side-A・激突? 異世界勇者vs日本人勇者
「ダンジョンを攻略…………って、どういう事?」
双頭竜グロービスとの戦いで乱れた息を整えながら、ノヴァがわけのわからないといった表情でアニスを見る――
「……ノヴァ……貴方はこのダンジョン大陸でどこか一つでも、ダンジョンを攻略したことはある?」
「え……? そんなのない、けど……?」
「そう……じゃあ、勇者の先輩としてダンジョンというものをレクチャーしてあげるわ」
ガツッ―――――
そう言ってアニスは持っている剣を舞台の床に突き刺す――
「“伸びろ”!!」
ギュン!!
「ええっ!?」
突然、アニスの剣が伸びる!!
その勢いでアニスがノヴァに急接近!!
「まず、ダンジョンでは見た目判断は大きな間違いを生む――見た目は武器でも移動手段だってこともありえるわ!!」
「そんなのわかるか!!」
ドゴ!!
体当たりでノヴァを倒し、その頭の上に立つアニス!!
「……シャルロッティさん、後で私の魔力パターンを教えます――除去魔法は使えますか?」
「うむ、もちろんじゃ」
突然、アニスに声をかけられた物知りばあさんがそう答えると、
ビシッ!!
「――!?」
「“濁れ”!!」
ドロッ……
アニスが魔鏡に指を当て、魔力を流し込む――!!
「ええ……!? 何したの!?」
「これでそのフラッシュの魔鏡は私の魔力を除去しない限り光を放つことはできないわ――覚えておきなさい、ダンジョンを攻略する時に使うアイテムは大切に扱わないと、すぐに無力化するのよ」
「えええ!?」
バッ!!
起き上がって兜を外し――――
「フラッシュ! フラッシュ! うわ、本当に光らなくなってる!! かっこいいギミックだったのに~~……」
光らなくなった事を確認したノヴァは魔鏡を兜ごと投げ捨る――!!
「頭を守る必要はないの? ダンジョンで弱点をさらせばそこを狙われるよ――」
ドガ!!
アニスのハイキックがノヴァに当たる!!
「いっつ!!」
鼻血を吹き出し、後ろに下がるノヴァ!!
「く、くそう!! 電撃!!」
バリバリバリバリバリバリ!!!!!
どうにか体勢を立て直し電光野太刀に電撃をまとわせ――大きく振り落す!!
カキン!!
アニスが少し剣を動かし、野太刀を防ぐ!!
「ハハハ!! 僕の電光野太刀には雷撃の力がある!! 僕の勝ちだ!!」
「知ってるわ――さっき双頭竜に使ってたじゃない……これも覚えておきなさい――ダンジョンも、学習するということを――」
「え……………?」
アニスは先程ノヴァに接近するために剣を伸ばしていた――その剣は、まだ伸びたままで剣先は舞台に、刺さったままだ………
「私が雷の性質を知らないと思っていたのかしら? 同じ攻撃が何度も通用すると思わないことね」
アニスの剣に伝わった電撃は地面に放電されダメージにならない――
「ひっ!!」
バシ!!
再び繰り出されたアニスの顔面へのハイキックをどうにかよける!!
ガランガラン……
だがその衝撃で電光野太刀は、ノヴァの手から離れて地面に落ちる!
「あああああ~~しまったぁ!」
ノヴァは、慌てて拾おうとするが―――――
「“ハンマー”!!」
ポン!
アニスが自分の伸ばした剣を掴むと、声と共にその形状が変化する――地面に刺さった長い剣からハンマーの形に!!
ヒュン!! バギ!!
「あああああ~~~~~!!!!!!」
地面に落ちた電光野太刀は、アニスのハンマーの一撃でバギッと折れてしまう!!
「武器破壊――ダンジョン攻略中にこんな事が起こったらどうするのかしら?」
「え……ええ~~えええええ!!!!!」
慌ててノヴァは、キョロキョロと周りを見る。
「あ、あれだ!!」
そして、電光野太刀を手にした時に落とした剣を見つける!!
バン!!
だがそれを拾う暇もなく、アニスがその剣を踏みつける!!
