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異世界生活の日常  作者: テンコ
第2章 彼の変化
27/99

2-05

 姉さまの手紙を見た翌日の朝。私は商隊護衛として馬車に揺られ、街に背を向けていた。


 見送りに来てくれたのはリンディちゃんだけ。孤児院の子には内緒にしていたので、渡した手紙で気づくだろう。

 ふと振り返って見た街。今まで11年間育った所は、朝日を浴びてようやっと起き出そうとしているようにも見える。


「外は初めてなんだっけ?」

「そうですね。初めてです」

「良く見ておくといい。やっぱ故郷ってのは特別だからな」


 同じ馬車で揺られているマクイルさんはそんな事を言い出した――でも、私/私の故郷はココだとしても。"私"の故郷は――。


「どうした?哀しいのか?」

「……ええ。でも、思い出はありますから」


 私は、これから多くを見て回るのだ。今は上手く、笑えているだろうか。





 初めての馬車旅はかなりきつい。

 なんと言っても、商売の荷物が詰まった狭いスペースに無理矢理入り込んでいるのに、さらに振動がやばい。どれくらいやばいかって世界がやばい。

 そして馬車に乗ったままで良いのかと言うと、特に問題ないらしい。移動の速さを重視しているし、魔物とかなら気配を探ればすぐに分かるしね。獣人さまさまだ。


 馬車の振動という慣れない体験に顔を顰めていると、ふと視界の隅でふさふさな何かが揺れた。つい掴んで撫でてしまう。


「……シズナちゃん何してんの?」

「……」


 ふと私の手にあるこげ茶色に黒のラインが入ったふわふわな……。


「すみません」

「離さないんだ……」


 ミリカさんの尻尾を掴んでしまっていた。

 何かここ最近、この世界に引っ張られているのか、この身体に引っ張られているのか、私であった頃にしていた自重という単語が消え失せた気がする。

 悪い事では無いのか?真剣に考えつつそのまま尻尾を撫でる。


「櫛……?」

「すみません」


 もう辛抱堪らずお気に入りの櫛を取り出して、リス尻尾に通してしまった。超落ち着く。


「うん……?シズナちゃんどうしちゃったの……」

「すみません」


 暫く、一心不乱にお手入れをしていたらしい。気付いたら馬を休ませる為の小休止に入りそうな時間だった。

 そして丁度お昼時だったので、そのまま昼食にするようだ。気付かなかったのは護衛としては失格なのだろうか……ちらと視線を巡らせると、ミリカさんは寝ていた。いいのか?


「ああ、夜の番の為に寝る事も大事だぜ。何時でも寝れるってのは良い事なんだ」

「なるほど」

「シズナちゃんは飯の準備なー。ミリカは起こして警戒に当たらせといて」


 マクイルさんはそう言って、商人と他護衛の集まっている所に向かった。打ち合わせをするらしい。指示通りミリカさんを起こして、言われた事を伝え、私は薪を拾ったり鍋の準備をする。

 基調な水分と塩を手っ取り早く補給するスープは、野営の基本。姉さまに教わって何度作ったか。他の護衛の料理班と集まってまとめて作る。こういう交流が大事なのだとも口を酸っぱく言われたものだ。


「へえ、シズナちゃんって言うんだ。可愛いね」

「妖狐が1人でいるってのは珍しい」

「俺の娘くらいの年だよなー。ちゃんと食わねえとでかくなれねえぞ」


 ご飯を頂く際に他の護衛から言われた言葉。でも最後には、


 "まぁ仕事の邪魔しないようにしてな"


 この言葉が付く。そりゃそうだ。中の人がアレでも11歳、この見た目の護衛を初見で信じる人なんて逆に信用できない。マクイルさんには魔術を見せたが、彼らは何も知らないのだから当然だな。


「皆さんの胸を借りるつもりで学びますので」


 そう返答するしかない。あまりそう言った事態にならない事を祈ろう。この決意は後に無駄になる。





 今日は何だか思考が纏まらない。気もそぞろになるような感じ。


 何事も起こらず夕刻前に野営地点に到着し、夕飯を食べて不寝の番が最初に当たった今、目の前の火を見ながらそう思う。

 お昼に寝ていたミリカさんと番の順番が一緒だ。初めての見張りで緊張しないようにというマクイルさんの配慮だろうか?


「シズナちゃんもやっぱり11歳なんだねー」

「え?どうしてですか?いきなり」

「今日ずっと沈んでたのかな?ギクシャクしてたよ」


 ミリカさんが木の枝で焚火を混ぜながらそう呟いた。う……心当たりがありすぎて詰まる。


「私も村を出た時は、そんな感じだったかなー」

「……そうなんですか。私は、やっぱりちょっと寂しいのもあって」

「分かる分かる。それまでの関係捨てちゃってるしね。私は村が息苦しかったから、旦那……マクイルと飛び出したんだ。それでも寂しいもんだよー」

「飛び出しても、ですか?あ、昼間はすみません」

「うん?あ尻尾の事か。いいよいいよ。人恋しくなるもんさ」


 今思うと寂しかったのだろう。ミリカさんに不安である事を話したり、マクイルさんとの馴れ初めを聞かされたりしながら、夜は更けていく。





 少しずつ、本当に少しずつ成長しながら、商隊は目的地の王都に向かう。


 他の護衛仲間とも、襲ってきた魔物の対処を共闘することによって打ち解けたり。商人さん達との移動中の会話だったり、街や村での1夜だったり。

 

 移動中私に赤飯が必要な場面もあったりした。

 これには文字通りの意味で本当に腰を抜かしたが、他女性陣が何とか指示してくれて対処出来たのだ。女性の身体になっているからあるとは思っていたが、いよいよ……初めての経験ばかりなのだ。


 ある時立ち寄った街にサーカスのような劇団の噂を聞き、寄ってみた。するとどう見てもカタギじゃない人たちの殴り合いで、その乱闘に飛び入り参加したうちの護衛が数名ボコボコになって商人さんにマジ怒られたり。


 街道で獣人と獣人の抗争に巻き込まれて危うく両陣営から矢を射られそうになった事もある。流石に見過ごせないので、護衛の中の獣人で説得しに突っ込み(奇跡的に護衛も獣人も怪我人が出るだけで終わった)獣人の抗争を止めて酒盛りまで漕ぎ着けたり。


 道中でしばらく一緒になった少し年上の商人の息子。ヒューマン男子(名前も覚えていない)に血走った目で告白されて押し倒されそうになったのでマジビンタで数メートルくらい吹き飛ばしたら、10日くらい馬車から出てこずに彼とはそのまま別れたり。


 農村に着いて補給の為に2日程泊まったら中規模の山賊が襲ってきて、村人からの依頼で大規模な戦闘に発展し、見事守り切って山賊の根城まで潰してみせたり。


 大きな湖が近くにある街の宗教団体の儀式に何故か遭遇して、聖獣認定されたシロクロが襲ってきた信者を、千切っては投げ千切っては投げて最終的に信者は、主人の私を邪神(訳わからん)に認定して逃げて行ったり。


 あれなんか旅の思い出が、意外と血なまぐさい事ばっかりだな……。


 途中街の滞在中に、気分が悪いと言ったミリカさんの妊娠が分かった時は、商隊全員で喜び、お祝いと称してミリカさん以外お酒を飲んで潰れたりした。妊娠中のお酒は厳禁と私が禁止する事にもなった。





 そうして半年、予定していた最速の期間で無事王都に着く。

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