side-A・ロウゴク
「さっさと来い!! 来ねえと殺すぞ!!」
「早くしろ!! 人間ども!!」
ガラの悪い魔族の集団に捕まった人間の行商人と、その護衛たちは、絶望の表情で山間にある隠し砦の、奥へと連れてこられた――
「将軍ブロード殿、連れてまいりました――」
「おう、ご苦労だったな!!」
行商人たちはそこで初めてこの砦の主という、魔族ブロードを目にする――
―――――巨獣凶獣、そして狂獣―――――
そんな言葉が、ブロードを見ていると思い浮かんでくる……
「わ……我々を、どうするつもりだ……?」
「俺様たちの、魔王レイナガルデ様に忠誠を誓え!! 俺様たちの奴隷になれ!! ベリア王国そのものを、レイナガルデ様に献上するためにな!!」
「何っ!? そんなこと!! できるかぁ!!」
「あ、ま、待てカーン!!」
行商人が止めるのも聞かず、一人の護衛の男がブロードに向かって飛びだす!!
が――――――!!!!!
ブン……ジャラ!! ビュン!! ドグ!!
ブロードが大きく腕を振りかぶり、投げつけた――先端にデカい鉄球のついた太い鎖が、男の頭を無残にも打ち砕く!!
「うっ!!」
物言わぬ物体となって倒れ伏した男に、行商人と他の護衛たちは絶句する――
「「ブロード将軍! 食っていい? 食っていい?」」
「ああいいぜ!! 俺様はアンデットタイプなんぞを作る気はさらさらないからな!! 死体は餌にするだけだ!!」
周りの魔族の何体かが魔獣の姿に変化し、倒れた男に群がり食らいだす―――――
「で、お前らはどうする?」
行商人は青くなった顔で魔族たちを見る――残った護衛たちの顔は様々だが……
「フン………まあいい、空を飛べる奴はその人間共をあそこへ連れて行け!! 即断即決ができるやつは希少だからな!! 考える時間は必要だろう!!」
「「おお!!」」
バサバサバサ!!
男の死体をむさぼっていた魔族や新たに翼を持つ姿に変わった魔族が行商人たちを捕まえる――
「ど……どこへ……連れてゆく気だ……?」
「あそこだ!」
ブロードが指し示す先――隠し砦の奥に――四角い物体が…………浮かんでいる――!?
「ふ、浮遊鉱石……」
行商人は己が置かれた状況を一瞬忘れ、その価値を算出しようとする――
浮遊鉱石――源魔王レイナガルデの持つ浮遊魔城やノーヴェル・マシーが妻を得たという噂のある天宮ミュージアム等、空に浮かぶ建造物の主要構成物質!!
魔法によるものかどうかは定かではないが、浮遊鉱石は、浮く!!
空に浮く、宙に浮く、とにかく浮く!!
そして、時々落ちる……………
欠片だけでも手に入れたならば聖大陸等に住む金持ちの好事家に、高値で売ることができるだろう―――
それが――遠目に見るだけでも小さな広場くらいの大きさのものが、浮いている――
行商人はその価値を算出し――その直後に、甘い考えだったと思い知らされる―――――
その上には、何人もの人間たちが乗っていた。
ただ単に広さのある一枚の板のような物の上に。
もちろん、四方に壁なんか存在しない。
かなりの高度があるのに、下の地面は荒地である。
「宙に浮かぶ牢獄……」
噂で聞いているよりも、捕われている人々の数は――少ない――
恐怖に負けて、魔王に忠誠を誓ったか――?
それとも、落ちて餌となったか――?
