2-02
「そろそろ、おんしは卒業じゃ」
「……はい」
「以前言っておったのぅ。世界を見たい、と。今もその考えは変っちょらんかの?」
「はいッ。私は、私の為に、多くを知りたいです」
大蜘蛛での失敗から3ヶ月。姉さまに師事を受けだして約11ヵ月もの月日が流れた。魔術の訓練も鍛錬も怠らず……偶に休んではいたが。
森中での動き、パーティー単位の戦闘での魔術師の仕事、簡単な依頼の攻略法等多岐にわたり、取っ掛かり程度は覚えた。
『これ以降教える事は無い。実戦で覚えていくもんじゃよ』
そして最後に姉さまはそう仰った。確かに、初心者用の依頼からコツコツと学ばないと覚えないだろう。
「おんしに言っておくことがある」
「はい、何でしょうか。姉さま」
「うむ。実はな、ワシはあのじじいの店で暫く厄介になろうと思っとる」
「魔道具屋ですか?はぁ……リーン姉さまがそう言うなら。あ、リンディちゃんはそのままですよね?」
「だァホ。ワシがあんな娘っ子追い出すと思うちょるんか!……多分大丈夫じゃ」
「……」
「じゃからの。この家も売り払う」
確かに魔道具屋のお爺さんは最近具合が良くない。少し前にお爺さんを見て違和感を感じたのだが、どうもその具合の悪さを感じ取ったのだろう。
本人はただの風邪と言っているし姉さまがそっちに行って、リンディちゃんもいるなら大丈夫だとは思うが。
「おんしは街を出るんじゃろう?出ていく方法は、もちろん調べとろうな?」
「はい。何でも小規模な商隊が近々この街を通るらしいので、その中に入れて貰えないかと思いまして」
「ふむ。まぁ今までの依頼でランクがGか、上手くいけばG+までは上がるじゃろう。ギルドで確認してみぃ」
「分かりました、姉さま」
そんな言葉を受けた翌日、私はギルドに出向いてランクの更新手続きが出来るかどうか、ウサ耳職員さんに相談してみた。
ちなみに彼女の尻尾は外からは見えない。服の中だろうか……ここを出る前には耳だけでも触らせて貰えないかな。尻尾はいつか、と変な妄想をしつつ本題に入る。
「昇格に関してですね……はい、この依頼達成率と魔術、テイム能力なら私の推薦でも問題無いはずですよ。すぐに手続きなさいますか?」
「宜しくお願いします」
「畏まりました。少々お待ちください」
お姉さんにギルドカードを渡して、手持無沙汰に尻尾を弄ってると、
「はぁー疲れたぁ」
「おいミリカ。もう少し辛抱しろ。手続きしたら宿取るから」
「あなたー。手続きも宜しくぅ……」
真昼間のギルドにふさふさした尻尾が2本……じゃない男女1名づつ冒険者風の若者が入ってきた。
亜人だ……あれはリスの尻尾かな?
