side-A・ショセン
「フムフム。なるほど……なるほど。関節部には、丸い玉が入っている……のかな? それを薄い膜で覆っている……か? ――噂には聞いていたが、ビューティードールというのはとんでもない傑作だな――」
山脈にある魔族の隠し砦――そこのボス――ブロードは、空を飛んでいた所を捕えた二つの存在をじっくりと観察していた。
――一つは、空を飛ぶための技術を使って作られたと思われる物体……それに、ダンジョンコアの力で誰かがダンジョンモンスターとした存在――
ゴーレムタイプ、なのだろう。独創的なデザインだが、空を飛ぶという特性は、しっかりとつけられている――
そしてもう一つは――この広いダンジョン大陸のあちこちで、ごくごくたまに――本当に運がよければ見かけることがあるという―――――噂に名高き存在、ビューティードール!!
小人のような大きさであるものの、美しい人間の姿をしており、それぞれに何かしらの変わった特徴が備わっているという――
実際に見た事がある者が少なすぎて実体をつかみきれていない。
知ったかぶりな魔族の中には、仙人のような隠れ人形師が作り上げ、ダンジョンモンスターとして生み出した物……と言っている奴もいるらしいが……それならば、この広い大陸各地で目撃証言があるのはおかしい――
「分解して中身を調べてみたい、ところだが……」
ブロードはビューティードールを弄んでいた手を放し、ごつごつした自分の手を眺める――
「下手に壊したくはない――もしかしたら、大魔王レイナガルデ様への献上品にできるかもしれないしな――」
ブロードはそのゴツイ見た目とは考えられないほど丁寧にビューティードールを触っていたが、それでも壊してしまうんじゃないかとヒヤヒヤしていたくらいだ――
「ダンジョンコアを使えば、同じようなものが作れるか? 芯となる物があれば形はどうにかなりそうだが……」
「ケケ…人形遊びでっか? ブロード将軍…」
そんな時、背後から部下の魔族が声をかけてくる――
「お前は……確か、パラン……」
声をかけてきたのは、伝令役の一体だ。
人の姿では貧相な小男だが、魔獣の姿は高速飛行が可能な鳥形魔族である。
「何の用だ?」
「砦に近づく人間と、ようわかんねえモンスターの集団を見つけしやした――」
騎乗用のモンスターを連れた人間が、やってきたという事だろうか?
「ならばお前と同じ飛行型魔族と共にひっとらえてこい!! このビューティードールと共にこのベリア王国を大魔王レイナガルデ様に献上するためにな!!」
「へへ~!」
そう言ってパランが出ていったのを見たブロードは再びビューティードールの確認に戻るのであった。
「人間共よ! おとなしくついて来い! 命だけは保証してやる~!」
空を飛ぶ何体もの魔族が一行を襲う!!
「こいつら何者!?」
「覚えておくといい!! こいつらが魔族じゃ!! どうやら正式な魔王軍というわけではなく、はぐれ者のようじゃがの!!」
見た事のない生物に少し嬉しそうな表情をする大地に対し、ナパーラが説明する。
「どうやら、俺様の国の民たちをさらっている事件の真犯人たちは、こいつらで間違いないようだな!!」
ジータがそう叫び臨戦態勢をとる!!
「俺様は、ベリア王国第一王子ジータ・ベリア!! この国のものはすべて俺様の物!! それを奪うことは断じて許さん!!」
「ジータ…ベリア? 王子? 王子王子!!」
「「「「王子、王子!!」」」」
対する魔族たちも相手が誰かわかったらしく、ざわめき始める――嘲笑じみた物であるが――――――
「行くぞ!! お前ら!!」
今、ここにいるジータの仲間たちは豪将ナパーラと宮廷魔術師マジュリッツ、そして敵方に捕まったらしいリクから出ている信号を追っている大地――それと、バウザー城の中から連れてきた強そうなモンスターのみ!!
ジータの身の回りの世話をしているメイドのキュキュとリュリュ、そしてバウザー城の主である六花とケアルンは置いてきた。ちょっとこの戦いには、ついて行けそうにない!!
そう、ここにいる彼らは強い!!
「えい!! やあ!!」
ビシュ!! ビシュ!!
後方から空を飛ぶ敵にめがけて大地が弓で矢を放つ!!
その弓は機械じかけのコンパウンドボウ!!
両端についた滑車と幾本もの絃で威力を高めた矢を撃つ!!
その矢も大地を持つダンジョンコアの力によって文字通り大地から作り上げることができる!!
「バトルヒューマノイド用の武器のため、コンパウンドボウの構造を頭に入れておいたのさ! これが吾輩の知識チートだ!!」
その威力はこの世界のどんな弓矢よりも数段強いうえ狙いも正確!!
魔族の強靱な体なら、ごくありきたりな弓矢ではダメージが通らない――そう、タカをくくっていた連中を次々と撃ち落とす!!
「“サンダー”!!」
ビシャ~~ン!!
両手を天に向けたマジュリッツが雷の魔法を発動させ、同じように空を飛ぶ魔族を撃つ!!
「このマジュリッツ、伊達にベリア王国の宮廷魔術師は名乗ってません!!」
「おのれ~!」
魔族方も上空というアドバンテージを使っての投石や魔法によって攻撃する――が、彼らに与えられていた命令は人間たちをさらうこと――
――命までは奪わない――
――少しビビらせてやればおとなしくついてくるだろう――
――間違って殺してしまっても食っちゃえばいい――
なんて気持ちでいたために、攻撃に真剣さがなかった。
それ以前に、人間というものを舐めている――というのもあるだろうか……………
ボスボスボスボス!!
魔族たちの攻撃も、前に出たダンジョンモンスターたちによって防がれる!
ここに連れてこられたのは、六花のつくり出したモンスターたちの中でもことさら耐久性が高いものたちばかりだ。
前衛のモンスターたちが魔族の攻撃を防ぎ、後衛の大地とマジュリッツが弓矢と魔法で迎撃する!!
そして、
「うおりゃ~~あ!!!!!!」
ゴウン!!
巨大な戦斧を振り回すナパーラが突撃し、地面に落ちた魔族たちを叩き潰す!!
「ひ、ひいいいいいい!!」
「に、逃げろ~!」
こうして、無力な人間をさらうつもりで来た魔族たちは、散々に敗れ――ごく一部は隠し砦に逃げ帰ったが――多くはここで命を落としたのだった――
「俺様の力、思い知ったか!!」
ジータ王子はその光景を見て、得意げに言った―――――