「さあ、乗っとけ! 安心しな! 一日一回、水と食料ぐらいはくれてやる!」
魔族にそう叫ばれ、行商人と生き残りの護衛たちは空中の牢獄に落とされる…………
ガチャン、ガチャン、ガチャン………
行商人たちが空中の牢獄に落とされると同時に、派手な音を立てて同じ高にさブロードが現れる――
「…………鎖…………?」
ブロードは今、魔獣体ではない――魔人体では飛行能力を持っているようには見えない。いや、魔獣体でも変身を見ていない以上、持っているかはわからないが……
それでも、この空中牢獄と同じ高さまで上がってきたのはブロードの持つ鎖がらせん状に変化し、ブロードを持ち上げているのだ―――――
「リビングチェーン、ダンジョンコアによって誰かの心を込められたダンジョンモンスターなのか……?」
商人にとって情報は命―――――このダンジョン大陸でもっとも価値があり、もっとも危険なものが何なんであるかはよく知っている……………
―――――ダンジョンコア――――――
物体の、いやあらゆる存在の形を好きなように変形させ、様々なものを作り上げる。
それにマスターの心をわけ与えることによって、自己判断で動くモンスターと化すこともできる。
――その気になれば巨大な迷宮さえも作り上げることができるという――
かつては大陸全土を支配していた大魔王レオンガルデが、ほぼ独占していた――
だが、それに対抗する勇者グレイドがわずかばかり手に入れ仲間の勇者の軍のメンバーに与えていたという――
――ダンジョン大陸――ダンジョンコアの恐ろしさを知る者たちはこの大陸をそう呼んでいた――
しかし、魔王軍と勇者の軍の最終決戦でどちらの軍も壊滅――大魔王レオンガルデも勇者グレイドも共に死ぬという最悪の結末になった時、ダンジョンコアは大陸中に散らばったという……
ダンジョンマスターが死ねば、後継者に権限を託していた、何かしらの魔法を事前に仕込んでいた等の例外を除き、ダンジョンコアによって作られたダンジョンもダンジョンモンスターもダンジョンアイテムも消滅する―――――
そして、その後に残るのは強大な力を秘めつつ危険で高価なダンジョンコア、というわけだ――
ただし、それらは魔王と勇者両軍の壊滅後に起こった世界的異常気象の混乱に乗じて、当時レオンガルデに次ぐ力を持っていたという何者かが、あらかた回収してしまったという……
「よく聞け!! 今から貴様たちに俺様が魔王レイナガルデ様に仕えることがどれほど素晴らしい事なのか、俺様が教えてやる!!」
ブロードのデカい声が行商人の思考をぶった切る――
見ると、彼らをここまで運んできた空飛ぶ魔族たちもブロードの周りに集まっている……………
そしてそいつらはどこからともなく楽器を取り出し……
ドン♪ ドン♪ ドドド♪ ドン♪ ドン♪ ドドド♪ ドン♪ ドン♪ ドドド♪
「偉大なる♪ 偉大なる♪ 大魔王♪ 大魔王レオンガルデ様の後継者♪ 後継者♪」
いきなり、歌いだすブロード―――――
「「「「レイナガルデ♪ レイナガルデ♪ レイッナガルデッさ~ま♪」」」」」
周りで飛んでいる魔族たちも楽器を演奏しながら歌いだす―――――
「勇者さえも配下にできるそのカリスマ♪ その者こそまさに大陸の王♪ 絶対王者♪ その名はう・る・わ・し・き~~♪」
「「「「レイナガルデ♪ レイナガルデ♪ レイッナガルデッさ~ま♪」」」」」
「ああ~~♪ 今あのお方は、今♪ 何をなさっているのか~~♪」
「“爆発”!!」
ドウン!!
魔族たちの歌を聞かされていた人間たちの一人――行商人の護衛の魔法使いが、爆発の魔法で空に飛びあがる!!
「うわあああああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
爆発の余波で空中牢獄が大きくぐらつき何人かが落ちるが魔法使いは気にせずブロードに突撃する!!
「お、おい!! やめろ!! イルダ!!」
行商人が静止しようとするも、もう止まらない!!
「ヘタな歌うたってんじゃね~~~~~!!!!!」
「はぁ!? ヘタな歌、だと!?」
ドゴン!!
何の策も持たずただ突進してきただけの魔法使いを、ブロードは拳一つで粉砕する!!