その彼らが私の隣のカウンター席に座り、到着の報告をしていた。その中に気になる単語が――
「はい、シズナさん。カードの更新終了致しましたよ。無事G+ランクに昇格、おめでとうございます」
「+ですか?失礼ですが、ただのGかと思っておりました」
「ああ、問題ございません。受けた依頼の数と、現状使用なされる魔術の熟練度。あとはテイムしてらっしゃる魔物の総合評価ですので」
「なるほど。ありがとうございます」
「はい。他に御用はございますか?」
「問題等はないのですが……ちょっとお聞きしたい事が」
「はい、何でしょうか?」
「ええっと……」
私はそこで、この街に商隊が来るかもしれない噂を聞いたこと。もし商隊が来た場合、G+ランクでも護衛依頼が受けられるかどうか。そもそも護衛を募集するかどうかを聞いて行く。
チラチラと横の亜人種2人を盗み見ながら。
「そうですね……説明の順番的には最後の質問からでしょうか。まず、護衛募集に関しては不明です。特殊な事例を除き、先方からギルド側に要請等が無い場合は依頼として出せません」
「そう……ですか」
「はい。次にですが……ランクの件は正直分かりかねます。理由としては、護衛を選ぶ際はギルド側からの推薦の他、依頼主若しくは同じ護衛から認められなければ受けられないからです」
なるほど。相手との信頼関係が無い場合、実力を示せ……と言うことか。
「最後に、その商隊護衛の方なら……すでに到着されていらっしゃると思いますが」
ですよねー。横の男女がそんな話をしている。
「以上です。ご助言出来ますとすれば、横で話してらっしゃる方達に話しかけるのが得策でしょう」
「ありがとうございます。試して砕けてみますので」
「そうですか。御武運を」
ウサ耳お姉さんと変なやり取りをしつつ、横2人の話が終わるのを待つ。手続きも含めて体感5分くらい後に彼らは席を立った。
その後を追い、
「すみません。少々宜しいでしょうか?」
「うん?うおっ、隣に居た子か」
「綺麗な子ねー。こんにちは、どうかしたのかしらぁ?」
突然だが話かける。
軽装の皮鎧らしきもので各所を覆っている冒険者の2人。姉さま以外の人に冒険者の事で相談をするのは初めてだが、何事も経験だろう。
「宜しければ少々お時間を頂いても良いでしょうか?」
「何かな?ああミリカはもう無理だな。ごめん宿取っておいてくれるか?」
「りょーかーい……さっきのお姉さんに聞いた所でー……居なかったら伝言残すからぁぁ」
何とも間延びした喋り形で女性はギルドを後にした。私は残った男性とギルドの2階部分、共用スペースに腰を落ち着ける。ここは冒険者や依頼人、他関係者用の場所だったりするらしい。私はさっそく喋り出した。
「その、宜しかったのですか?」
「?ああ、ミリカの事か。仕事の話がしたかったんだろ?じゃ、早い方が良い」
「なるほど……単刀直入にお伺い致します。貴方方はここに着いた商隊の護衛と考えて宜しいでしょうか」
「随分情報が早いな。さっき着いたばかりなのに。まぁ合ってるよ、商隊の護衛だ。他にも数名いるがな」
「そうですか。こちらも単刀直入にお聞きします。商隊護衛の増員は必要ですか?」
「分からん」
「……」
すぐさま切り捨てられる。
「戻ったら商隊の代表に聞いてみる。要相談だ。しかし君みたいな若くて綺麗な子がこんな仕事かぁ」
「あ、ありがとうございます?」
「明日の昼頃にまたここへ来れるか?代表は気が早い人だし、さっそく話してみようとか言うと思うんだ」
「は、はぁ……」
何か決まってしまった。面接?
「肝心な自己紹介を忘れてたな。俺はスクィール族のマクイルってんだ。さっき会った女も同族なん……まぁ仕事を受けたら会うだろう、その時に色々聞いてくれ」
「あ、申し訳ございません。妖狐のシズナと申します。それで、色よいご返事ありがとうございます」
「そうか?じゃ、縁があればまたな」
短時間で話をまとめ、颯爽と去って行くマクイルさん。
私もこれくらいの話術と決定権があれば窓際から卒業出来ていたのだろうか……詮無い考えが浮かんでは消えるが、振り払ってリーン邸に戻る事に。
その日は姉さまに状況を報告して終わった。
翌日、御昼どきより早くギルドに到着し、カウンターの職員さんに待ち人の件を伝えて2階の共用スペースに移動しておく。
四半刻も待っていないだろう、お昼丁度頃には1階から呼び出しが来た。商人さんは気が早いってのは本当だったな。
すぐさま1階に降りて、目に入ったマクイルさんの方へ向かって行く。横にいる中肉中背のヒューマンが商人さんか?
