表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界生活の日常  作者: テンコ
第2章 彼の変化
25/99

2-03

 キュクロさんとの話はほぼこちらの要望通りの契約書作成で終わった。

 

 とはいえ要望通りと言っても、賃金は最低近い1ヶ月銀貨60枚。

 食住を保障して貰えるのだから十分だろう、登録して半年に過ぎないの若造としては経験を積むことが出来るので素直に嬉しくもあり。

 まとまった話は形式的にギルドを通して受注依頼という形にし、さっそく今後の予定を伺う。


「この商隊の最終目的地は王都です。半年から7、8ヶ月掛けて他の村、街を巡りながら、ですが。この街にはあと1日ほど補給の為に留まり、2日目の朝に出発予定になっています」


 思ったよりかなり早い。実質明日しかこの街に居る時間が無いのか。薄ぼんやりと、前の世界で上司から次のアニメ商品の担当に指名された時も、急すぎて困惑したなぁと場違いな事が思い浮かんでは消えていく。


「なるほど……では、それまでに準備をさせて頂きます。それに明日は他の護衛の方に挨拶をしたいと思うのですが」


 思いついた件をキュクロさんに伺ってみるのだが、


「お若いのに気が回る事です。その点に関しましては半分必要ありません。マクイルさんと、同じパーティーのミリカさんとの班にすることに決めていますので。明日にでもマクイルさんの泊まっている宿に行ってくだされば」

「旦那ぁそれ聞いてないぜー……まぁ俺たち今2人だしよ。増やそうとは思ってたが……」

「すぐ慣れてくださいね?と言う訳なので、シズナさんは宜しくお願いします」

「な、なるほど。分かりました。では、明後日の朝に北門外の集合で間違いないでしょうか」

「ええ、間違いありません。確認することは、これくらいですね」


 昨日のうちにリーン姉さまには報告をしており、今回は私に決定を任せるらしい。この場でキュクロさんとの契約を決め、マクイルさんの宿を聞き、打ち合わせを終える。

 その後は互いに握手を交わし、私はさっそく明後日街を出る為に奔走する事になった。





 まずはギルドを通して孤児院へ仕送りするための手続きだろう。

 これは簡単だった。


「シズナさん、商隊護衛決まったようですね。頑張ってください」

「お蔭様で無事決まりました。その関係で、ちょっとお願いしたい事がありまして」

「はい、何でしょうか?」

「実は……」


 ギルドを通して依頼をする。

 手数料をいくらか支払って、孤児院宛に私名義で資金を送れるように手続きをお願いしたのだ。

 この世界の技術様々である。

 しかし心残りがあったのだが……。


(結局このウサ耳お姉さんの尻尾見れなかった……)

「シズナさんは、私のお尻をいつも凝視されてますよね」


 お姉さんが小声で、そっと仰る。


「!?」

「私が席を立つと視線が……いつか戻ってらっしゃったら、考えておきますよ?」

「!!?」


 そんな遣り取りをして心の中で盛大に沸き立った後、殊更、殊更丁寧にお礼を言って外に出る。

 もちろん私は、何がですかとは明確に言葉に出していない。

 次は魔道具屋のお爺さんへの挨拶だろう、急いで向かう事にした。店番をリンディちゃんがやっていたので軽く言葉を交わして中に入る。


「リンディちゃん、お爺様はいらっしゃいますか?」

「ええっと……きょうは具合がわるいそうなのです」


 リンディちゃんももう口調が大人びてきた。何気に9歳間近で店番ってすごいよな。


「そう……明日は大丈夫かしら?」

「聞いておきます。どうかなさったんですか?」

「ええ、リーン姉さまの師事が1段落つきまして。商隊に混ざって明後日に街を出るので挨拶をと」

「なるほど。だからきょうは商人の方がおおかったんですか……え!姉さん出ていっちゃうんですか!」

「そんなんです。急な話でごめんなさい……そう言えば姉さまがここに住むらしいんですけど、聞いてますか?」

「は、はい。聞いてますけど……」


 強引に話を変えて、落ち着かせる。悪い事したかなぁ。

 でも、他の卒院生も跡を濁さず飛んで行かれたし、私もそうありたいな。別れって疲れるし。前の人生でも送別会と激励会とか疲れたなぁ……。


「それでは、お爺さんに宜しくお願い致しますね。明日時間があれば伺わせて頂きますので」

「っ、はい。つたえます。姉さま、お元気で……」

「ありがとうございます」


 湿っぽいのは苦手だ。手紙も書くしまぁ大丈夫だろう。魔道具屋を後にして孤児院に向かう。ここでは神父とシスターに話を伝えるだけだ。

 クリシアちゃんもいるし、もう世代交代をしてると思う。老兵は死なず、ただ消え行くのみ、だ。意味は違うがな!


