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異世界生活の日常  作者: テンコ
第3章 彼女の状況
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3-04

「――と、ここまでがこの数ヶ月の体験です」

「……」

「買って頂きまして、誠にありがとうございます」

「……」

「これから、精一杯奉仕をさせて頂きますので、どうぞ如何様にもして下さいませ」


 女奴隷商から直に手ほどきを受けた口上を少し変えて、買って頂いた方に対して礼をとる。その際に、この色々見えそうで見えない服、裾がギリギリのスカートをこれまたギリギリの部分まで持ち上げる。

 頭は当然少し下げ、顔を少し傾けた。目の前の相手、主人の方が背が高い。角度的に、これもギリギリ見えそうで見えない姿勢を取る。

 若干相手の鼻息が荒くなってきたが、気のせいだろうか。


 傍にはまだ女奴隷商がいる。横柄な態度は取れない。


 無事面通しは終わり、私に掛かっている、

 奴隷の首輪の解除鍵。

 魔力抑制の腕輪の鍵。

 これらを2つが女奴隷商から目の前の主人に渡された。名実共に、主人が居る奴隷になったのだ。まじ凹む。


「どうぞ宜しくお願い申し上げます」


 再度同じような姿勢を取る。そのまま寡黙な主人に手を引かれて、奴隷商会を出た。ふと後ろを振りむと、普段とは違ってニコやかで穏やかな笑顔をした女奴隷商が手を振って来た。

 もちろん、手は振り返さなかった。





「あの……」

「……」

「ご主人様?」

「……」


 手を引かれている為に、そのまま付いて行くしかない。商会の前にあったのはそれなりに豪華な馬車。それに急ぎ押し込まれ、しかも主人も同じ空間に乗り込んできた。

 まるで、外の者に私のこんな恥ずかしい格好を見せたくないと言うかのように。


「あのぅ……」


 先程から何度問いかけても、一言も返してくれないご主人。あ、何か怒ってるのが分かる。そりゃあそうでしょうよ。だって――


「アリエル様、どうかされた「シズナさんッ!」はぃ!」


 いきなり大声を張られた。その声が合図なのか、御者のスルドナさんが馬を動かし始める。あの人何でも出来るな……と場違いに思っていると、それが伝わったのかアリエル様は、


