side-A・町の住人たち
「「お~~い!!」」
遠巻きに様子を見ていた町の住人たちが、四人の元へ近づいてきた―――――
「やはり! や~~は~~り~~!! 大魔王レオンガルデ様の祟りじゃったのか~~!?」
そう言って物知りばあさんが騒いでいる。
「というか~~その子供は何者じゃっ!!?」
「え? あ、僕は……この世界を救うため、きらびやかな神の導きによりこの世界へとやってきた、勇者の~~ノヴァ!! …………って名前です……………」
物知りばあさんに詰め寄られノヴァが、思わずそう答える――
「勇者!? 勇者?! 勇者♪ 勇者、じゃとぉ!!?」
物知りばあさんの絶叫に近い叫び声と共に、周りの住人たちもざわめきだす――
しかしそれは、ノヴァの想像していたものとは違う雰囲気のものだった――
「え? 何? 勇者って、なんかヤバイの?」
「お前はぁ!! 大魔王レオンガルデ様の軍勢と共に滅びた勇者の軍の生き残り!! だ~~と~~言うのか!!?」
「あ、いや僕はあの塔の試練をクリアして勇者になろうと思っていて……」
「いや、それはないだろう」
何か言い訳をしようとしているノヴァの背後で、フルカスが言う――
「魔王軍と勇者の軍が共に滅びたのは5年前だ」
「それは知っておる」
「えっと……?」
「その勇者の軍の中で生き残りの一人――アニスは現在17才――あの当時なら12才で、軍内最年少だといわれていた――じゃあこいつはその時、幾つだったって言うんだ?」
ノヴァは見たところ、まだ15才になっているかどうかもわからない程の子供だ――どう見ても、5年前に軍にいたとは考えられない――
「う、う~~む、確かに……そう言われれば、そうじゃな……」
物知りばあさんがジッとノヴァの目を見る――
「ち、近いよばあさん……」
「……じゃあ、一体全体、何者なのじゃ?」
「僕は、勇者になるためにここに来た……」
「嘘をついているわけではなさそうじゃな――」
「つまりは、勇者に憧れる子供というわけであろう」
「うむ。子供の憧れは否定する物ではないのである」
グロービス兄弟がポンッとノヴァの頭に手を置いてそういう――
「わかった!! そういうもの、じゃな!!」
物知りばあさんがそう大きな声で言うと、町の住人たちのざわつきも幾分か静かになる。
そして、町の住人たちのノヴァを見るほんの少しだが目が優しくなった……
「で、灯台の異変はどんな感じだ?」
物知りばあさんのそばで話を聞いていた灯台守が、グロービス兄弟に言葉をかける。
灯台守にとって灯台は自分の住家でもあるので、当然気になる案件だろう。
「変な舞台に上がったら……周りにあった石像が動いて襲いかかってきた」
「なんか変な女の声でこれは試練だとか言ってきたのである」
グロービス兄弟が今さっき経験したことを話す。
「そうだ! あれは勇者になるための試練で……」
「その声の主らしき存在はあの舞台から伸びる階段の上――扉の前にいた――小さな女の人形、みたいだったな――」
ノヴァの声を遮ってフルカスが言う。
「小さな人形!? もしや!? 最近大陸各地で最近現れたといわれる、噂のビューティ・ドールか!!?」
「「「「「ビューティ・ドール!!!!!」」」」」
物知りばあさんの声に周りが再び騒がしくなる―――――
「ビューティ・ドール……最近大陸各地で目撃情報のあるという、いわば大陸伝説……」
「新種のダンジョンモンスターとも言われているが、詳細は不明!!」
「ダンジョンモンスターの種類、ゴーレムタイプ、アンデットタイプ、エレメントタイプどのタイプにも当てはまらないという美しき造形――!!」
「女型が多いとされるが男型も時折見かけるという!!」
「かつて、ダンジョンモンスターのハーレムを作ろうとして、自らの造形力では不可能と悟ったあるダンジョンマスターはこう言った!!」
「「「「「『ビューティ・ドールさえあれば自分の願いは叶っただろう』、と!!!!!」」」」」
ノヴァの勇者宣言よりも、明らかに周りのテンションは高い―――――
「フルカス――あの状況でよくそんな所を見ているな! 感心したぞ!!」
「噂に名高きビューティ・ドール……もしその美しさが本当ならば、一度でも見てみたいものだ!!」
グロービス兄弟も、周りの熱気に負けないくらいのテンションで言う――
「……まあな……」
「あの~……勇者である僕よりも、ビューティ・ドールってやつの方が重要、なの?」
周りは、ノヴァの事をほぼ忘れている……
「よし、われらの力を結集して灯台の異変を解決し、ビューティ・ドールをゲットするぞ!!」
「うむ、兄者!! それを使って町おこしをするというわけであるな!!」
「その通り!! では家に戻り、我らの武器を用意してこようではないか!!」
そう言って去っていくグロービス兄弟――
「あ、あの~~」
他の町の住人たちもそれぞれの事を口にしながら――特に、ビューティ・ドールの話題をメインとしながら去っていく。
「さて、勇者に憧れる子供、ノヴァよ――お前さんは、今日どうするつもりじゃ?」
周りの人たちに無視されて戸惑いを隠せないノヴァに、物知りばあさんが声をかける。
「え? ええっと……すいません、考えてませんでした……」
「なんか、普通に怪しいヤツだな……」
「怪しさで言えば、フルカス、お前さんも似たようなもんじゃろ……ま、よい。今夜は家に来るがよい。この町の名物――新鮮な魚料理をごちそうしてやろう!!」
「え? えっと……いいんですか?」
ノヴァは強引にその手を引っ張っていこうとする物知りばあさんにそう言った――
「覚悟しろよ……この町の魚料理は他の場所で食べられるものとは勝手が違うぞ……」
何度か物知りばあさんの家で飯をもらっているというフルカスが古含みのある言い方をする――
「お前も来るがいい、フルカス――明日も頑張ってもらわなければいかんからの」
「あ、自分もいいっすか? 今日寝るところがなくって――」
そう言って灯台守もついてくる――
「おうおう!! にぎやかな夕食になりそうじゃな!」
「ああ、この町名物の魚料理を目の当たりにした子供の驚く顔をしっかりと見物させてもらおう!」
その日、物知りばあさんの家での夕食――出された生魚の刺身を、驚くことなく口にしたノヴァに、フルカスと灯台守は逆に驚かされることになる――
「お醤油、ない?」