 後は孤児院と言えば、シスターが1人やめたらしい。らしいと言うのは私が知らなかったからなのだ。

 神父によると、一番若いシスタークラリッサが別の孤児院に向かわれたそうなのだ。そこに新しい丁度よくご年配の方が入られたから問題は起こらなかった、と語られた。


「急な話ですね……知らなかった私が言うのも何なのですが」

「私たちも突然の話だったのですが、新しいシスターが門を叩いてくれましたので。これもお導きかと」


 確かにシスタークラリッサは、何となく苦手だった。

 若い子の面倒見は良かったのだが、一度、ものすごい凄惨な笑みを見たのだ。あれは確か……孤児院から男の子が居なくなった事を説明なさった時だったかな。あの笑みは忘れていない。


 そんな事を聞きつつ、神父様とシスター方にお別れを伝え、用意してあった手紙をクリシアちゃん宛に渡すようお願いする。

 別れは苦手だったので、事前に何名かに手紙を認めておいたのだ。その後は一通り商店の顔見知りに挨拶をしていくのだが、


「シズちゃん出て行くのか」

「今年はシズちゃんの番だったっけ」

「ちょっとこっち来な、私の若い頃に使ってた櫛あげるから」

「おめぇ今じゃ見る影もないがな!」

「うるさいよ!あんた夕飯パンだけだよ!」


 温かさに泣ける。

 明後日出ていくことを告げて、ゆっくりとリーン邸に戻る事にした。





「首尾はどうかのぅ?」

「無事、商隊護衛に入れて貰えました。明後日には出発するそうですが」

「ほぅ。随分と上手く行ったようじゃのう」

「はい……リーン姉さまには感謝の言葉もございません」


 夕食後に姉さまが質問してきたときの返答だ。1年近くずっと面倒を見て貰っていたのだ。感謝していないはずがない。その姉さまはと言うと、


「なんじゃ。ワシは言ったはずじゃよ。これはワシの楽しみと。おんしも経験していくぞえ、他の奴より寿命が長い事ってぇのが、どんだけの事なのか」


 最後にきついお言葉を頂く。確かに始め、これは姉さまの手慰みと仰ったが……。


「わぁったらさっさと出て行く準備でもするんじゃな!生きてればまた会うんじゃ。ワシぁ人と分かれる時のめんどくせぇ遣り取りは好きじゃねぇ!」

「は、はい!」


 いきなり怒鳴られて一目散に部屋に戻って翌日に備える事に。姉さまの照れ隠しか!?やっとツンデレきたーとか思ってたら、実に次の日もそんな対応だった。何時も通りかよ!





「来てやったぞ」

「なんじゃ、リーンか。その様子じゃと、全部終わったか」

「ふん、ワシが手ずから育てたんじゃ。何処へ行こうとも生きていけるじゃろうて」


 夜。

 私は魔道具屋のお爺さんの家に来ていました。相変わらずこの人はいい勘をしていますね。


「さっきリンディちゃんからも聞いたからの。明後日、出ていくと」

「シズナの奴も律儀じゃなぁ。挨拶周りなんぞ、面倒にも程があらぁ」

「リーンは苦手じゃったっけなぁ。いつもいきなり居なくなるんじゃから、皆が心配したもんじゃ。嫁も……」

「その話は聞きとぉない。だぁっとれよおいぼれ」


 今更……でも代りにシズナさんを育てたのですから人生は何があるか分かりませんね。


「そーかい。まぁリーンが間に合って良か。もう、ワシぁ長くねぇ」

「義理は通したぞ」

「ありがとよぉ……しかも、ワシの店ぇ手伝ってくれるんもな」


 そうですね……あの子の忘れ形見でもあるこの店ですから、リンディさんが一人前になるまでは、最後の面倒くらいは。


「ほんの気まぐれじゃい」

「……そう思っとるよ。わしの事はシズナちゃんには内緒じゃぞ?」

「わぁっとる。長寿種としちゃあ、生きとりゃいつかは経験する事なんじゃ。でもまぁそれは今じゃなくて良いじゃろう。またいつか伝える」

「ありがとよぉ……」


 先程と同じ言葉を繰り返しました。この人も寄る年波にか勝てないんですね。


「あの世で婆様に報告する事にするわい。リーンが丸くなったぞとな」

「……今回ばかりは、好きにせい……妹に宜しく頼むぞ」


 彼女は、私を恨んでいるかしら。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