「あなたが魔術師のシズナさんですね?お若いのに美しい方だ」
カードの色で確認したのだろう。しかし男に評価されても、なんか首筋と尻尾がムズムズするだけだ。どうせなら女の子かr……違う違ういや違わないのか落ち着け。
「はい。突然の提案をお聞き下さり、ありがとうございます」
「ほう、これは……私はこの度商隊の代表を務めさせて頂いております、キュクロと申します」
挨拶を交わし、ギルドで用意いて貰った個室に移動する。さっそく、
「昨日こちらのマクイルさんから聞いた所によると、シズナさんは護衛として売り込んでいらっしゃったとか?」
「はい、間違いございません」
「ふむ……魔術師殿が加わって下さるのは喜ばしいのですが……失礼。勝手ながらギルドで確認させて頂いた貴女のお年とランクを考えるに、実力的なモノが分かりませんとこちらも判断しかねます。これは、契約形式を考える以前の問題だと思われますが、どうなされますか?」
という事は11歳ってのはバレてるのか……この様な対応をしてくれると言う事は、一応対等近い相手として扱って貰えてるのだろうか?そこまで分からないが……まぁ当たって粉砕されよう。
「はい。その点に関しては問題ございませんので。機会を頂けますと幸いです」
「……では、後はマクイルさんに任せますので。貴方に審査は任せますよ」
「旦那ぁー、本気ですか。まぁ、良いですけど。じゃシズナちゃんだっけ?動き見るから訓練場にでも付いて来て」
「畏まりました」
さくさくと話は進み、訓練場に着く。緊張しつつ待っているとマクイルさんが、
「じゃ、俺に当てないようにいくつか簡易魔術撃ってよ。自信あるんだろう?」
「……?」
「俺の後ろに魔術を通してくれれば良いの。分かる?」
いや、言いたい事は分かるが。
「あっれーおかしいな……魔術師の登録試験では制御を見るって言ってたのに……」
ああ、あの試験の事か。けど、それを生身で?
「あの……危険では?」
「大丈夫大丈夫。これでも危ない時は避けるから。安心して……ってのは無理だと思うけど、まぁ当たっても職員さんに治療頼むし。旦那が」
「私としましては貴方が無事であることを願いますがね。ミリカさんに文句を言われますし、主に治療費的な意味で」
「ひでぇ」
いいのだろうか?じゃあ、集中して――
「いきます」
「おう、こいこい。あ、暫くしたら、こっちから適当に攻撃する。防げよ?」
……はいぃ?ま、まぁ集中して――
「シズナが請う、燃ゆる矢の力を、相為す者に」
相手が避けやすいように、目に見える炎の矢をいくつか。それをマクイルさんの傍ぎりぎりを通して背後の1点に収束させる。
「ひゅ~、術の選択も精度もいいね。そんな感じ。じゃ、次は俺動くから」
んな勝手な!暫く同じ魔術を行使して、動き回るマクイルさんに向かって術を飛ばし続ける。
「いい感じだ。次いくぞー!」
そう言ってマクイルさんは、ポーチから何か手に持って私に勢いよく投擲してきた。それを咄嗟に避けて、次の投擲は火の矢を放つ間に詠唱を終えた物理障壁で弾く。簡単に言えば魔術で構築した力場――だろう。術式は分かっているが、私には物質や原理が分からない。
いい音を出して弾かれた物。良く見ると、露店でよく見る木の実だ。
「いいねー。シズナちゃん、合格」
ん?え?
「旦那、結構良い。魔術師の基本は出来てるし、今の商隊に魔術師居ない。安全を考えると雇った方がお得だぜ。あと妖狐の子だし」
「マクイルさんお疲れ様です。そうですか、ではシズナさん。契約の条件を詰めましょうか」
「は、はい……ありがとうございます?」
呆気なさすぎない?もっとこう、暑苦しい展開を想像していたんですけど……そんな期待を裏切られた私は先の個室に戻ってキュクロさんと雇用形態について話し出した。
ご意見、ご感想をお待ちしております。