「―――――ふざけるな!! 歌と踊りは魔族の矜持!! 俺様はレオンガルデ様の前でも披露することがあったほどの踊り手なのだぞ!!」
そのまま地面に思いっきり、魔法使いの亡骸を叩きつけるとブロードと、
「気分を害した!! まあいい!! 俺様たちと共にレイナガルデ様に忠誠を誓うというのであれば歌と踊りに満ち溢れた生活が待ってるってことを覚えておけ!! 人間ども!!」
そう言い放ち、ブロードたち魔族は地面に降りていく……
「く……」
地面に叩きつけられた護衛の魔法使い、そして魔法使いの爆発魔法で地面に落ちた者たちを確認することはできない――……………先に殺された護衛と同じく、魔族の餌にされるているだろう……
地面から距離があり風の音もあるので、そういった声が聞こえないのが唯一の救いか……………
空中牢獄の端にいれば、何かの拍子に落ちてしまうかもしれない……
人間たちは自然と中央によることになる……
行商人も、残った二人の護衛と共に、その中に加わる……………
行商人の護衛は、5人いた……
うち、二人はブロードに殺され、残る二人はそばにいる。
そして、最後の一人は……………
「六花、君は何を思って『ケアルンアドベンチャー』の世界を異世界で再現しようとしたんだ?」
「え~と……元々はケアルン&バウザー物の同人誌を作ろうと思ってたんだけど、私には絵心が足りなかったんだよね……AI作画も試してみたんだけど、どうもしっくりこなくて……」
獅子戸大地と野原六花が、異世界の人間が聞いても理解できない日本人独自の単語を交えて会話している。
「で~~次は、V-MCの動画を作ろうと思って~そこでまず、ケアルンのヒューマノイド手に入れたの――その時に、」
「ゴージャスな不審者にこの世界に連れてこられたってわけか」
「そゆこと♪ で、その時もらったダンジョンコアでこのバウザー城とバウザー軍団を作ったの」
ベリア王国の王子ジータとその仲間たちは、ここ、六花が作ったというバウザー城を拠点に、この付近の事件の調査をしていた……
「てかなんで私のダンジョンを拠点に?」
「色々と便利だから、だろ? この城お前のダンジョンだ。ここにいるバウザーをはじめとしたダンジョンモンスターたちには、お前の心が宿っている――それらをこの周辺に放ち、情報収集に当てる――」
「えっと、なんか私……便利な道具屋、みたいな扱いをされてない?」
「まあ、チート持ちの日本人転移者なんて、この世界の者から見れば究極の便利屋だろ? まあ吾輩は、吾輩の野望のためにジータ王子たちを利用している立場、だがな」
「じゃあ、その利用ついでであなたのダンジョンとダンジョンモンスターを使えばいいんじゃない?」
六花の質問に、大地は肩をすくめて答える――
「吾輩はまだ自分のダンジョンを作ってはいない――というか、ダンジョンモンスターも、このリク以外はいない――」
大地はバニー姿の美少女アンドロイド、リク・ドゥ・リネをなでながら言う――
「えっ? それでよく一国の王子様と一緒に行動できるわね……」
「まあ、そこらへんは、結構いろいろとあったからな」
肩をすくめてそう答える大地――
「吾輩の野望――そのために、奇跡はいくらあっても足りない―――――」
「…………ねえ、六花…………獅子戸大地って人、なんかこう……どこかうさん臭くない?」
大地と別れ、バウザー城の奥の自室でジータ王子に仕えているというメイドのリュリュからもらったお菓子を食べながらくつろいでいる六花に、ケアルンが問いかける。
「ま、それは確かに…………でもさ、異世界で会った日本人って、ラノベとかアニメとかじゃ、かなり重要人物でしょ! てっ事はさ、私が主役のこの物語でも、獅子戸大地は重要人物ってことにならない?」
「そうかなあ……?」
ケアルンは六花の心とは別にこの世界で六花が生きていくための知識、そしてこの世界で六花がとった行動を記憶しさ六花が死ぬか日本に帰還した時にその物語を天宮ミュージアムに寄贈するための魔法がかかっている。
「だから同じ魔法がかかっている獅子戸大地のリクとは物語を記録したくないんだよな……同じ物語を、楽しんでもらえるとは思えない……」
「何か言った? ケアルン?」
「なにも」
同じ心から分かれたはずの存在なのに、違った思考を巡らしているころ――また同じ心をわけられた者がやってくる――
「マスター――部下たちが負傷者を発見した!」
ジータ王子たちにやられた傷を修復された六花のダンジョンモンスター、バウザー――とその部下たち――
「かなり重傷!! 今、王子様たちが手当てしている!!」




