散臭いというか、鼻がむずむずすると言うか。

 危険を感じる程では無いが、それでも用心しないとと思ってしまう様な。


『烏丸、ちょっと気を付けていて』


 今日も変わらず忍んでいる彼にお願いをして、彼女に返答を返す。


「何か御用でしょうか」

「特に用件は無いわよ」

「そうですか。見ての通り私はギルドの魔術師です。その身分に対して声をお掛けに?」

「違うわ。貴女に、興味があるの」

「……」


 怪しい、ついでに妖しすぎる。

 何となく目の前の彼女から不思議な違和感を感じたまま、その眼を見つめ返さない様気を付ける。何となく嫌な感じなのだ。


 怖い、では無いな。


「最初に言った通り、貴女とお食事でもと思ってね」

「なるほど。有難いお誘いですが申し訳ございません。少し先を急いでまして」

「この4日間休んでいたのに?」

「……」


 その言葉を聞いた瞬間、いつでも動きだせるように身構え。そして何時でも召喚が出来る様に意識を集中していた。


「あらごめんなさい。嫌だわ私の悪い癖なの。可愛い子の驚く顔が見たいのは」

「……改めて聞きます。何の用ですか」

「嫌われちゃったわね。また同じこと言うけれど、特に無いわ」

「……」

「あらら、これは大人しく下がった方が良いかしらね。じゃあまたね、親無し(はぐれ)の妖狐ちゃん」


 私が警戒を露わに無言を貫くと、彼女は気にした風もなく背を見せて去って行った。

 いきなり掻き消える様に去る、とかでは無く普通に歩いて。


「……何だったんですか」


 いきなりな遭遇に独り言を呟いて、彼女が去って行くのを見送った。追いかけるとかせず、けれども目を背ける事もせず。

 彼女のまたねと言った部分が気にはなったが、彼女が言ったからには彼女から接触があるのだろう。その後はそのまま街を見物しながら宿に戻った。





 ――あれはフラグだったのかと今更ながら考えてしまうが、答えは出るはずもなく。

 いきなりあんな場面に遭遇したら対処とか思いつく以前の問題だ。混乱して動けない。


 嫌な思い出を振り切りつつ、出発の準備を終えた為に街を出る事にする。


 無事に妖狐族の所まで着きますように。


 そう、考えながら。





「今日、あの娘が出るのでしたね」

「その様です、お母様」

「ふふ、そんなに緊張せず。初めての外とは言え、必要以上に縮こまる事無いのですよ」

「は、はい」


 1週間近く街をぷらぷらしていた妖狐が外に出る。そんな場面を見送るように、けれど相手に見えない様にその母娘は親無し(はぐれ)の妖狐を見つめていた。


「けれどお母様。良いのですか」

「何がです?」

「あ、頭を撫でないでくださいッ!モエはもう大人です!」

「あらあら、ごめんなさいね」

「もうッ……あのはぐれです。あのまま行かせて良いのですか?何処の者とも知れません」

「大丈夫、とは言えないわ。何も分からないから調べるのよ?」

「はぁ……」


 その親子は仲良く寄り添いながら、けれど姉妹にしか見えない容姿をしていた。朝早い時間で周りは家中にいるのだろう、人通りが多くない門前で2人は話し込んでいる。


「話してみた感じだと、特に人格的な問題は無いと思うわ」

「それでもッ!それでも何処の者とも……」

「まぁまぁ。それは貴女が会って、話して、そうして決めなさい。もう大人なのでしょう?」

「はい!モエはもう大人です!」


 "尻尾"を左右に振り、喜色満面な笑顔を浮かべた少女が母親だろう人物に答える。


 結局歩いていた妖狐は振り向かず、そのまま街を出て行ってしまった。

急なイベントで出張が入った為、更新速度が落ちる可能性が高いです。

ご了承いただけますと幸いです。


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