「……シズナさん。わたくしは怒っております」

「は、はい」


 暫く無言だったアリエルさんが、重々しくその口を開いて、


「どれくらい怒っているかと言いますと……あれ、いい例えが思いつきませんの」


 ――開いたは良いが、ちょっと混乱しているようだ。 


「別に例えなくていいのでは?」

「そうですわね。あ、そうそうミリカさんがこの前メ……違います。わたくしは怒っています」

「……」

「貴女が……貴女がど、奴隷になったと聞いた時、どれだけ心配しましたか……ッ!」


 あー、なるほど。やっぱりそれを聞いて、王都から出て買い付けに来てくれたのか。これは申し訳ないと同時に有難い。


「スルドナさんから聞きましたの。なんでもミリカさんから聞いた情報を調べましたら、シズナさんが売り払われた可能性があると……」

「ミリカさん……ああ、確かに出発前に心配させてしまいましたね。それでスルドナさんには……」

「ギルドにいらっしゃる黒熊種の受付嬢を通して、連絡を取り合ったらしいですの」


 確かに、イヴァラさんなら私を中心にミリカさんとスルドナさんを引き合わせられるな。


 これは、本当に運が良かった事なのか。


「それで、態々いらっしゃって下さったのですか。何とお礼申し上げて良いか。でも、危ない中――」

「ご心配なさらなくても大丈夫ですわ。護衛に、ベッティーナさんとミリカさんを連れて来ましたもの」

「!な、なるほど。確かに御2人ならここまで安全に来られたでしょう」

「ええ。それと、ミリカさんも、御怒りですのよ?」

「……」


 この街に、ミリカさんも来てるのか……。


「今日の所はこのまま宿に戻りますの。数日程シズナさんの体力回復を待って、王都に戻りますわ」

「ありがとうございます……あ、申し訳ございません。奴隷として馴れな「結構ですわ」え?」


 言うが早いかアリエル様は私の首輪を外し、その後で腕輪を取り去った。


「……良いのですか?自分で言うのも何ですが、私、高かったのでは?」

「わたくしはシズナさんを取り戻したかっただけですの」

「なるほど。でも、私は犯罪者かもしれないのですよ?」

「スルドナさんとイヴァラさんが調べて下さってます。それでも不安ならこう思ってください。私はスルドナさんの報告を信じたのだと」

「……お金は、頑張って稼いで戻します」

「ではお待ちしておりますの。あ、首輪に関しては念のため、ギルドで取り調べを受けるまでは捨てる事は出来ませんので悪しからず」


 ……こんな幸運は無い。


 自分ではどう頑張っても、どうしようもない状況だったのだ。寿命が長いのでいつか解放、それか奴隷として短い生涯を終える、などの可能性もあり得たのだが、まさかアリエル様に買われるとは。

 ケジメとして払う物は払うのが道理だろう。小さく決意をしているとアリエル様が、向かい合った席からこちら側。つまり私の横に移動してきて唐突に、


「あらシズナさん。この香りは?」

「えっと、さっきの商会で塗り込められた香油です。何でも相手を誘う時につ」


 説明を行為で止められた。それは甘く、蕩けるような。


「……ふぅ、シズナさん?わたくしは貴女を買いました」

「は、はいッ」

「ですが、そんな事では欲しいモノは、手に入らないと思うのです」

「欲しいモノ?確か、別れ際にその様な事を――」

「そうです。わたくしは、貴女が、欲しいですの」

「……ッ!?」


 アリエル様は言うが早いか、再び私に同じ行為を、それも先程より強く。


「んっ……ふぁ。貴女の、心が欲しいのです」

「は、はひぃ」


 基本的にまだ背は私の方が少し低い。


 2回もしたと言うのに、アリエル様はその白い両手で私の頬を挟み込んだ。そのまま――


「…………ふはぁ……はぁ、シズナさん。抵抗は、しませんの?」

「ぁ……ちょっと、混乱していまして。本気ですか?アリエル様」

「本気も本気ですの。それと……んっ……ア、アリエルと、お呼びください」

「……ぅ。様付けは、お嫌ですか?んっむッ」

「他人の、気がして、んっ……遠くに感じますの」

「……ふぁ……なる、ほど。では、ア、アリエルさん」

「……はい」

「さん、付けでお願いしんぅっ……」

「ん……分かりました。今は、それで」


 3回以降、舌が――しかもこんな距離で、そんな、顔を見せられたら……気付いたら、私の両手は彼女の首に回っていた。

 

 こんな体勢前の人生でもしたことないッ。生まれて初めてだが、そう。そんなに嫌じゃあ……ない。


「ふふ、シズナさんも大胆ですのね。嫌がられなくて、良かったですの」

「すみません、買って頂いたのに、こんな事を」

「まだ仰ってますの?では、こう致しましょう。シズナさんは」

「私は?」

「そのお金を返す為に、将来わたくしと一緒に居てくださいませ。もちろん、2人で一緒にお金を稼がないとだめですのよ?」

「え!?」

「わたくしに、貴女のココロを、貰える機会が欲しいんですの」


 それは、私の将来を買われた。と言う事だろうか。え、まさかプロポーズ?私からじゃなくて相手から!?


「シズナさんは、わたくしより長く生きるでしょう。そして、2人で居る間にも、貴女に寄って来られる方も多いでしょう」

「そうですか?ああ、寿命はそんな可能性もありますね」

「ええ。わたくしは、あなたのココロの一部だけでも良いですのよ。それを、頂けませんでしょうか」


 言うや否や、アリエル様は私の腰に手を回し、引っ張り上げてくる。私は両手を首に回したままだ。そのまま、更に顔の距離が縮まり。


 それでも言葉を紡ぐ。


「ほんの少しでも良いですの。子供が出来なくても、今わたくしの理性が、本能が、シズナさんを欲していますの……んむっ」

「……ッ……」

「……はぁ。なんて、甘い……お返事は、またで良いのです。この想いを、知って頂ければ……んっ」

「んむッ…………私、は――」


 返事を返そうとした矢先、馬車の扉が開かれる。思いっきり、見られた。


「お嬢様シズナさん着きましたよあらあらお熱いですお嬢様やりましたね」


 とてもとても良い笑顔のスルドナさんが、こちらを見ていた。


 もちろん私もアリエル様も、暫く固まったままだった。

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