side-J・動画投稿は自己責任
「え!? 違う!? でも声紋解析って前TVでやってたぞ!? ある俳優の長いインタビューのほん一部だけを、よく似た声の声優の物に変えても、そこだけちゃんと抜き出していたし」
「それと声優はまったく関係無いでしょ? 人間の声はすべて違うから、私たちの耳では違いが分からなくても、コンピュータで解析すれば一発でわかるらしいわ」
「そうなのか?」
「家電レベルの音声認識システムでは、一卵性双生児の声を同じものと間違える事もあるとは聞いたことがあるけど、これは誤差の範囲内でしょうね」
ここは日本、神城真一たちが通う高校のヒューマノイド研究部・部室―――――
部長の東屋皐月をはじめとした何人かの部員がゴージャスな不審者ノーヴェル・マシーによって異世界に連れ去られて以降、ノーヴェル・マシーが犯人である異世界誘拐事件に関わる事になった真一&同じ研究部員の浅科梨乃亜が、超常自衛隊から貸し出された異世界にアクセスできるというハイスペックコンピュータを使い、異世界に行った真一の心を持つガイノイド・ファロとの交信をしていた――
そして、つい先日――異世界で日本人がいるかもしれないとの報告があり、その結果待ちだった――
『顔認証システムで合致率80%・音声認識システムで合致率95%、よってこの人間は90%の確率で行方不明者の一人・北川藤士郎であると思われます』
ファロから送られてきた異世界の映像――そこに映っていたよくわからない不可思議な建造物から伸びる階段――その下にある何かの舞台の上には真一たちが知る2人の少女、レイナとアニス以外に何人かの見たことない人間がいた。
立派なヒゲをたくわえた――片方のヒゲは少し崩れているが――よく似た二人のおっさん――
無精髭で少々生気のない顔をした薄汚れた鎧を着たこれまたおっさん――
高級そうなローブで全身を包んだおばあさん――
そして、コンピュータの行方不明者データで北川藤士郎という日本人と特徴が一致した綺麗な鎧を着た少年――
そして、多少の改造痕が目立つヒューマノイド。一見すると女性型のガイノイドだが、改造痕が判断すると男性型を女性型に魔改造した美少女アンドロイドのようだ――
「ま、この中で誰が異世界転移した日本人かって聞かれたらコイツって言うよな」
「北川藤士郎――14才――中2、ひと月前くらいから行方不明……」
『ふざけるな!! 僕は勇者ノヴァだ!! 日本人の北川藤士郎なんかじゃない!!』
モニターの中で、北川藤士郎……と思われる男が叫んでいる!!
「ノヴァ……ノヴァね、じゃあこの“ノヴァノヴァチャンネル”ってV‐MCの動画チャンネル、お前のやつか?」
真一がモニターのカメラに向けてスマホの動画を向ける。
『えっ!? ノヴァノヴァチャンネルを視聴してくれたの!?』
V-MC――VIDEO My CHANNELの略で個人の動画投稿サイトである。
「……語るに落ちるわね……」
「ちなみに、お前……この“ノヴァノヴァチャンネル”一回目の動画で、思いっ切り本名……言っているぞ……」
『え? ええっ!? 嘘!!?』
「ほら、このところ――」
動画のタイムラインを操作し、ある部分で止める――
「字幕表示が見えるか? “僕はキラガワトーシロー”って――字幕は若干間違ってるけど、本名を動画内で言っているだろ?」
『あああああっ!! 本当だ!! あ、あの!! パスワード教えるからその部分を編集でカットしてくれない!?』
「断る。編集がしたいなら異世界から日本に戻ってきて自分で編集しろ」
「それにしても、この動画――かなりいただけないわね……」
モニター越しに北川藤士郎――ノヴァと会話を続ける真一の後ろで梨乃亜が言う――
……おそらくこの会話を聞いている異世界側で理解できているのは何人いるのか……
「いただけないって――?」
「このノヴァノヴァチャンネルにいくつか“アンドロイドの魔改造動画”があるんだけど……」
「……“アンドロイドの魔改造動画”って……男性型のアンドロイドを美少女アンドロイドに改造する過程を動画に流すってやつか?」
ちなみに、アンドロイド魔改造動画とは―――――
1・アンドロイドを用意します。
2・男性型のアンドロイドをどんな美少女に改造するかを提示します。
3・改造用パーツ、工具もきちんと用意します。
4・魔改造シーンを動画撮影します。(動画投稿サイトの規定に引っかからないよう注意)
5・完成――魔改造前との比較、またガイノイドとの違いを解説。
というのが基本である。
別に最初からガイノイドを使えばいいじゃんとか、エッなのを期待してたら機械いじりをしているようにしか見えない動画が延々と続いたとか色々な意見がある動画である――
「でもそれって、このヒューマノイドブームの現代じゃ、珍しいものじゃないと思うが?」
「この北川藤士郎君の動画、魔改造に軒並み失敗しているのよ」
「何っ!」
真一はモニターから目を離しスマホで動画を確認する。
「おい……北川藤士郎――……お前何体のアンドロイド魔改造を失敗しているんだ?」
『え? ええっと……成功したのはこのポラリス――』
『そういえば、その肩の上にいるビューティ・ドール……』
『ポラリス4世とか言っていたな』
『ノヴァ、前からそのビューティ・ドールと知り合いだったのか?』
モニターの中、北川藤士郎の後でおっさん3人がそういった会話をしている。
「4世……って事は……4体目という意味か? つまり、少なくともそれまでは3体のアンドロイドを犠牲にしているという意味か?」
「1体目は外部を外した時についうっかり机から落っことして粉みじんにしてるみたいね。2体目は……」
『あ、2体目はポラリスマークIIだったから! 3体目はポラリスVIVAⅢ!』
「そんなどうでもいいことは聞いてないわ!! 2体目も3体目も……この動画を見る限りかなり雑に扱ってない……?」
「なんだそれ? ヒューマノイド研究部の者として許せないな……!!」
「そうね……北川藤士郎――今すぐ日本に帰りなさい!! そしてヒューマノイド研究者として一から勉強しなおしなさい!!」
『そんなこと、できるわけないだろ!! 僕はこの世界で勇者になるんだ!! ポラリス4世!! 僕が勇者になるために作った、僕の考えた最強の装備を、今ここで出してくれ!!』
『え? まだノヴァは試練を突破していないよね?』
『いいから!! だって今目の前に魔王ちゃんがいるんだ!! ここで使わなくて、いつ使うの!?』
『了解――最強勇者の装備を貴方――勇者ノヴァ様に与えます――』
『僕が異世界の日本人、北川藤士郎じゃなくて勇者ノヴァだってことを、ここで証明してやる!!』
「これ、Ⅴ-MCに投稿したらどんな反応があるかな?」
「やめなさいよ、麻理姉や七瀬さんに怒られるよ」