「………貴方は、弱い――何で勇者なんか名乗ろうとしたのかわからないけど、その弱さではこのダンジョン大陸で生き残れない―――――」
「何で!? 何で!? 異世界に転移した日本人はチートの力で無双できるはずだぞ!?」
『いやいや、そういうのは漫画やアニメだけの話だろ?』
『しかもチートって……ゲームとかでルール破りのズルって意味だからね。ズルして力を手に入れたっていうのは、私あんまり好きじゃないのね~~』
ファロの目のカメラから映像を見ていた真一と梨乃亜が、ノヴァの叫びに突っ込みを入れる。
「しかし、アニスはかなり強いんだな……いや、ノヴァ……あの北川藤士郎ってヤツが弱すぎるのか?」
『どちらも、じゃない? 一応剣道だけなら学校の授業でもやってるでしょうけど、実戦経験なんて皆無でしょうし――』
『だから剣の握り方などの基本の形だけはどうにかできていたのか……』
『真ちゃんは剣を持って戦うなんて真似、できるのかしら?』
『……これでも昔、親父に叩き込まれた事があったから、ほんの少し、なら……』
『へ~~じゃ、真ちゃんが異世界転移した方が北川藤士郎より戦えるってことね』
『断言はできない――だが俺は、異世界に転移しない系の主人公だからな――異世界に行って戦う事がそもそもない』
『でも、行かなくて正解かもね――チート……ズルがなけりゃ戦えないなんて言っている時点で恥さらし、だもの』
「そこ!! 何を好き勝手言っている!!」
日本からの中継中も何発もアニスからの攻撃を顔面にくらい、顔をはらせ、鼻血を垂れ流しながらぶっ倒れたノヴァだったが――日本からの心無い会話に立ち上がり、泣きながら抗議する!!
だが、その足つきはフラフラで、今にも倒れそうだ――
『だったら日本に戻って来いよ。今のお前は異世界に転移した勇者だって粋がっていながら、女の子一人にも勝てていないんだぞ』
モニターの中で真一があきれた口調で言う。
『ごめんね。アニス―――――かなり手加減をしてくれていたんでしょ?』
梨乃亜はアニスにそういう――
『だって衣食住と安全が確立している日本でのほほんと暮らしていた中学生が、戦いが日常の異世界の勇者に勝てるわけがないもの』
「まあ、ね……これがレイナだったら殺していたかもしれないわ」
「アニスちゃんもリノアちゃんも失礼だよ! レイナちゃんだって殺さないように手加減することぐらいできる!!」
レイナがちょっと怒った口調でそういう。
「じゃあそのレイナに頼む――あいつを、勇者ノヴァを日本に送り返してくれ」
ファロが、自分たちの目的を思い出したかのようにいう――
「わかったわ♪」
ポンッ♪
ファロの言葉にこたえてレイナが虹色に光る羽を取り出す。
「“開け異世界への扉よ”」
カカッ!!
―――――日本でノーヴェル・マシーが作り出した物よりは小さいが、十分な大きさのピンク色の扉が出現する。
「アニスちゃん♪ その子をこの扉に放り込んでくれる?」
「わかった」
アニスがボロボロ、フラフラのノヴァを、お米様だっこで持ち上げる。
「待ちなさい!! 勇者ノヴァはこの世界に救いという芸術をもたらす者!!」
ノヴァをピンク色の扉に放り込もうとした時、抗議の声が上がった!!
「ポ……ポラリス4世?」
「その物語はまだ始まったばかり!! それなのにこんなところで終わらせるわけにはいかない!!」
階段の上で美少女アンドロイドのポラリス4世が叫ぶ!!
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「勇者ノヴァの物語は、まだこんな初めの方で終わっていいものではない!! 魔王を倒し、異世界を救う――または長い戦いの後、志半ばで力尽きるか――どちらにせよ、素晴らしく長い物語を作り上げてこそ、芸術として完成する!!」
ゴゴン、ガガン、ドドン!!!!!
「と……灯台が……!」
ポラリス4世を中心に異形の塔が人型に変形する――!!
ドスン……ドスン……
「何じゃあれは!?」
巨大な人型に変形した塔が動き出す!!
「そうか。あれはダンジョンだったな!!」
アニスの戦いを無言で見ていたフルカスが、ここでようやく声を出す――
「舞台の上で襲い掛かってきたゴーレムタイプダンジョンモンスターの超でかいヤツ、といったところか!!」
「う~~ん、ダンジョンモンスターならモデルとなる実物か、ちゃんとした設計図が必要なはずだよね? 塔の造形からしたら、人型モンスターの造詣が巧みすぎない?」
「人型のモデルなら最初からあっただろ!! ――あのポラリス4世って美少女アンドロイドが!!」
プルルルルル!!
動き出した巨人を見てファロは飛行機に飛び乗る!!
「出番だぜ!! ―――――オレ―――――」
「……ワイと関わる場合は、関西弁で頼むわ」
「わかっとる――」
飛行機のハッチが開き、ファロがそこに入り込む―――――
「「ヤッタルデー!! スクランブル!!」」




